第28話 ドワーフ達の死闘
ダンカン達は領兵の追手である騎馬隊五十騎と激戦を繰り広げていた。
「馬には悪いが、馬の脚を狙うんだ! じゃないと背の低い俺達ドワーフにとって騎馬との相性が悪すぎる!」
ダンカンは歳の近い甥っ子達に戦い方について伝えがら奮闘していた。
一部の騎馬兵はダンカン達を無視し、先を急ごうと背中を見せたのでダンカンが懐に忍ばせていた投げナイフで数名を負傷させた。
騎馬兵達はそれに激高してダンカン達を取り囲み、馬上から長い槍で突き殺そう動いた。
それにもダンカンは両手持ち用の大きな戦斧を振るって対応し、ワグ、グラ、ラルの三人が盾を構えて各自片手持ちの戦斧や斧槍、戦槌を振るって騎馬兵に対抗する。
ダンカンは容赦なく馬の脚を両断して兵士を馬から叩き落として戦いやすくしようと動き回った。
「あの右頬に十字の傷があるドワーフを止めろ! 馬が駄目になっちまう!」
騎馬隊の隊長がダンカンの動きが厄介と感じて、先に集中して仕留めるように指示する。
騎馬兵達もその指示で甥っ子ドワーフ三人組をけん制しつつ、ダンカンを狙い始めた。
ダンカンは鈍足ながら、騎馬兵の槍もその大きな戦斧で防ぎながら動き回り、その低身長をさらに腰を落として地を這うように戦斧を持って騎馬の足を刈り続けていたから、かなり厄介な存在であった。
だが、多勢に無勢である。
無数の槍を全て防ぐ事が出来るわけもなく、時折、その先端がダンカンの重鎧の肩や腕をかすめ、時にはその鎧の隙間に刃先が届き、したたかに負傷していく。
しかし、ダンカンは足を止める事なく騎馬の足を狩り続けた。
なにしろこの騎馬隊さえどうにかすれば、仲間が領外に逃げ延びる可能性が一段と上がるのだ。
ダンカンは必死であった。
ワグ、グラ、ラルの三人には背中合わせで円陣を組ませ、襲い掛かる槍の数々を盾で防ぎながらグラの距離が届く斧槍の先端で馬の胴体に突き刺して兵を地面に落とさせる。
だが、トドメまではやらせない。
それくらい囲まれているからだ。
それに目の前の相手に対応するだけで、ダンカン達は精一杯であった。
しばらくすると騎馬隊の馬の数はかなり減っていた。
すでに半数以上の馬が怪我で戦線離脱したか、その場に倒れて動けなくなっている。
だから、徒の兵士もその分増えて戦いやすくなっていた。
だが、体力お化けであるドワーフも無尽蔵に動けるわけではない。
それに無数の傷を体に負い、さすがのダンカンも一人で動き回るのが限界になって三人組に合流した。
三人はダンカンを守るように引き続き円陣を組んで囲んで仕留めようとする騎馬兵を相手に対する。
「ドワーフにも疲れが見えて来たぞ! いい加減に仕留めろ! こちらの被害が膨らむ一方だから残りの騎馬兵は馬から降りて戦え!」
騎馬隊長は領主から馬の損失を怒られる事をここに来て危惧したのか、騎馬兵に対して無理な命令をした。
「騎馬兵に降りて戦えって……、馬鹿な上官だな」
ダンカンは自分達の戦い方のせいでそうなった事を疲労困憊の中、ニヤリと笑みを浮かべて皮肉った。
ワグ達三人にはそんな余裕はなかったが、馬上から槍を突かれる戦法よりは、降りてくれた方が戦いやすいから、ありがたかった。
それに馬を傷つけるのは正直心が痛むのだ。
「ワグ、グラ、ラル。ここからが本番だ。一人でも多く道連れにするぞ!」
ダンカンが甥っ子達に声をかけると、ダンカンは先陣を切って、陣形を整える徒の兵士の中に突っ込んでいく。
そこからはダンカン達の暴れっぷりは凄かった。
手にしている得物を力いっぱい振り回し、兵士が構えた盾をダンカンはその大きな戦斧で破壊し鎧を切り裂いて倒す。
ワグは盾で力任せに相手を殴ったり、片手斧を振り回して応戦する。
グラは斧槍で低い姿勢から人族の兜の下を狙って突き、致命傷を与え続けた。
