第51話 『七傑』の戦い

 「こんな日が来るとは思わなかったぞ」

「それは私のセリフよ」


 表のアウラと、裏のアリア。

 この二人がついに手を取り合う。


 アウラは学院を守るため。

 アリアは妹を守るため。


 今まで決して見ることができなかった共闘が、今ここに実現した。

 そんな展開に、シャロンは人知れず口角を上げる。


(こんな日が来ればとずっと思っていたよ)


 二人のことをずっとてきたシャロン。

 彼もまた、この日を待ち焦がれてきた一人であろう。


 だが、それに対しても、ヘルドはニヤリとした表情を浮かべる。


「いいねえ、こいよ」


 目的の前に余興を楽しむかのような態度だ。

 ならばと、『七傑』側もはじめから全力をもって立ち向かう。


「シャロン!」

「ああ、アウラ!」


 アウラとシャロンが共鳴する。

 

「──【全身全霊】」


 団体序列戦でアリアを破ってみせたコンビネーションだ。


 シャロンが霊のようにアウラにき、全ての行動をサポートする。

 今の二人は、アリアの五属性魔法ですら返すことができる。 


「ほう。そいつは俺も気になっていたぞ」


 この魔法は、シャロンの完全なるオリジナル。

 通常ならば不要である【無属性魔法】の極地だ。

 グランと同じく、才能にあふれたヘルドはたどり着くよしもなかっただろう。


 そして、アウラが全体に指示を出す。


「前線はワタシとセリンセで張ろう。アリア、そしてイルミア・イルメアは後方から好きなだけ魔法を放ってくれ」

「私に指図すんじゃないわよ」


 そう答えるアリアだが、考えは同じ。

 アリアは魔法職のため、後方ならば本来の力を発揮できる。


 これで準備は整った。

 いよいよ戦いの火ぶたが切られる。


「いくぞ!」


 先に動いたのは『七傑』側。

 アウラが先頭を切って前に出た。


「軽くひねってやる」

「それはどうかしら」

「あん?」


 それと同時に、アリアが後方から仕掛けた。

 ヘルドの力量を知るからこそ、様子見など一切なしである。


「──【風水の魔弾】」


 アリアの背後から現れた複数の魔法陣から、無数の球が放たれる。

 出が早く、かつ威力と殲滅せんめつ力に優れた、風と水の属性を複合させた魔法だ。


「はっ!」


 だが、対してヘルドは、すっと両手を前に持ってくる。

 魔法に対して絶対的な防御力を誇るあの構えだ。


「石ころが飛んできたか?」


 ──『無の拍手』。

 やはりこの男に、正面からの魔法は通用しない。


「おい。ぬるすぎるぞ」

「ええ、私一人ならね」

「……!」


 アリアの言葉通り、今は一人じゃない。

 

「アリア様の敵は私が排除します」

「後ろがガラ空きだ!」


 アリアの魔法の影から現れるセリンセ。

 さらに、一瞬目を放したすきに後ろへ回り込んでいたアウラ。

 前後から二つの刃が重なる。


(速い……!)


 剣聖には劣るものの、ヘルドがそう思えるほどの剣さばきだ。

 セリンセ、アウラ、共にすでに歴戦の戦士と言えるだろう。


 さらに──


「おまけよ」

「……!」


 アリアが連続で魔法をぶっ放していた。


「【原初の炎】」


 放ったのは、妹のニイナの代名詞でもある魔法。

 火・光・闇の三属性複合魔法だ。

 連続で出せる魔法であれば、最も威力が高いであろう。


 これでアリア、セリンセ、アウラ、三方向からの一斉攻撃だ。

 ならばと、ヘルドは上に視線を向ける。


「んなもん上に逃げりゃ──」

「「逃がさない」」

「……!」


 そこには当然、サポートが入る。 


「「【天使の矢エンジェル・アロー】」」


 双子のイルイルコンビだ。

 派手なアリアの魔法に隠れ、1+1が10にも100にもなるコンビ魔法──【天使化エンジェライズ】を発動させ、すぐさま攻撃に移っていた。


 彼らは学院の頂点──『七傑』。

 それほどの実力者であれば、認識は共通されていたのだ。


(((全方位から攻める……!)))


 とにもかくにも、厄介なのは──『無の拍手』。

 あの絶対防御であれば、『七傑』側最大の攻撃手段であるアリアの魔法もかき消されてしまうであろう。

 だからこそ、剣と魔法を交えて攻める。


「ったく、嫌になるぜ」

「「「……!」」」


 しかし、ヘルドは全てをいなしてみせた。


 両手には、それぞれ瞬時に土属性でつくった剣を持ち、アウラとセリンセの武器をはじく。

 そして、その体をひねった反動で、アリアの【原初の炎】をはるか彼方へ受け流したのだ。

 まるでカウンターで返したか・・・・・・・・・・のように。


「一度見たぜ、団体序列戦とやらでよ」

「「「……!」」」


 これは間違いなく、アウラとシャロンの【絶対反射アブソリュート・カウンター】だ。

 

「剣と魔法だけじゃねえんだな、これが」


 一度見ればほとんどのわざを吸収できる。

 ヘルドもまた、『賢者』に育てられし子なのだ。


 これには『七傑』側も思わず絶望──しない。


「でしょうね」

「ああ、そうでなくては!」


 予想外ではあるが、想定外ではない。


 これも、学院でグランという存在を見てきたからこそだ。

 彼は入学からずっと想定外のことをしてきた。

 『七傑』側はそれをまじまじと見てきたのだ。


 ならば、そのあに弟子でしであるヘルドはこれぐらいしてもおかしくない。

 最初からそう思っていたのだ。


 だからこそ、まだ手を残していた。


「【原初の氷炎】」

「……!?」


 アリアが瞬時に放ったのは五属性魔法。

 正真正銘アリアの必殺技だ。


 だが、それにしては早すぎる・・・・


(野郎、まさか……!)


