第73話 旅の道中

 コウ達一行は、鍛冶屋のイッテツをはじめ、村長ヨーゼフ、その妻、そして、髭なしドワーフグループのダンカン達に見送られてエルダーロックの村から一路、王都への旅となった。


 普段なら片道二週間ほどの旅程らしいのだが、大鼠族のヨースが馬車を用意してくれたから、徒歩よりは大分早く到着できそうである。


 それに荷物はコウの魔法収納付き鞄に全て収納できているから非常に軽く、馬車は軽快に街道を進み、剣歯虎サーベルタイガーのベルもその馬車に合わせて歩く。


「いつもなら、他の街によって商売しながら王都まで向かうんだが、今回はさすがにそうもいかないから直行だな」


 ヨースは商売人らしいセリフを言いながら御者として馬車を操っていた。


「軍事選定展覧会かぁ。普段は主催者商会中心の展示なんだよね?」


 コウはあまり詳しくないので道中でヨースから知識を得ようとした。


「ああ。今回は主催する商会の数も五つだからな。以前は超老舗の『アーマード』、『ソードラッシュ』、『騎士マニア』の三つが中心で行われていたみたいだ。今回は新進気鋭のブランド商会がそこに二つほど加わった事で、質の良い商品を扱う無名のブランドの展示もやる事になったって説明はしてもらったぜ。だからそこにうちが入れたのは奇跡みたいなもんだ!」


 ヨースはそこに『コウテツ』ブランドがねじ込めた事を誇らしげに言う。


「ア、『アーマード』に、『ソードラッシュ』、『騎士マニア』!?」


 武器防具ブランドに詳しくないコウでもその名前くらいは知っていた。


 老舗中の老舗で超一流のブランドばかりだ。


 それに以前、その『アーマード』がスポンサーを務めていた某領兵隊長をコウは自作の戦斧で見事に仕留めていたから、記憶に新しかった。


「すげぇよな! そんな事に縁がない俺でも、よく耳にする老舗ブランドだ。そこへさらに二つの一流ブランド商会が加わって『コウテツ』ブランドを評価してくれたんだから、これでコウとイッテツの旦那は本物の一流職人だぜ!」


 ヨースも商談で相手から評価されたのだろう、当時を思い出してコウとイッテツの事を褒めるのであった。


「改めてそう言われてもまだ、実感できないけど……。イッテツさんが一流の職人として評価されるのは鼻が高いかな!」


 コウは同じドワーフのイッテツが職人として評価される事を喜んだ。


「ふふふっ。そこにコウの名前もあるのよ」


 村長の娘カイナが他人事のように言うコウの姿がおかしく映り、思わず笑ってツッコミを入れる。


「そうそう。コウの魔力を込めた鍛錬とイッテツさんの仕上げ、二人の仕事があってこその『コウテツ』ブランドなんだから」


 ダークエルフの混血であるララノアもカイナに頷きながらコウの仕事を評価した。


「ありがとう、みんな。──他の主催商会はなんて言うの?」


 コウは聞き忘れてはいけないとばかりに、ヨースに残りの主催商会ブランドを聞いた。


「言い忘れるところだった! 残りは『ウォーリス』、『五つファイブースター』だぜ。ちなみに『コウテツ』製の三等級戦斧に目を付けたのは、この新進気鋭のブランド『五つ星』の幹部だ。それを上司に勧めて今回の展示になったらしい」


「「「おお!」」」


 コウとカイナ、ララノアの三人は、評価をしてくれたという初めて聞くブランド『五つ星』に対して感謝と驚きから歓声を上げる。


「おいおい、お前ら。こんな事で驚いていたら、王都の展覧会会場で心臓が持たないぜ? はははっ!」


 ヨースは知ったような口調で三人を笑う。


「もう、自分の想像以上の展開だから、ヨースの言う通り、本当に心臓が持たないかもしれない……」


 コウもようやくヨースの説明を聞くうちに少しずつ実感が湧いてきてそう漏らす。


 するとカイナとララノアも同じ心境になったのか同意するように頷くのであった。



 王都までの道のりは、大きな街道をずっと通っていたからか、ほとんど何事も起きる事なく順調に五日が経過していた。


 途中宿泊した宿屋でララノアとカイナが酔っ払った宿泊客にナンパされてコウが間に入って懲らしめる事があったくらいだ。


 御者台のヨースは馬車を操りながら、コウ達にこの後の旅程について聞く。


「もうすぐ分かれ道があるんだが、どちらを通る?」


「「「どういう事?」」」


「左の街道は、遠回りだ。その代わり道が平たんで途中大きな街もあるから、観光にはうってつけかもしれない。──右の街道は近道だ。その代わり峠を一つ越えるから道の傾斜がきつい。それに左と違って観光名所がない分、味気ない」


 ヨースはドッチも通った事があるようで簡単に説明した。


「どのくらい時間的に違うの?」


 コウは遠回りと近道の差を聞く。


「そうだな、時間にして二日くらい違う。左の街道だと軍事選定展覧会にギリギリ間に合う感じだな。右だと二日早いから、王都でその分ゆっくりはできると思う」


「それなら、行きは急いで右の街道。帰りはゆっくりもう一つの街道でいいんじゃない?」


 ララノアが座っているコウの上から身を乗り出してコウ頭越しにヨースへ答えた。


 コウはその間ララノアの胸を頭上に感じる状態であったが、じっと動かず、何も言わない事にした。


 動けば意識していると誤解を受けそうだったからだ。


「……コウ、ララの胸を意識しているでしょ?」


 カイナがそれを見抜いて、鋭い指摘をした。


「あ、ごめんなさい」


 ララノアがカイナの指摘にすぐに身を引いて座った。


「してないから! 僕が動いたらそういう誤解をされそうだから、動かないようにとは思ったけど、それだけだよ!」


 コウは慌てて先程まで思っていた事を口にする。


「カイナ、コウが私を意識する事ないわよ。あははっ! お互い種族の違いがありすぎてそんな興味はないんだから」


 ララノアが笑って自分達の関係性について答える。


「でも、胸は万国共通よ。それにララの胸大きいから」


 カイナもドワーフとして小柄な割に胸があるのだが、身長の高いララはさらにグラマラスなので確かにより大きいのは確かだ。


「胸ってこんな感触なのかとは思ったけど、それ以上の事は思っていないから!」


 コウも黙っていると誤解を生みそうだと思って口を開いたが、また誤解を招きそうな言い方になっていた。


「やっぱり、意識してたのね! コウのエッチ!」


 カイナがコウを非難する。


「あははっ! カイナ、コウは今の今まで童貞なんだから、そのくらいの意識はしないと異常よ? 大目に見てあげなよ」


 ララノアはコウを庇う事にした。


 ララノアにとって二人は大切な友人だし、二人が引っ付くのはやぶさかでもないからだ。


「どうでもいいから、道を決めてくれ! もう分かれ道まで迫っているんだからさ!」


 大鼠族のヨースにとっては、胸の大きさは関係ないと思っていたから、話に入る事なく様子を窺っていたが、もめ始めたので早い判断を仰ぐ事にした。


「「「ララ(私)の提案通りで!」」」


 三人は声を揃えて言うと、近道である右の街道を進む選択をするのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る