第47話 グランの里帰り

 ここは、とある里。

 都会らしさはまるでなく、見渡す限り大自然が広がっている。


 グランの故郷──『英雄たちの里』だ。


「とりゃあっ!」

「おおっ!?」


 そんな中で、二つの剣が高速で交わる音が聞こえる。


 剣戟けんげきの衝撃は辺りに伝わり、剣が交わる度に地面は割れ、山にヒビが入る。

 この速さの攻防など、できる者は二人しかいない。


 グランと、『剣聖』ザンだ。


「ザン、ちょっと鈍くなったんじゃない?」

「ハッ、ぬかせ!」


 両者の剣は止まっていないが、口が動く。

 これでも、お互い本気ではないということだろう。


「やっぱグランじゃないと俺とは張り合えねえなあ」

「えーそうかな」

 

 団体序列戦から数日。


 グランはこの故郷へ帰ってきていた。

 学院行事が落ち着いたのと、なにより聞きたいことがあったからだ。


 そうして里について直後。

 グランがいなくてうずうずしていたザンと、剣を交えたようだ。


 だが、軽く打ち合った後に、グランはそっと剣を下げた。


「でも、今はこんなところかな」

「おいおいグラン。やけに終わるの早えじゃねえか」

「だって今日は聞きたいことがあって帰ったんだよ」

「……フッ、そうか」

 

 それを聞き、ザンも剣を収める。


 彼らは、ヘルドとグランの大将戦も(こっそりと)見ていた。

 “聞きたいこと”については、大体の予想もついてるだろう。


「じゃあ家に来い。久しぶりにデンジャの野郎がご飯作ってやがる」

「ほんと! やったあ!」


 デンジャとは、『魔女』デンジャのことだ。

 家事は基本“分身”にやらせる彼女だが、今日はグランが帰ってくるとのことで、珍しく本人が料理をしたらしい。

  

 究極の面倒くさがり屋だが、デンジャの料理は絶品だ。


「じゃあなおさら早く帰らないと!」

「ハッ、学院で成長したかと思えば、まだまだガキだな」


 そんなこんなで、二人は帰路を辿った。





「グ~ラン!!」

「うわっ!?」


 家に着いて早々、グランの顔は柔らかな感触に包まれた。

 帰りを待っていたデンジャの胸に、ぎゅっと押し付けられたのだ。


「も~私がどれだけ待っていたと思って!!」

「ちょっ、苦しいって!」

「ダメ! もう一生離さない!」


 デンジャは『魔女』であると同時に、絶世の美女とも言われる。

 世界の至る所に銅像があり、デンジャを信仰する一大宗教が存在するほどだが、本物はどの銅像やイメージよりも美しい。


 誰もがうらやましくなる光景だが……グランに限ってはそうでもない。


「そういうのいいから」

「あら」


 するりと大きな胸をかいくぐり、てくてくと歩いて行く。

 もはや慣れすぎたスキンシップは、グランにとっては「おせっかい」でしかない。


 その足で付いた部屋にいたのは、『賢者』ウィズ。


「帰ったか、グランよ」

「うん! ただいま、じいちゃん」


 ウィズは優しい祖父のような表情でグランを迎えた。

 グランは里にいた時から、おじいちゃん子だったのだ。


 だが、その様子を許さない者がいる。


「グラン! 私にはただいま言ってくれなかったのに!!」

「もーはいはい」


 タッタッタと全力で走ってきたデンジャだ。


 そんな母親代わりの彼女に、グランは目を逸らして頬をかきながら言葉にした。

 わざわざ言うのが照れくさかったようだ。


「……た、ただいま」

「~~~!」


 それには、デンジャは満面の笑みのまま両手を前で包む。

 目もハート型になっているようにも見える。


「おかえりっ!!」


 さらに、再びグランの頭を大きな胸で包んだ。

 学院で会えなかった分も込めているのだろう。

 

 また、それを後方から見ていたザンが苦言をこぼす。


「おばさんの面倒くささが十倍増しだぜ」

「アンタ、星の裏側までぶっ飛ばすわよ!?」

「すいませんでした」


 だが、強烈なデンジャにザンの言葉は尻すぼみとなった。


「あははっ!」


 みんなのやり取りが久しく思えたのか、グランは笑顔を見せる。

 その笑顔は三人にもでんした。


「グラン、お腹空いたでしょ。ご飯にしましょ」

「うんっ!」


 これが英雄の里での日常だ。

 帰ってきたんだなあという実感と共に、久しぶりに家族と食卓を囲むグランであった。




 



「グランや」

「じいちゃん?」


 風呂も上がり、のんびりとしていたグラン。

 そこに『賢者』ウィズが話しかける。


「ちと、夜空でも見に行くかの」

「……!」


 グランは、聞きたいことがたくさんあった。

 だが、先ほど尋ねた時はなんとなくはぐらかされた。


 しかし、その言葉で直感する。

 今からそのことについて話をされるのだと。


「うん。わかった」


 ここでグランは、初めて聞かされることとなる。

 今まで知らなかったその真実を──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る