第71話 自慢の作品
コウは軍事選定展覧会に向けて、大鼠族ヨースの提案で三等級である超魔鉱鉄製の剣を一本、短剣を一本、槍を一本、合計三本を作る事になった。
コウとイッテツの専門はドワーフの道具や装備品が主だから、戦斧や斧槍、戦棍は作り慣れている。
だが、普通の剣となるとまた、話は違ってきた。
「どんなデザインでいきますか?」
コウはイメージがわかず、首を傾げる。
「儂も全く作った事がないわけじゃないが、イメージがわかんな……」
イッテツもコウと同様に首を傾げて困った様子を見せた。
「あ、ララ。君の得物は剣だから何か案はない?」
コウは鍛冶屋に様子を見に来たダークエルフと人の混血であるララノアに、案がないか聞いてみた。
「うーん……。具体的な案は思い浮かばないけど、やっぱり、目立たないといけないのよね? それなら、普通の剣じゃなく何か変わった形のものがいいんじゃない?それこそ実用性より、見た目重視で」
ララノアは自分の剣がなまくらなものだから、それを見せつつ、違う形のものを提案した。
「珍しい変わった形……かぁ……。あ、そうだ! ──イッテツさんは刀を知っていますか?」
「カタナ?」
イッテツは初めて聞く不思議な発音の単語に首を傾げる。
ララノアも初めて聞くので、頭に疑問符を深べた。
「やっぱり、こっちには無いのか……。──それなら……」
コウはそう考えると、イッテツにその形状や作り方などを説明する。
イッテツはコウの説明に、驚きながら感心し、質問を繰り返す。
コウはその質問にも詳しく応じた。
そう、コウは前世で刀鍛冶職人の下にいた事があったのだ。
もちろん、そこでも半人前で、才能がないから諦めろと追い出されていたのだが、作り方自体は頭に入っていたから、説明が可能だったのである。
「面白い発想だな……。違う金属を三枚重ねて一つにするのか……。そして、この形状……。板金鎧と盾が主体の兵隊相手に、斬るよりも突く、叩き潰すというのが主流の戦闘において、斬る事に特化したこの武器は異様だな……。確かにこれは実用性よりも芸術性があってかなり目立ちそうな代物になりそうだ」
イッテツはコウの説明を受けてとても気に入った様子で、早速、その制作に移りたそうである。
「刀は実用性高いんですけどね……。ララのような人が使用するのに向いてますし、何より映えます」
「ばえる? その意味はよくわからんが、確かにララちゃんのような高身長で板金鎧や盾を好まない者にとっては、良いかもしれん。──よし、どうせ展覧会の展示行きだ。ララちゃん用として作ってみるか」
イッテツはそう言うと、ララノアの身長を測ってそこから相応しそうな長さを決め、イメージもララノアに似合いそうな重さ、形、色にする事にした。
そこからは、コウの詳しいアドバイスを元に、イッテツはその一流の腕を振るう。
当然、コウもイッテツが決めた形状のものを超魔鉱鉄化する為に金槌に魔力を込めて鍛錬する。
この作業は昼夜問わず行われ二週間の試行錯誤の後、長刀と短刀を一振りずつと槍を一本完成させた。
「……ふぅ。我ながら素晴らしいものが出来上がったな……」
イッテツはそう言うと、ララノアに一式を装備させて満足そうだ。
鞘は黒色に紫の模様、刀身も黒色で、刃文は直刃で白色である。
柄の部分も基本は黒色だが、ララノアの髪の色に合わせて鞘同様、紫色の模様が入っていた。
短刀も刀と同じデザインだから、これで一組だとわかるようになっている。
そして、槍は刃の部分がイッテツによって模様細工が施され、柄の部分はトレントの木を使用した造りになっていた。
それらをララノアが身に着けてモデルのようにコウとイッテツの前に立っているのだが、元々ララノアはスタイルが良いうえにイッテツがその体形に似合うように刀も槍も作ったから、とても映える。
「……ララ以上にこの刀と槍が似合う人はいないかもしれない」
コウも、美的センスはドワーフ寄りだが、前世の人間時代のものも備わっていたから、ララノアの佇まいに見惚れるのであった。
「だろう? とはいえ、コウの鍛錬がなければ、この刀と槍も等級の付かない見た目だけが良いなまくらだったのだから、わからないものだ。よくやってくれたな、コウ。長刀は超魔鉱鉄製の二等級、短刀は同じく超魔鉱鉄製の三等級、槍も三等級だ。これは展覧会でもかなり目立つかもしれんぞ?」
イッテツはニヤリと笑みを浮かべると、コウの背中をバシバシ叩いて、ララノアを見つめる。
「そうですね。でも、出来が良すぎて展覧会に展示するだけで済むのかなと心配になってきました」
コウはそう言うと心配になってきた。
「展覧会というのはあくまで職人自慢の作品を展示する場だからな。これを見て職人の腕を想像し、仕事を依頼するというのが、展覧会の主要目的だろう。まあ、主催者であるブランド商会どもが、国内で自分達のところの製品が客観的に見ても素晴らしいという事を自慢する場でもあるだろうがな。無名である儂らのブランドはその為のダシだ」
イッテツはそう言うとコウの心配を一笑した。
だが、『コウテツ』ブランドは無名とはいえ、実際、展示するのは二等級一点、三等級二点である。
この誰も知らない刀という意表を突く武器だから、それをきっかけに仕事の依頼があるかはわからないが、少なくとも多少の注目は集めて、主催者のブランド商会の鼻を多少は明かす事も出来そうだとイッテツは考えていた。
コウもそれは一緒であったし、それにあくまでララノアの為の武器という気持ちでもある。
そして、当のララノアは腰に佩いた長短の刀二振りが余程気に入ったのか、満面の笑みで、
「これが、展覧会で評価されるところを見たいかも……」
と口にする。
そこに、ヨースが室内に入ってきた。
「それじゃあ、みんなで王都に乗り込むか?」
ヨースはいきなりそう答える。
どうやら、ララノアの声を聞き取ったらしい。
「儂は行かんぞ? さすがにドワーフの身で王都の展覧会にのこのこ行く勇気はないからな」
イッテツは即答した。
「じゃあ、コウとララと俺で行こうぜ? コウはドワーフを名乗らなければ、人の子供にしか見えないし、ララもダークエルフだからな。この作品がドワーフ作とは誰も二人を見て想像しないだろう?」
ヨースはそう言うとコウとララノアを王都に誘う。
「ちょっと行きたいかも……。イッテツさん、行ってきていいですか?」
コウはララノア同様、展覧会で『コウテツ』ブランドの作品がどう評価されるのか現場でそれを見たいと思っていたから、ヨースの誘いを断れない自分がいた。
「行ってこい。『コウテツ』ブランドが、有名になる瞬間を見てきてくれ。がははっ!」
イッテツはそう告げると、笑って三人を送り出す事になるのであった。
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