そしてラルはひたすら敵の構える剣だろうが盾だろうが鎧だろうがを戦槌で叩きまくる。
下手に剣で防げば一撃で折れるし、盾はひしゃげ、鎧は凹む。
ダンカン達髭無しグループはドワーフとしての戦い方を大いに示し、次々に敵兵を討ち取っていくのであった。
コウは走って、ダンカン達が向かって来ているはずの道を逆走していた。
だが、ダンカン達が駆けて来る姿は見られず、
「どこかですれ違ったかな……? でも、分かれ道はほとんどないし……。──もしかしてさっきの道、ダンカンさん達は右に曲がったのかな?」
とコウは中々出会わないダンカン達が心配になりながら駆けていた。
このまま行くと来る時に別れた街道付近に到着してしまう。
さすがにそうなると、どこかですれ違いになった可能性の方が高いと感じてコウは立ち止まった。
「このまま戻ると追手と鉢合わせになるかも……。でも、その割には追手も全く来ないけど……。──まさか!?」
一度立ち止まったコウであったが、最悪の状況を想像して別れた場所まで走る事にしたのであった。
コウとダンカン達が最後に別れた街道沿いは、馬の悲痛ないななきと多くの死体で埋め尽くされていた。
「やっぱりだ! ──ダンカンさん! ワグさん、グラさん、ラルさん!」
コウはその状況を見て、何が起きたのか、そして、ダンカンがコウを先に送り出した理由もすぐに理解出来た。
そしてコウは四人の安否を思い、大声で死体の山に声をかける。
「……コウ……か?」
ダンカンの声がした。
「ダンカンさん!?」
コウは声がする方を見ると死体の一つに腰かけているボロボロのダンカンを視界にとらえた。
コウは急いで駆けよる。
「大丈夫ですか!? それにみんなは!?」
コウはボロボロのダンカンがそのまま横に倒れそうになるのを手で支えると、ワグ、グラ、ラルの安否を確認した。
「……あいつらはその辺に倒れている……はず……」
ダンカンは意識を失いそうになりながら、コウに答える。
コウは辛そうなダンカンをその場に横にすると、ワグ、グラ、ラルの三人を探した。
すると三人はそれぞれ武器を手にしたまま、重なるように倒れている。
「!」
コウはあふれ出る涙を拭く事なく、急いで駆け寄り、三人を並べて横にする。
息があるか確かめると微かに呼吸しているのがわかった。
「生きてる!」
コウはそれがわかるとダンカンに一度視線を向け、それから四人をどうにかして運ぼうと頭を巡らせ周囲を見渡す。
しかし、周囲は街道とその両側を覆う林くらいで四人を運ぶ為に必要なものが見当たらない。
その場にいる馬は負傷して動けないもの以外はいなかった。
「どうすればいいんだ……!?」
コウは自分の無力さを痛感していた。
そこへ、荷車を引いて走って来る大鼠が視界に入った。
大鼠は四本足で馬で引くタイプの小さい荷車を馬の代わりに引いている形だ。
「もしかして……、ヨースさん!?」
コウは駆けてくる大鼠の首に赤いスカーフが巻いてあるので、集落でコウ達の活躍を見ていたヨースだとわかった。
コウはすっかり忘れていた大鼠族の若者が荷馬車を引いて駆けて来るので、すぐに察する。
「コウ、お前どこに居やがったんだよ! ほら、ダンカンさん達を早く荷車に乗せろ! 歩兵隊の追手が迫っているぞ!」
大鼠族のヨースはダンカン達の為に荷車を見つけに周辺を探し回っていたようで、その時、追手の歩兵隊を遠目に確認したらしい。
「──わ、わかった!」
コウはヨースの言葉に返事をするとダンカン達を荷車に乗せ、ヨースに代わって荷車を引いて逃げる為に大鼠族のヨースと一緒に山道を目指して駆けるのであった。
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