第66話 森での狩り
この日、コウはハーフダークエルフのララノアとカイナを連れて近くの森に来ていた。
目的は狩りである。
この森は基本、木の魔物であるトレント系が多いところなので、獣を捕まえるのが大変な場所だ。
それはトレントが、侵入してきた獣を捕食してしまうからである。
森の生態系としては現在、ドワーフ達が頂点にいて次に魔物のトレント、そして、獣達、最後が植物といった感じなので、コウ達ドワーフはトレント系を積極的に狩り、高級木材として使用しつつ、生態系で弱い立場の獣達が増えるようにしていた。
肉体労働者が多いエルダーロックの村は肉の需要が大きい。
幸いこの森の植物は豊富である。
トレントが群生している為、植物を食べにくる多くの獣を間引きしている事も理由に挙げられるだろう。
それに、ずっと近くにあったエルダーロックの前の村が廃村になってから、森に入る人間がいなかった事も大きい。
そんないろいろな理由でこの森は豊かではあるものの、獣がトレントに狩られる状況なのだが、それも、エルダーロックの村の発展と共に、大量に群生していたトレントも間引きされはじめ、ようやく通常の生態系に戻りつつあった。
それでコウ達は、獣を狩って晩飯に、もしくは獲物次第では髭なしグループを集めて酒のつまみに、さらに大物が得られれば、みんなに分けるという目標を立てていた。
「ララ、カイナ、そっちはどう?」
コウが森の周囲を探って、獣がいそうか聞いた。
「沢山いるのを感じるわ。これは罠を仕掛けた方がいいかも」
「私の索敵能力にも結構映るわ。ララの言う通り罠をいくつか仕掛ければ、どれかにかかるかも」
ララノアとカイナはそう応じると、コウのところに戻ってきた。
「よし、それじゃあ、簡単な罠を仕掛けようか」
コウはそう言うと、土魔法で獣道に落とし穴を掘った。
そして、底には先の尖った杭をびっしりと敷き詰める。
他にも、輪に動物の身体の一部が入ると締まって拘束する括り罠なども獣道に餌を巻いて数か所設置した。
「こんなところかな?」
コウは魔法収納鞄に余った道具を収めて額の汗を拭う。
「コウは何でも知っているわよね。私、街に住んでいたから、罠なんてコウに教えてもらうまで全く知らなかったわ」
ララが妙にいろんな知識を持つコウにいつもながら感心する。
それはカイナも一緒だ。
幼馴染だから小さい頃よりコウの事は何となく知っているはずなのだが、こんな知識を知る機会がコウに会ったとは思いもよらなかった。
「はははっ。昔はなんでもやったからね。と言ってもそれらは全て才能がなくて『半人前』だったわけだけど……」
コウは苦笑気味にそう答える。
ちなみに昔とは前世の『野架公平』時代の事であった。
コウは前世でも『半人前』と呼ばれる人生を送っていたのだ。
色々挑戦するも才能がなく、常にその職場で『半人前』と呼ばれ続けていた。
それだけに、知識と失敗の経験だけの前世であったのだ。
しかし、この世界ではその知識を活かせる為の才能に目覚める事が出来たのが大きい。
能力によって、獣道をすぐに発見し、魔法によって穴を掘り、優れた嗅覚でもって獣がかかりそうな場所を判断できる。
つまりコウは前世と現世を合わせて『半人前』を克服したと言っていいだろう。
と言っても、『半人前』という名は、愛称に変わって呼ばれ続けているのだが……。
コウのそんな感慨深い思いはつゆ知らず、ララとカイナはコウと共に罠を仕掛けると罠の外周を時間をかけて散歩でもするようにぐるっと回る。
これは獣を森の中央にある罠のある方向に誘導する為だ。
人の臭いに獣は敏感だから、風の向きで人の臭いがすれば、森の中に移動し、結果的に罠のある方に向かう事になるだろうという狙いである。
と言っても結構広い森だから、数時間国境沿い側を歩くと村の方に引き返すのであった。
罠を確認する為、森の奥深くに改めて入っていくと、何やら騒がしくなっていた。
鳥は騒がしく羽根を羽ばたかせて鳴き、獣は各所で鳴いている。
どうやら、日も夕方に近づいたことで、トレント系の魔物が活発化し始めたのかもしれない。
「……それにしては、騒がしすぎるかな?」
コウとララノア、カイナは視線を交わすと、首を傾げる。
三人は万が一に備えて警戒すると、罠のある方へと向かう。
すると、その途中にダークトレントという種類の木の魔物が、白い物体を捕らえて抱え上げ、捕食しようとしていた。
よく見ると、その白い物体は別の魔物のように見える。
「あれって、
ララノアがダークトレントに捕らえられ、血を流しながら抵抗する剣歯虎の色に驚いた。
「獣を夢中になって追いかけ、ダークトレントに気づかなかったのかもしれないわね」
カイナは状況からそう分析する。
「ともかく、助けた方がいいかな? ダークトレントは伐採しておきたいし」
コウはそう言うと、自慢の戦斧を魔法収納鞄から取り出すと、ダークトレントを一振りの下に仕留めた。
剣歯虎はダークトレントの手足である枝に巻かれて身動きが取れなくなり、ぐったりしていたが、ダークトレントがコウに両断された事で地面に落ちる。
それをララノアとカイナが受け止めた。
「コウ、魔力を貸して。治療できるか試してみる!」
ララノアはそう言うと、最近練習を始めた光属性の治癒魔法を詠唱する。
コウはすぐにララノアの手を握り、魔力を流す。
ララノアは手から流れ込むコウの魔力を感じながら、剣歯虎のお腹に出来た傷に治癒魔法を行使した。
するとそれは成功したのか、見る見るうちに傷口が塞がっていく。
「さすがコウね。私の半端な魔力操作の不完全な治癒魔法も、コウの魔力量で補ってしまったわ……」
ララノアは自分で治療したとは言えない大雑把な魔法に呆れながら、コウを褒める。
「はははっ。僕は治癒魔法が使えないからね。ララがいないとこの剣歯虎も助からなかったよ」
コウは気を失って動かない剣歯虎を撫でながら指摘する。
「コウ。罠も気になるし、この子はコウが運んでくれるかしら?」
カイナはせっかく助けた剣歯虎をこの場に放置するのは危険だと思ったようだ。
「……そうだね。日も暮れそうだし、この剣歯虎は僕が運ぶから、とりあえず、罠を確認して家まで帰ろうか」
コウもカイナに納得する。
ララノアも二人の意見に賛成だったから、喜ぶのであった。
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