第115話 続・発展する集落

 コボルトの集落はこの数日で急に活気づき始めていた。


 それは、コウ達が来訪して色々と教えてくれたことが理由である。


 コウは目に輝きを宿して自分達の村を作ろとするコボルト達に、エルダーロックの村と同じものを感じ、知っていることを色々と教えた。


 特に若くコボルト達のリーダーになれそうな活発的なドッゴには一日中傍についてもらってコウ達の様子を観察させた。


 そうすることで、このコボルトの集落の全体把握をしてもらうことにしたのだ。


 そして、老いたコボルトのオルデンは頭がよく物知りなので、そのドッゴの相談役になってもらうことにした。


 オルデンは冷静だし、物書きもできるので、人族との交渉などでも活躍できると踏んだのだ。


 これまでは、誰がこのコボルトの集落のリーダーをやるのかわからず、命令されるがままの受け身の状態であったから、オルデンも口を挟むことなく静観していたので、いざ、リーダーをよく知っているドッゴにしたことで、オルデンも動きやすくなるだろう。


 他にも力がある大柄なコボルトには村の警備隊長になってもらい、部下を付けて集落を守ってもらうことにした。


 平和な間はひたすら訓練してもらう為に、コウがその指導も行った。


 ダークエルフのララノアと村長の娘カイナは魔法の才能があるコボルトを探して魔法の基本を教える。


 その魔法がこの集落の役に立つことができることを学ばせ、やる気を出させた。


 こうして、コボルト達はコウ達の指導の下、一人一人がそれぞれ仕事を持ち、責任をもって集落の為に働く体制を作ることに成功したのであった。


「ふぅ……。一応、基礎的なことは、教えられたかな」


 コウはコボルトの集落滞在から五日目、そろそろ村に帰ることを考えながらそう漏らした。


 この期間ずっと傍にいてコウから学んでいたリーダーのドッゴは、それをすぐに察したのか、


「もう帰るのかワン……?」


 と寂しそうに言う。


 わずか数日の間にコボルトの集落はすでに村としての体裁を整えつつある。


 元々コボルト達はまじめで命令されたことを忠実に実行する能力があるから、良き指導者がいれば問題なくこの村は発展できるはずだ。


 その指導者もドッゴと相談役のオルデンがいれば何とかなりそうだし、基礎の部分はコウ達も教えることができたと思っている。


「もうすぐ、人族がこの村に食料の運搬に来るんでしょう? それまでには退去しておかないと、よそ者の僕らは最悪の場合、捕らえられることになるかもしれないから」


 コウはそう答えたが、元々この集落を偵察したらすぐ帰るつもりでいたので、これでも滞在しすぎではあるのだ。


「……うちの若者をコウ達の村まで数人同行させることはできないかワン?」


 ドッゴがオルデンと話し合ったのか、エルダーロックの村に勉強の為に優秀そうな若者を向かわせたいようであった。


「……どう思う?」


 コウはみんなにどうすべきか聞く。


「いいんじゃないかしら? お父さんも反対はしないと思う。アイダーノ山脈という難所が間にあるとはいえお隣さんだし、仲良くできるならそれに越したことはないと思うわ」


 村長の娘カイナが賛成意見を口にした。


「問題は山越えの道問題だろうな」


 髭なしドワーフグループの三兄弟の長男ワグが、山越えの大変さを考えて指摘する。


「それじゃあ、私の氷の精霊フロスに安全で近道になりそうなところを探してもらいながら帰ることにする? そこを後から整備すればいいんじゃないかしら?」


 ララノアも交流を持つこと自体反対することなく前向きに今後のインフラ整備にも言及した。


「じゃあ、そうしようか。ドッゴ、明日の朝一番で帰郷するから同行する若者を決めておいてくれる?」


 コウはみんなの意見をまとめて決定すると、ドッゴに帰ることを伝える。


「わかったワン! すぐに決めるワン!」


 ドッゴはこれからもコウ達との繫がりができることが嬉しいのか別れを惜しむことなく嬉しそうに応じるのであった。



 そして、翌日の朝。


 ドッゴはコボルトの若者五人を選んで準備をさせていた。


 この日は、コウ達一行との別れを惜しむコボルトの住人達ほとんどが、見送りの為に集まっている。


「こんな数で見送られるとは思っていなかったよ」


 コウは嬉しそうな笑顔を浮かべてドッゴに告げた。


「当然だワン! このコボルトの村はコウ達のお陰で発展の道が拓けたのだからみんな感謝しているんだワン!」


 ドッゴはみんなを代表してそう答える。


「その通りだワン。儂らだけではこのまま、四散するかこの場で朽ちていくしかないところだったワン。コウ達には感謝しかないワン」


 ドッゴの相談役であるオルデンも感謝を伝えた。


「わかっていると思うけど、みなさん! 村の発展はこれからです! 自分達の力で自分達の村を守っていってください!」


 コウは、コボルト達に向き直ると、大きな声でそう告げる。


 すると、コボルト達は、


「「「ワオーン!」」」


 と答えると、全員で吠え始める。


 どうやら、みんなで決意表明を行っているようだ。


「……本当に、ありがとうワン」


 ドッゴは改めて感謝を述べるとコウと握手を交わす。


 コウは笑顔で頷くと、コボルトの村をあとにするのであった。



 そして、帰りの山道。


 ララノアが契約を交わした氷の精霊フロスの先導で、エルダーロックの村までの道のりで一番近い道筋ルートを案内してもらっていた。


 進むところは道なき道で、急な斜面などもあったが、コウの土魔法で、進みやすいようにそこに道を作っていく。


 それは坂道だったり、階段だったりだが、元が何もなかったことを考えるとかなり楽にみんなが進めている。


「それにしてもフロスの進む方向、越えてきたところとは全く違うところだよね」


 コウは道を土魔法で作りながら、氷の精霊フロスの先導が本当に正しいのか少し心配して疑問を口にした。


「フロスはちゃんと近道を選択しているって。──あ、コウ。この壁に穴を開けるように言っているわ」


 ララノアは精霊フロスの言葉を代弁して答える。


「この壁? ……えっ? この山に穴を開けるってこと!? まさかアイダーノ山脈に横穴を掘らせようとしているの!? そんなことし始めたら何年かかるのさ!」


 コウはフロスの最短距離は自分の労力を無視したものであるようだと解釈して、当然の指摘をした。


「……違うみたいよ。フロスが言うには、ここの東側に穴を掘り進めると洞窟に繋がるんだって。その洞窟がエルダーロックの村に近いところに繋がっているそうよ」


 ララノアはフロスの言葉をそう代弁する。


「それが本当なら、掘り進める価値ありそうだね……。よし、ワグさん、グラさん、ラルさん。僕達の出番だよ!」


 コウはそう言うと魔法収納鞄から採掘道具を人数分取り出す。


「「「おう!」」」


 三兄弟もドワーフの本領を見せる時とばかりに元気よく返事をすると、反対することなくツルハシを手にして、フロスが指定した壁に対して掘削を始めるのであった。

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