第72話 王都行きメンバー

 コウとダークエルフのララノア、大鼠族のヨースは王都で開かれる軍事選定展覧会に向けて準備をする事になった。


 旅の支度は比較的に楽である。


 なぜならば、旅の荷物は魔法収納付き鞄を持っているコウに持ってもらえばよく、馬車の手配もヨースがしてくれたので、移動にも困らないからだ。


 ただし、準備中に一つ問題が発生した。


 それは、同じ友人である村長の娘カイナも行きたいと言い出したからである。


 コウとしては村長の娘であるカイナを遠路はるばる王都まで連れ出すのは気が引けたから誘わなかったのだが、それが裏目に出た形だ。


「……私も行きたいです」


 カイナは何度目かの希望を主張する。


「馬車は四人くらいなら全然問題ないんだが……、村長であるヨーゼフの旦那は納得するのかい?」


 大鼠族のヨースが大事な事を確認した。


 カイナは元々ドワーフの娘には見えない見た目だから、連れて行くのには何の支障もない。


 だが、村長の娘だし、それに何より妙齢の女性だ。


 同じドワーフのコウと何かあったら大問題だろう。


 それをヨースは暗に確認するのであった。


「お父さんなら大丈夫。私の事は放任主義だから」


 カイナは父ヨーゼフに確認する事なく返事をする。


「いや、そこは確認してからでね?」


 コウもお世話になっているヨーゼフの意見を聞かずにOKを出すわけにはいかないから、いつものようにカイナに甘い顔もできないのであった。


「……わかったわ。確認してくる」


 カイナは自分だけのけ者扱いされるのは嫌だったから、コウの家から飛び出すと自宅へと帰っていく。


「村長さん、承諾するかしら?」


 ララノアが心配した様子でコウ達に聞く。


「どうだろう? 俺が父親だったら、イケメンの大鼠や童貞のコウが一緒だと反対するかもしれないな」


 ヨースが真剣な顔つきでふざけた事を言う。


「ちょ、ちょっとヨース! 僕を危険物扱いしないでよ! 逆に危険性がないからこそ十八年間童貞なんだから!」


 コウも身も蓋もない事を言ってヨースに反論した。


「……コウ、友人としてその言い分は悲しくなるから、カイナの前で言わないでね?」


 ララノアが呆れた様子でツッコミを入れる。


「うっ……。──僕だって男だからチャンスがあれば頑張るよ……?」


 コウはツッコミに赤面すると、またも、身も蓋もない事を言う。


「おいおい……、それはそれで村長が心配になるから駄目だろ。コウは今のままでいてくれれば、みんな安心だから」


 ヨースはコウに呆れるとそうアドバイスを送る。


「くっ……。どちら側に主張しても僕には損しかないじゃん……! って、しれっとヨースも自分の事をイケメンなんていってるじゃん、図々しい!」


 コウは自分の事で一杯で聞き流しそうになったヨースの自己評価に対してツッコミを入れる。


「あのなぁ。俺は大鼠族としては、いい男の部類に入るんだからな? それに仕事も成功しているから、同族の女性からはモテモテなんだぞ?」


 ヨースはそう言うと胸を張って自慢する。


 確かにヨースの言う通り、この村に住む妙齢? な大鼠族の女性からは人気があるらしい事は一緒に居て感じる事はあった。


 と言っても、大鼠族の個体の区別がほとんど付かないコウだったから、最初は同族の友人達と情報交換でもしているのかと思っていたのだが、別れ際に相手が手を振っているのに気づいて相手が異性だと気づいた形だ。


 それは置いておき、ヨースは話を続ける。


「まあ、俺もドワーフ女性には興味はないから、手を出す事はないんだが、俺とコウは十八歳。普通に考えて男親がそんな成人している独身男と一緒に旅をさせるわけがないだろう」


「……そうだよね。それじゃあ、やっぱり、三人で行くという事で、準備を進めようか。あ、剣歯虎サーベルタイガーのベルも連れて行っていいかな?」


 コウはヨースに確認を取る。


「べ、ベルを!?」


 ヨースは大きなリアクションで驚いて聞き返す。


 それはそうだろう、ネコ科の魔獣は大鼠族のヨースにとって天敵であり、最近、仲良くなったとはいえ、本能の部分で怯えるところは多分にあるのだ。


「この旅って、行商のヨースを僕とララが護衛するという形で行くわけじゃない? その僕は見た目が人の子供にしか見えないから、剣歯虎のベルを連れていく事で、魔物使いテイマーとしての認識されるかなと思ったんだ」


 コウは自分の見た目を理解している分、しっかりと考えていた。


「……確かにな。魔獣使いなら、ベルに跨っている事ですぐにわかるからいいかもしれない。もし、カイナが同行する事になった場合は、小柄な女性魔法使いに変装させれば、王都でも目立たないだろうしな。でも、ベルに跨った魔物使いというのは、かなり目立つぞ。それはいいのか?」


 ヨースは王都の街中をベルと歩く姿を想像して疑問を口にした。


「このメンバーだとただでさえ目立つし、見た目で舐められて道中襲われるよりも、ベルがいる方が、襲う人もまだ少ないんじゃないかな?」


「……そうだな……。同じ目立つなら、舐められない方がいいか……。わかった、ベルも連れて行こう。どうせ臣従の首輪もしているから大きな問題にはならないだろうしな。王都では魔物使いも見かける事はよくあるし、大丈夫だろう」


 ヨースはコウの意見に賛同すると承諾した。


「あとはカイナ次第だけど……。──あ、もう戻ってきたわ」


 ララノアが家の窓から、こちらに駆けてくるカイナの姿に気づいて二人に告げる。


「はぁはぁはぁ……。お父さんが行っていいって!」


 カイナはそのかわいらしい顔に満面の笑みを浮かべて報告する。


「そうなの!? よく了解が得られたね?」


 コウもヨースの指摘から、自分が成人男性という事を考えると、カイナは来られないと思っていたから、素直に驚きであった。


「うん。行くメンバーを話したら、二つ返事で『いいぞ』だって。ふふふっ」


 カイナは意外にあっさり承諾を得られた事がおかしかったのか、笑う。


「……コウ。お前、よっぽど無害な存在だと思われているみたいだな。もちろん、信用もあると思うが、ドワーフの男としてはとても残念な結果だ……」


 ヨースがそう言うと同情的なため息を吐いて、コウの肩に手を置く。


「……お願いだから、その手をどけて……!」


 コウは複雑な気分で、ヨースにそう言い返すしかできないのであった。

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