第29話 仲間の為に
コウと大鼠のヨースはダンカン達を乗せた荷車を引っ張って必死に街道を南下していた。
もうすぐ山道に差し掛かるところであったが、背後から砂塵が上がっている。
追手だ。
どうやら、新たに編成した騎馬隊と歩兵隊が一緒に向かって来ているのか、その煙は大人数の移動を示唆していた。
「マズいぞ、コウ! このままだと、山道に入った辺りで捕捉される可能性が高い!」
大鼠のヨースは荷車を易々と引いて駆ける緑の髪で人間の少年のような見た目のドワーフに危機を指摘する。
「とりあえず、山道の入り口まで行けば、すでに道を塞いでいるからその辺りで時間稼ぎは出来ると思う!」
コウは自分で塞いだ山道の事を思い出し、ヨースに助かる可能性を告げた。
「え!? それだと俺達が通れないじゃないか!」
ヨースは感じの事を指摘する。
「それは大丈夫。僕が一度回収し直すよ!」
コウには魔法鞄というとっておきがあるから、慌てていない。
だが、それについてヨースは知らないから理解出来ず、ドワーフに加勢したのは失敗だったかもと思い始めるのであった。
コウとヨースは荷車を二人で必死に引いて加速し、山道の入り口まで捕捉される事なくなんとか到着する事が出来た。
だが、追手は迫っている。
そして、目の前には山道を塞ぐ大木であるから、大鼠のヨースはこのままドワーフ達は放っておいて自分だけこの大木を越えて逃げた方がいいのではないかと心を過ぎった。
そもそも、ヨースはドワーフとは縁も所縁もない。
強いて言うなら商売相手だ。
大鼠族はその姿から人族からは当然差別の対象だったから、商売相手は異種族が多い。
そして、ヨースは鉱山の街のドワーフ達と商売する事で小銭稼ぎをしていた。
そのドワーフ達が新天地でやり直すと聞いて、お金の臭いがすると感じたのだ。
だから、リーダーのヨーゼフの頼みを聞いて、人族の動きを監視して報告したりと、さほどお金にならない綱渡りのような仕事も引き受けていたのである。
そこに、これまたお金の臭いがする自分と同じ歳くらいのドワーフらしからぬドワーフを知った。
コウである。
この緑の髪色の人族の子供に近い姿のコウがまた、ヨースにとって珍しく映った。
ドワーフの特徴と言えば立派な髭に、低身長ながら筋骨隆々な体躯だが、そんな外見は全くしていないのだ。
道中で聞けば人間との間に生まれたハーフドワーフらしい。
それで長い間、差別の対象だったらしいが、ダンカン達との縁で最近ではドワーフ内でも一人前と認められ、大切な友人だからどうしても助けたいのだと涙ながらに語っていた。
そこから人柄はよく伝わってきたし、ドワーフの集落での人族の追手相手の大立ち回りも丘から見物させてもらっていたから、こいつは将来凄い奴になるかもしれない、と思ったのだが……。
目の前の大木に、コウに自分の人生を賭けるのは早まったかもしれないと思うのであった。
しかし、次の瞬間だった。
コウが腰の小さいポーチを大木に向けると、一本一本その小さいポーチに吸い込まれて消えていくではないか。
「! ──それって、もしかして、魔法の鞄か!? それも収納量が大きい一級品!」
ヨースは行商人だからその存在は当然知っている。
それに、実際目にした事もあった。
取引先の商人が魔法鞄を自慢げに見せてくれた事があったのだ。
しかし、目の前のコウのように大木を収納できる程の容量を持ったものではなかった。
だから、わかる。
一級品の代物だと。
そんな物を持っているという事は、ドワーフの中でも一目置かれる存在のはず、コウの事はその見た目で目立つ以外、噂でも聞いた事がなかったのだが、もしかするとコウはドワーフ内だけで秘密の存在なのではないか? とヨースは考えた。
こいつはやっぱり、金の臭いがする!
ヨースは全ての大木を回収し終わるコウの背中を見て、やっぱりこいつに賭けるべきだと思い直した。
「ヨースさん、ここからは君がこの荷車を引っ張って逃げてくれ。僕はここで時間稼ぎをする」
そう言うと、荷車を山道側にいれてすぐに、コウはまた、魔法鞄から大木を出して道を塞ぎ始める。
「お前一人でどうするんだよ! ドワーフ達を乗せた荷車を傾斜のある山道で引っ張るのは大変なんだぞ? 道を塞ぎ終えたらお前が引っ張れよ! 俺も後ろから押すから!」
ヨースは慌てて無謀な事をしようとしていると思えたのでコウを止めるべく提案した。
「ううん。この大木は時間稼ぎにしかならない。だから、今度は僕がその前で粘ってダンカンさん達を逃がすんだ。──ヨース、ダンカンさん達の容態も気になるから急いで!」
そう言うとコウは大木を跳躍して越えると戦斧を魔法鞄から取り出して、仁王立ちする。
そこに、追手の騎馬隊が領兵隊と共に追いついてきた。
「ヨース、早く!」
コウが背中を見せたまま、ヨースに促した。
「……馬鹿野郎。……死ぬなよ?」
ヨースはそう言うと後ろを振り向かず荷車を引いて四本足で山道を必死に駆け上がっていくのであった。
領兵隊五十名を率いる新たな隊長は、先行した隊が山道の入り口付近で詰まっているところに追いついた。
「……これはどういう事だ?」
状況がわからない新隊長が、追いついた隊の後ろの領兵達に声をかける。
「あ、隊長! 今、道を塞いでいるドワーフと前列の隊が戦っているところです!」
「相手の数は?」
「一人です!」
「何!? ──ま、まさか……、ドワーフの集落で邪魔していた奴か……?」
「そのようです!」
新隊長はそれを聞いて愕然とする。
その時、副隊長の一人としてその場で目撃していたのだ。
スポンサーまで付いていた腕利きの隊長を力で押し切って倒した子供にしか見えないドワーフの強さに失禁するくらい驚いたから、新隊長は内心かなりビビっていた。
だが、何も対策を考えていなかったわけではない。
「兵士たちに伝えよ! ──遠巻きにして弓矢で射かけるのだ! そして、前面には長槍を構え接近するな。奴の戦斧は柄が長いと言っても一メートル弱。槍と弓矢で距離を取って確実に仕留めれば怖くはない!」
ただの小さいドワーフ一人相手に卑怯としか言えない戦法であったが、しかし、それは確かに有効な手段だろう。
領兵はすぐに前列で戦う兵士に新隊長の命令を伝えるのであった。
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