第116話 近道の開通
コボルトの村をあとにした、エルダーロックの村までの帰り道。
コウ一行(
そして、現在、コウ、ワグ、グラ、ラルを中心に絶賛横穴掘削中である。
ちなみに、掘った際に出る石や土、岩の類は掘った傍からコウが魔法収納鞄で回収しているからとても効率的であった。
「さすが、コウだな! 一振りで硬い岩盤もバターのように掘っちまう!」
髭なしドワーフグループの三兄弟の長男ワグがコウの掘削力に感嘆しながら自らも岩盤を掘り進める。
すでにコウ達四人で数十メートルをわずか三時間で掘り進めていることからも、それが驚異的な速度であることがわかるところだ。
そして、掘っているコウには、洞窟に反響する音で鉱石の場所や空洞などもわかる『鉱脈探知』能力を持っている。
もちろん、『超掘削』能力や『超怪力』、『土完全耐性』まで持ち合わせているから、コウにとって坑道は庭のようなものである。
それこそ余裕で、掘っている先に氷の精霊フロスが指摘する空洞を確認できていた。
「──もうすぐ、掘り抜きます」
コウがそう告げて数十秒後──。
コウ自慢の超魔鉱鉄製一等級ツルハシが岩盤を掘り抜き、大きな空洞に突き当たった。
「「「おお!」」」
一緒に掘っていたワグ、グラ、ラルは歓声を上げてみんなでハイタッチを交わす。
ララノアやカイナ、コボルトの若者五人は、出入り口を隠す作業を行っていた。
フロスの指示通り、この坑道が開通したら緩衝地帯であるアイダーノ山脈を最短で横断できる道になる。
それを誰かに知られたら悪用される可能性は十分あったから、その為の防止策であった。
「おーい、みんな! フロスの指示通り洞窟に繋がったよ!」
コウが出入り口に向かって、大きな声で報告する。
声は坑道内を反響して出入り口にいたララノア達にもすぐに届いた。
「早っ! ──わかった! でも、もうお昼だし、こっちで食事しましょう!」
ララノアは今日は丸一日かかると思っていたのか、昼までに作業を終えたことに驚くのであったが、すぐに返事をすると、カイナ達と食事の準備を始めるのであった。
コウ達と数時間ぶりに外で合流した一行は簡単な食事を終え、坑道の中に改めて入る。
一行は魔導具のランタンで照らしながら、綺麗に掘られた坑道を真っ直ぐ進み、すぐに広い洞窟に到着した。
コウはその洞窟と坑道の繋ぎ目の足元を土魔法で整備し、歩きやすくする。
「方向的にあっちに向かえば、エルダーロックの村に着くのかしら?」
村長の娘カイナが、広い洞窟内から続く道の一つを指差した。
広い洞窟内には、手前から下る道や、右手から上っていく道、正面からそのまま真っ直ぐ進める道、左手にも下る道の四か所があり、カイナはその正面の道を指し示した。
ララノアの契約精霊フロスは浮遊していくと、カイナが指さした道の方に進む。
どうやら、正解らしい。
「それじゃあ、安全の為、他の道は土魔法で塞いでおくね」
コウは他の洞窟に迷い込むことがないようにそう言うと、早速、土魔法で他の道を塞ぐ。
「残念だな。ドワーフとしては未知の洞窟は飯のタネなんだが。がははっ!」
ワグが三兄弟を代表して、探索したい気持ちを告げる。
グラとラルも長兄ワグに賛同するように頷く。
「今は、コボルトの村との道を確保するのが第一だからね。それが済んだら後日、探索に来ても良いと思う」
コウもやはり、ドワーフである。
ワグ達と同じ気持ちであった。
「ふふふっ。ドワーフは本当に穴が好きなのね。私はこんなに暗くて不気味なところ、怖いから早く先を急ぎたいわ」
ララノアは正直気持ちを口にする。
どうやら、カイナも賛成なのかララノアの言葉に頷いていた。
ベルはしきりに周囲の臭いを嗅いでいたが、コウが洞窟の道を塞いでしまうと、それも止めた。
どうやら気になる臭いがしなくなったようだ。
コウ達一行は、フロスの示す正面の洞窟を土魔法で安全にしながら、進むのであった。
五時間ほどなだらかな洞窟内を余計な道を塞ぎつつ進んでいると、土砂が崩れて通れないところに到着した。
コウは試しに壁面を金槌で叩いて『鉱脈探知』能力でこの先を確認する。
すると、音が戻ってこない。
つまりそれは、この先が何もないので反響しない外であるということだ。
「ここを取り除けば、外みたい」
コウはそう言うと念の為、ララノアに氷の精霊フロスの答えを確認する。
ララノアからも、
「この先は外だって」
と返事が返ってきた。
「よし、最後の掘削だな! コウ、ツルハシを頼む」
ワグがコウに預けていたツルハシを要求する。
「ワグ、ここは岩や土が崩れて塞いでいるだけだから、魔法収納鞄で回収すればすぐだよ」
コウは笑顔でそう答えると、魔法収納鞄を掃除機のように使用して、ドンドン目の前の小さい岩や石、土を回収していくのであった。
コウの回収作業は十五分ほどであっという間に回収し終えて、外への道が繋がる。
念の為、コウが、出入り口の周囲がまた崩れないように、土魔法で固め、念には念を入れると少しトンネル状にして、外に出る形にした。
「これで、次回からは数時間も洞窟を進めば、コボルトの村まで戻れるはずだよ」
コウはそう言うと、外に出た。
その場所は、眼下にエルダーロックの村が一望できる。
「こんなところに続いていたのね! ──行きは雪山越えで大変だったけど、帰りはヒンヤリする程度の洞窟を数時間進むだけだから、便利になったわ」
ララノアは外に出て背伸びをすると、大きく深呼吸して感想を漏らす。
「ふふふっ。本当ね。でも、雪山越えのお陰でこの三頭の剣歯虎と仲良くなったし、ララは氷の精霊フロスと契約できたから、苦労した分、良いことも多かったわよ」
カイナはそう今回の旅を締めくくる。
「コウ、この剣歯虎の三頭は俺達に預けてくれないか? このアイダーノ山脈地帯についてはこの三頭がいるとこれからも頼りになると思うんだ」
ワグがそう言うと、グラ、ラルの二人もうんうんと何度も頷く。
「僕は全然かまわないけど、ベルや君達はどう?」
コウは当人である剣歯虎達にダメもとで聞く。
するとベルが、
「ニャウ!」
と応じ、三頭もそのベルの判断に委ねるかのように、
「「「がう!」」」
と返事をした。
「はははっ! いいみたい」
呆気ない決定に思わず笑いがこぼれるコウであった。
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