 【原初の氷炎】は最上位である“極大魔法”。

 また、その中でも威力が抜きん出ている。

 つまり、発動にはそれなりの時間を要するはずだ。


 そのためアリアは、【風水の魔弾】に込めた風と水、【原初の炎】に込めた火・光・闇の魔力を、あらかじめじょうに用意していた。

 あとは、宙に残ったそれらを混ぜ合わせるだけ。


 そうすることで、魔法を放つと同時に、最後のこの魔法にも備えていたのだ。


「さすがだアリア!」

《だね》

「お見事ですお嬢様!」

 

 そして、それを見越していたアウラ・シャロン・セリンセ。

 彼女らが取る行動は──妨害。


「なっ……!」


 彼女らが武器を弾かれたのはわざとだ。

 そうなると予想した上で、自らヘルドを掴みに行く。

 もはやなりふりなど構っていられないのだ。


 これも【全身全霊】状態のシャロンがあってこそ。

 シャロンがヘルドの態勢をうまく崩し、アウラとセリンセがヘルドにしがみつく。


≪お互い、サポートは慣れてるね≫

「ええ、まったくです」


 シャロンとセリンセも実力者である二人だが、主人公の前にはかすむことを自覚している。

 だからこそ、主人公に任せた。


「終わりよ」

「はっ、関係ねえ」


 だが、ヘルドは大きく息を吸った。


「「「……!」」」


 それだけで『七傑』は感じる。

 何かを起こす気だと。


 しかし、アリアはもう魔法を手放している。

 ならばと、自身の生命力を削るほどの最大限の魔力を継ぎ足す。


「はああああああ!!」


 それをヘルドは──吹いた。


「──フッ」


 その瞬間、ヘルドの息吹に魔力が込められていることに全員が気づく。

 想起されるのは、アリアが団体序列戦で見せた【氷の息吹】。

 あれ同様に、もし相反あいはんする魔力が込められているなら、この魔法はかき消される。


「「「……ッ!」」」


 名前をつけるならば、『無の息吹』。

 相反する魔力を込めた息吹が、アリアの魔法と──ぶつからない。

 

「だろうな!」

≪だね!≫


 だからこそ、これも想定の範囲内だった。

 グランはいつでも予想を超えてくる。

 それを頭に、彼らは万全に万全を重ねた。


「「こっちは任せて」」


 ヘルドが意識を魔法を向けた瞬間、アウラ・シャロンの位置はイルイルと入れ変わっている。

 光魔法を駆使くしした高速の移動だ。


 ならば、アウラ・シャロンは──


「こっちだ!」


 ヘルドの直前まで迫った【原初の氷炎】の軌道を、曲げていた・・・・・

 彼の『無の息吹』をかわすように。


 これが『七傑』側の最後の策だ。


「あなたと協力なんてね」

「それはこっちのセリフだ!」


 最後まで言い合いながらも、アウラは五色の球が灯った剣を振り下ろす。


絶対反射アブソリュート・カウンター……!」


 ドガアアアアアアという轟音ごうおんと共に、辺りに煙が立ち込める。

 スタっと着地した『七傑』は、周りから様子をうかがう。

 

「どうだ!?」

「「直撃した感触はあったけど……」」


 アウラに対し、寸前で回避したイルイルが答える。

 セリンセも同じく避けているようだ。


 しかし──


「なあ」

「「「……!」」」


 煙の中から聞こえてくる嫌な声。

 全員、再び顔を引き締めて視線を向ける。


「これならグランの奴は倒せるのか?」


 やはりというべきか、これは想定外というべきか。

 煙の中からヘルドが姿を現す。


「随分と甘かったんだなあいつも」

「「「……っ」」」


 服装にダメージは入っているものの、目立った傷は見当たらない。

 対して、『七傑』たちは感じ始める。


 "英雄への挑戦”。

 それがいかに出過ぎた真似かを。


 そうして、ヘルドは口にした。


「グランの半分だな」


 ここまでして、その評価だ。

 その口に言い返すことができないのも、また悔しさを感じさせる。

 

 だが、それに反論する声が後ろから聞こえてきた。


「じゃあ、半人前がもう一人いたらグランになる?」

「「「……!」」」


 ヘルドと共に、『七傑』たちも一斉に振り返った。

 目の前の人物に意識をくばかりに、彼女らの気配に気づかなかったのだ。


 その姿には、アリアが目を見開いた。


「ニイナ!」


 そこに立っていたのは、アリア・シンシア・エルガ。

 新世代の一年生たちである。

 

「あれほど来るなと……!」

「ごめんなさい、お姉様。でも──」


 今まで逆らえなかった姉に、ニイナ初めて口答えをする。

 これもアリアの真意を知ったからだ。


「わたしだって、アリスフィア王女です!」

「まったく、手のかかる妹だわ……!」


 学院に、これ以上の戦力は存在しない。

 正真正銘、これが学院をかけた最終防衛ラインだ。




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七傑が好きすぎて、ちょっと長くなってしまいました!

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