第100話 新たな問題

 コウ達の住むエルダーロックの村は、アイダーノ山脈地帯上にあり、そこは、バルバロス王国とヘレネス連邦王国の緩衝地帯となっている場所である。


 その緩衝地帯であるアイダーノ山脈のバルバロス王国側に村を作っているのだが、その高い山々に遮られて隣国ヘレネス連邦王国側にはまだ、辺境ということもあってエルダーロックの村の存在は知られていない。


 だが、それも、ダーマス伯爵が商人を利用してヘレネス連邦王国側に情報を流し始めていた。


 ちなみに、そのヘレネス連邦王国は、三つの中小王国が生き残りをかけて合併してできた国家である。


 合併と言っても三つの国の境界線はあり、その三つの境に作った都が王都になっている。


 三か国の王家はその王都に移り住み、旧王都には各王家の代表を据えてそれぞれの領土を統治している状態だ。


 アイダーノ山脈を緩衝地帯にしてバルバロス王国と国境を接しているのは、このうちの一つ、セイレイン王家の領土である。


 そのセイレイン旧王都は、比較的にバルバロス王国の国境線に近いところにあるから、ダーマス伯爵に雇われた商人達が情報を流すと早い段階でセイレイン領土を統治する代表の耳に入った。


「何? バルバロス王国側の緩衝地帯に村が出来ている、だと?」


 代表は部下の報告を聞いて驚く様子もなく、聞き返す。


「はい。あちら側の商人から聞いた話なのですが、昔、問題になったことがあるダーマス伯爵領のところらしいです」


 部下は、商人から詳しく聞いた話を、一言一句間違えないように伝える。


「また、あの伯爵のところか。確か先王の時代にも一度揉めているが、その時は、鉱山も掘り尽くしてからようやく廃村にして問題が解消された経緯がある。我も資料を読んだことがあるが、あの地は土壌汚染もあって井戸水が飲めない状態だったはず。今さら人が住めるのか?」


 代表は魅力のない土地だとわかっているので、逆に同情すらしそうな声色で部下に聞き返した。


「なんでもドワーフが住み着いたそうです」


「ドワーフ? あそこの国は我が国以上に異種族に対する差別が色濃いところだからな。どうせ、追い詰められてあんな住めない土地に流れてきたのだろう。放っておいても数年で消滅すると思うが、緩衝地帯のことは全て我が国との国際問題だ。外交上、抗議はしておくが、揉めない程度の軽いものにしておけ。あと、こちらも、異種族をあちらの反対側に強制移住させて同じように村の一つでも作らせておこう。相手の対応次第ではこちらも同じことをするぞ、という警告も含めてな」


 代表は部下にそう申しつけると、これを口実に国内の異種族を少し減らせるとほくそ笑むのであった。



 その頃、エルダーロックの村では──。


 コウが、旅の支度をはじめていた。


 それは、『軍事選定博覧会』の帰りに契約を交わした『五つ星ファイブスター』とのコラボの為に、剣六本、槍二本、斧一丁、刀一振りの合計十点をコウとイッテツが仕上げ前まで鍛錬したものを約束の場所まで運ぶことになっていたのだ。


 当初はヨースがその役目をやる予定だったのだが、鉱夫ブランドの仕事として大口の仕事が入り、そちらに対応することになった為、コウが代わりに向かうことになったのである。


 当然ながら、ダークエルフのララノアと剣歯虎サーベルタイガーのベル、村長の娘カイナも同行することになった。


『五つ星』側には、エルダーロックと王都の間にある街の一つの工房を借り切って仕上げまでの工程を立ち会うことになっている。


 こうすることによって、エルダーロックの村に『コウテツ』ブランドの工房があることを隠す狙いがあった。


 それに対し、あちらは仕上げの為に一流職人を複数派遣することになっている。


「二人とも、今回、完全に仕事なんだから、街を散策とかする暇はないと思うよ?」


 コウは、ララノアとカイナが付いて来るということで、一応、念を押す。


「わかっているわよ。今回、ヨースがいないのだから、コウが相手に丸め込まれないように私とカイナが同行するんじゃない」


 ララノアは笑ってそう応じる。


「そうよ、コウ。あっちは国内の大手有名ブランドの『五つ星』。こちらの情報を引き出そうとコウに根掘り葉掘り聞いて来るに決まっているんだから気を付けてないと」


 しっかり者のカイナも前回はヨースに任せて静かだったが、今回はコウの為にも、矢面に立つつもりのようだ。


「えっと、僕、成人した一人前のドワーフ……、だよね? まあ、未だに『半人前』とは言われているけど……」


 コウは二人に子ども扱いされていることに、頑張って反論するのだがそれも少し怪しい。


「ほら、その時点で、相手に付け込まれるわよ。コウはただでさえお人好しだし、あっちの会長に部下になるように誘われていたんだから、気を付けないと」


 日頃、一緒に生活しているララノアがコウに注意する。


「わ、わかったから! じゃあ、みんな、今日中に旅の支度が終わったら、明日の朝一番に出発でいいね?」


「「うん!」」


 ララノアとカイナは声を合わせて返事をすると、それぞれ支度を始めるのであった。



 そして、翌日の朝。


 コウとララノア、カイナ、剣歯虎のベルは、片道五日の場所にあるチュケイの街へと向かうのであった。

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