第99話 続・村の未来
現在、エルダーロックの村は、鉱山採掘を中心に開発が進んでいる。
と言っても、元の領主であり土地を売ったダーマス伯爵は、鉱山はすでに資源が枯渇状態でそれをドワーフ達に譲ったという認識だから、まだ、硬い岩盤層を抜けて新たな鉱石を掘り当てていることを知らない。
当然、採掘したら売らなければ稼ぎにならないのだが、それは大鼠族が全国に広がる流通網を使用して売っている。
これが、一番の強みと言っていいかもしれない。
この大鼠族の流通網は、情報網にもなるし、間に彼らが入ることでこのエルダーロックの村の名が出てくることがない状況を作っている。
大鼠族の扱う品は以前から訳ありだったり、無名のブランド商品だったりしているから、顧客も詳しくは追及しないという暗黙の掟が出来上がっている。
だからそれがお互いにとっても都合がよいのだ。
まあ、その分、大鼠族の扱う品は全体的に安く取引されているのだが、これは異種族であることも含め、仕方がないところだろう。
だが、相手はそれなりの品質のものを割安で買い取り、売る側も出処に関して追及されることがないというお互いにメリットがあるwinwinの関係が出来ているからさほど問題にならないのであった。
こうして、エルダーロックの村は、大鼠族の影に隠れて利益を得ることが出来ていたから、村が存続の危機に陥るような資金不足になることなく、発展を続けている。
さらに鉱山で生まれた資金を元に、農業や製造業にも力を入れようとしていた。
農業では農業ドワーフのヨサクを中心にお酒の原料となる二条大麦を育てている最中だが、収穫がかなり早く始まりそうな状況だ。
なんでも、棚田を作った際、一晩で土が運び込まれるという珍事『精霊のいたずら』(コウの仕業だが)のお陰で想定より早く育てることになったのだが、その棚田の土が想像よりかなり品質が良いものらしく、二条大麦の育ちがかなり早いのだという。
これには誰よりも農業に精通しているヨサク本人が一番驚いていることなのだが、豊作間違いなしの上に刈り入れがかなり早くなりそうだということで、棚田をさらに増やす予定にもなっている。
さらに、これは密かに進められていることなのだが、胡椒もどきならぬ、『鉱椒』を育てることも開始されている。
コウが発見した植物が新種のもので、それが近くの森に群生していたことから、棚田で育てることにしたのだ。
ヨーゼフ村長もこれに賛成しており、こちらも村に大きな利益をもたらしそうな予感である。
そして、製造業についてだが、こちらもコウがかなり絡んでいた。
当然ながらコウとイッテツの鉱夫ブランド『コウテツ』がヨースを中心とした大鼠族の活動によって実を結び、注目されつつある。
さすがに鉱夫三大ブランド『ホリエデン』『ドシャボリ』『
さらに、『コウテツ』ブランドは、『軍事選定博覧会』で一番の評価を受けたことから、武器についても注文が殺到している。
もちろん、殺到と言っても有名ブランド程ではないのだが、それでも一気に注目を浴びている状況だ。
なにしろバルバロス王家のオーウェン第三王子が、公式の場に出た際、この『コウテツ』ブランドの刀、それも一等級のものを腰に佩いていたので、関係者がそれに注目し気づいたのである。
王子は、どこのブランドとは言わなかったが、その刀の形は『軍事選定博覧会』に足を運んだ者なら誰もが知っている『コウテツ』ブランド以外にあり得ないから、そこが一等級の刀を王子に提供したとわかり、軍事関係者を中心に貴族や一流冒険者まで欲しがる状況になっているらしい。
らしいというのは、つまるところ王都での出来事なので、王都の『マウス総合商会』事務所に人が殺到したのだが、ヨースの仲間の大鼠族達が大半を断っているのである。
これはもちろん、ヨースからの依頼通りで、審査を行って選んでいる形であった。
なにしろ、作るのはコウとイッテツの二人なので限界がある。
だから本人達が作りたいと思わせる相手を選ぶ形なので、一度保留にして、エルダーロックの村まで依頼書を運び、そこで吟味してから相談の末、初めて製作に移るという形を取っていた。
だから完成して王都に届けるまで二か月近くを要するが、それでも魔鉱鉄製や超魔鉱鉄製の武器が手ごろな価格で手に入ることを考えると、とても短い期間と言っていいだろう。
そんな感じで忙しいコウとイッテツなのであったが、カイナの父親であるヨーゼフ村長がそのことを考え、最近、人手をイッテツ鍛冶屋に大人数回してくれることになった。
それは鉱夫上がりで珍しく魔力があるドワーフ十人で、今までは鉱山がドワーフにとって一番早くお金になる人気の職業であったから、鉱山で働いていたのだが、ヨーゼフからその才能を評価され、イッテツの下で働くことを勧められたという。
十人は、鉱夫以外に向いている仕事があるならと、承諾してくれた。
この十人がコウレベルとは言わないものの、魔鉱鉄製のものを作れるくらい鍛錬ができる腕力と魔力持ちであり、これにはイッテツも助かると喜んだ。
コウがいないと、四~六等級の魔鉱鉄製の道具でさえ作れなかったからである。
コウは最近ずっと忙しくしていたので、イッテツも密かにコウの仕事の負担を減らした方がいいだろうと考えていたこともあり、すぐに採用した。
こうして、仕上げ作業もイッテツレベルではないが、他の鍛冶屋ドワーフが『コウテツ』ブランドの傘下に入ることで、生産を安定させることに成功するのであった。
製造業は他にもある。
それは、移住してきたエルフのアルミナス、猫人族のキナコのカップルが立ち上げた洋服ブランド『アルミナコ』である。
エルダーロックの村では二人のデザインするものが浸透して、村の象徴的な服になっていたのだが、大鼠族も『アルミナコ』のデザインする服を着て全国を回るので、そのデザイン、仕立ての良さが業界関係者の間でちょっとした話題になっていたのだ。
「最近、大鼠族が着ている服、いいよね?」
「それ、私も思ったわ」
「大鼠族にしてはセンスいいと思ったのよ。あれどこのデザインかしら?」
こんな感じでじわじわと注目を集め、少しずつ注文が入り始めていた。
こちらは、ドワーフの女性達を雇い、アルミナスとキナコの二人が指導して、生産まで結びつける予定になっている。
「最近、なんだかこの村、順調だよね」
コウは自宅のリビングでララノアに嬉しそうに言う。
「本当ね。隣人のアルとキナコさんも最近、忙しそうにしているし、コウのところも大変なんでしょ? 『
ララノアは現在、髭なしドワーフの一人ポサダが家族経営する宿屋『鉱山の精霊亭』で働いている。
その美しい容姿から、ドワーフ、大鼠族以外からは結構な人気だ。
「あまりに上手くいきすぎて怖いくらいだよ。ダーマス伯爵もここが自治区になって以来、何もしてこないし」
「自治区だから大丈夫なのよ。ただの村のままだったら、今頃、また、難癖付けられていたと思うわ」
ララノアはコウの心配が杞憂であることを告げると、コウと
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