第114話 発展する集落
コボルト族の集落で楽しく一晩を過ごしたコウ一行は、翌朝にはすぐ若いドッゴと老いたオルデンの二人が間に入り、他のコボルト達にも紹介してもらった。
前日に家を一軒たった半日で建ててしまったこともあり、コボルト達はコウ達に興味津々であったから、仲良くなるのは容易であった。
「家の建て方を教えてくれないかワン? あそこに建っているみすぼらしい家が俺んちなんだワン。でも、自分で作ったらこんな立派にはならなかったワン」
「俺も頼むワン! 掘立小屋じゃ、隙間風が寒いワン」
「この集落には家を建てる技術がある奴いないから、教えてほしいワン!」
コボルト達は無秩序に立てた掘立小屋にぎゅうぎゅう詰めで寝泊まりしているらしく、四百人あまりもいるが、それに比べたら家の数は少ない方かもしれない。
「そうですね……。早く丈夫な家を建てて生活の基盤を作らないと、ここを拠点として活動できないでしょうから、いいですよ!」
コウは承諾すると、すぐにコボルト達を集めて、用意されていた木材の加工から道具の使用方法などを班に分けて指導する。
ダークエルフのララノアは、家を建てる場所を計画的に決めるように、若いドッゴや老いたオルデンに説き、みんなに徹底させるように告げた。
村長の娘カイナは、土魔法で土地の整地の重要性を説き、見本を見せる。
ワグ、グラ、ラルの三兄弟髭なしドワーフは、その整地場所で加工木材の組み立ての仕方を教えていく。
こうして、秩序の無いコボルトの集落はコウ達の指導の下、みんなで家を建て直す作業を始め、一日の終わりには、簡単だが、丈夫で隙間風もはいらない立派な家が十棟以上建つのであった。
これにはコボルト達も大喜びである。
ここに強制移住させられて半月、家一つ建てるのにも苦労していたのが、コウ達の指導であんなに大変だった家も、楽しく、だが、丈夫なものが何軒もあっという間にできてしまったのだ。
感謝以外に言葉が出てこないというものである。
コボルト族自体はとてもまじめで、しっかり技術を教えこめば、それを忠実に行う性格の種族だ。
だが、このヘレネス連邦王国では差別対象として扱われているから教育も受けさせてもらえず、無知ゆえに生き方も限られている。
その為、底辺の労働力として単純作業しかさせてもらえないから、成長できなかった。
しかし、コウ達に丁寧に教えてもらったことで、それを学習して家を作ることができるようになったのである。
コボルト達にとっては大いなる進歩であったから、喜びもひとしおであった。
そんな親しくなることができたコボルト族の現状は、良くないものであった。
ここに連れてきた人族達は家作りの建材と生活に必要な道具類一式、定期的な食糧の運搬くらいでお金もろくに支給されず、この場所に放置されているのだという。
確かにそんな扱いで、「ここに村を作って住め」と言われても、絶望しかなく逃げ出す者がいても不思議ではない。
実際、当初いた五百人のうち、約百人くらいは逃げ出してすでにいないし、他の者達も定期的に配給される食糧が途絶えたら、生活道具を持ってここから逃げ出すであろうことが容易に想像できた。
だが、コウ達の指導で立派な家を建てられたことで自信がつき、その目にも生きる希望が芽生えつつある。
「次は食糧調達ですね!」
コウが若者のドッゴにそう提案する。
「食料は一週間ごとに人族が運んでくるワン。 昨日が丁度その日だったから困ってはいないワン」
ドッゴが食糧事情は切迫していないことを告げた。
「いつまでも、人が食料を配達してくれるかわからないですよ? まずは自給自足できるようになって、もしもに備えないと。お金が無いとあっては、それが村の最低条件だと思います」
コウはドッゴ達コボルトは労働力を提供して日銭を稼ぎ、それで食料を調達する生活を送っていたから、自給自足に疎いようだ。
実際、農業に従事した経験を持つ者も、単純作業として畑を耕すことはあっても、それ以外に携わることは許されていなかったようである。
つまり、耕す以外の時間は別の仕事を探して働いていたということだろう。
「では、グループを分けましょう。こちらから、ここまでのみなさんは、区画を決めて、畑作りを。みんなでやればあっという間ですよ。さらに、ここからここまでは、今から狩りの為の指導を行います。弓矢の使い方から、罠の設置の仕方、槍も役に立ちますよ。そして、あとの方は、川からこの集落へ水を引く作業を。トイレの設置も重要です。この地に住むのなら、糞尿は貴重な資源です。ただし、放置すれば土地を汚染させることもありますが、一か所に集め、そこに家を建てる際に出たおがくずや刈草、ある時は籾殻などを混ぜて発酵させることで糞尿は堆肥化します。それに糞尿を放置すると疫病の原因にもなるので、トイレは決まった場所で行ってください」
コボルト達は自分達が知らないことを教えてくれるコウ達に目を輝かせて何度も頷く。
コボルト達はこれまで単純作業のみをやらされてきたから、知識を踏まえて丁寧に説明してくれる指導者がいなかったので、こういう説明はまともな扱いを受けているようで嬉しかった。
「それでは、みなさん、各自に割り当てられたことをこなしてみましょう。もちろん、向き不向きがありますので、その時は言いに来てください。入れ替えたりしますので」
コウの言葉はどこまで新鮮だった。
「給料を払っているんだ、黙って言われたことをやれ!」というのが、雇い主の常套句だったからだ。
コボルト達は報酬は出ないが、自分達の住むこの土地の為に働く喜びを強く感じるのであった。
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