第41話 絶対的存在

 「あらあら」


 宙に浮く椅子に優雅に座っていた、絶対王者アリア。

 対して、シャロンの奥義【全身全霊】とアウラの剣技が合わさり、側近のセリンセを追い詰める。

 

 それに苛立ったのか、アリアはついにその重い腰を上げた。


「こざかしい」

「「「……ッ!」」」


 ただ一歩だけ。

 アリアの足が闘技場に着地しただけで、会場中の雰囲気が一変する。


 全員が感じ取ったのだ。

 その絶対的な存在が放つオーラを。


「ここからが本番だぞ。シャロン」

≪みたいだね。アウラ≫


 剣を構え直すアウラに、彼女の霊的存在となっているシャロンが答えた。

 ここからが、『七傑』同士のぶつかり合い第二ラウンドだ。


 しかし、そんな物語的な展開をアリアは望んでいない。


「ふーっ」


 何をするかと思えば、ただいつものように軽く息を吐いた。


 だが──

 

「シャロン!!」

≪アウラ!!≫


 血相を変えて、アウラとシャロンは大声を上げる。

 呼吸を合わせ、そのまま咄嗟とっさに横へ回避した。


「どうしたのかしら? そんなに慌てて」


 ふふふっと不敵な笑みを浮かべたアリア。

 だが、彼女の視界の先を見れば、一面が凍りついていた。


 アリアの吐息が、目の前を『銀氷の世界』へと一変させたのだ。


「アリア……!」

≪ここまでくると恐ろしいな≫


 普通ならば、ふんだんの魔力を込め、わざわざ詠唱を以てまで行うほどの魔法だ。

 しかし、膨大ぼうだいな魔力を保持するアリアにとっては、ほんの少し魔力を込めるだけでこんな事象を起こせてしまう。


 あまりに規格外の魔力保有量だ。




 また、戦いを見守るグラン陣営。


「アリア姉様……」

「すごい……」


 アリアに対しては、敵であるはずのニイナとシンシアも息を呑む他ない。

 特にニイナからすれば、さらに悪い予想が当たっていた。


「アリア姉様は全然本気じゃなかった……」


 思い返すのは、先日行ったアリアとの序列戦のことだ。

 ニイナも全力で戦ったものの、終始アリアの涼しげな表情を崩せはしなかった。


 つまり、あの時のアリアは力を抜いていた。


「これはちょっと……」


 冷や汗をたらりと流すニイナ。

 浮かべているのは、焦りの表情だが──


「そうかな」

「あなた……!」


 隣のグランはどこか気の抜けた声を出した。

 そうして、ニッと口角を上げて再び闘技場内へと目を向ける。


「やっぱりうちの先輩たちも負けてないよ」





 再び闘技場内。

 いよいよ地面へ降り立ったアリアが、好き放題に場を荒らす。


「ふーっ」


 アウラの動く先へ、アリアは妖艶ようえんな表情で吐息をつく。

 先ほども見せた周囲を凍らせる吐息である。

 アリアにとっては単なる思い付きの魔法だったが、案外気に入ったようだ。


≪アウラ、右だ!≫

「くっ!」


 回避を続ける内に、アウラは段々と行動範囲が狭くなる。

 そうなれば当然、やがて行き場を失くす。


「ふふふっ」


 あとは、大技を一つぶつけるだけ。

 アリアはすうっと手を上に掲げた。


「【原初の炎】」

「「「……ッ!」」」


 その魔法には、会場中がざわつく。


 それもそのはず、これはすっかり有名となったニイナの必殺技。

 【火】・【光】・【闇】の属性を、均等に寸分違わず構成することで莫大ばくだいなエネルギーを発揮する上級魔法だ。


 そして、会場の者も徐々に気づき始める。


「氷はどうやって出してんだ?」

「そりゃ【水】と【風】を合わせて……って、え?」

「なっ、嘘だろ……?」


 さっきから見せている、周囲を凍らせる吐息。

 あれはおそらく氷の魔法だ。


 だが、この世界に【氷】属性は存在しない。

 できるとすれば、【水】と【風】を合わせる必要がある。


 ここから導き出される答えは──


「あと一つだけ足りないのよねぇ」


 アリアは【土】以外を全て持った、“五属性持ち”。

 グランを抜かせば、ありえるはずもない適性の多さだった。


「でも、あなた達を潰すぐらい訳ないわ」


 アリアが上空で発動させている【原初の炎】。

 【光】と【闇】で生み出す球体に対して、周りを【火】が囲う形をしている。


 そして、その螺旋らせん運動が加速する・・・・


「アリア……!」

≪冗談きついね≫


 そこに【水】と【風】が加わったのだ。

 そうして完成するのは、【原初の炎】の完全なる上位互換。


「【原初の氷炎】」


 ニイナでさえ、三属性を同時に制御するのに十年以上かかった。

 五属性を同時に制御する難易度は、想像を絶する。

 しかし、もし制御できれば、その威力は計ることすらできない。


 この魔法の極致には、ニイナも思わず身を乗り出す。


「こんなのって……!」


 もはや見ていることもできない。

 ニイナ自身、【原初の炎】の威力を知っているからだろう。


 それでも、アウラとシャロンは笑った・・・


「ここからが面白い所だろう」

≪だね≫


 この絶対絶命のピンチで。

 まるでどこかの「グ」から始まる少年のように。


「あらあら」


 まだ何かを持っているのかもしれない。

 だが、アリアにそれを待ってあげる義理は無い。


「その出番はないの」

「……ッ!」

≪……ッ!≫


 すっと無慈悲に手を下した。

 その瞬間、【原初の氷炎】はアウラ達に向かって一直線に飛んで行く。


「終わりよ」


 着弾後、一瞬まばゆく光った闘技場。

 それから、ドゴオオオオオという轟音ごうおんが遅れてやってくる。


 その衝撃には、バリアが張られている観客たちも、思わず前を腕でおおった。


「ぐわあああああっ!」

「なんて衝撃なんだよ!」

「バリアは大丈夫なのか!?」

「先生総動員の魔法バリアだぞ!?」


 この団体序列戦のために、バリアを張る教員が計100人。

 それでも危ういと思わせるほどの魔法だ。


 この様子が【原初の氷炎】の威力を物語っていた。


「奇跡はそう簡単に起きないのよ」


 冷たく言葉をこぼした後、アリアは宙へ浮く椅子へ戻ろうとする。


 魔法の威力に、着弾した確信。

 観客を含め、誰もが勝負あったと思った。


「これはさすがに……」

「会長とはいえ……」

「受けきれないだろ」


 ──だが、アリアが優雅に椅子へ戻す足をピタっと止めた。


「……へえ」


 再びアウラ達の方へ振り返ったのだ。

 そのふふっと浮かべる妖艶な表情の先で、ガラガラっと瓦礫がれきの音がした。


「やはり君の言う通りだったな。シャロン」


 なんとアウラが姿を現したのだ。

 体の状態から、【原初の氷炎】をかわしたように見える。

 もっとも、爆風によってどうやったかは確認できなかった。


 そんなアウラに、彼女の霊的存在となっているシャロンが答える。

 

≪“視る”ことには自信があるんだ≫


 シャロンの「視る」才能を以て、何らかの突破口を発見したようだ。


 そして何より、アウラの目は死んでいない。

 それどころか、まだ真っ直ぐにアリアへと向けている。


「……もしかして勝つ気なのかしら」

「もちろんだ。アリア、君には──」


 こくりとうなずき、次は重ねて言い放つ。

 確信を持った表情で。


「弱点がある」

≪弱点がある≫


 アウラ・シャロンの反撃が始まる。





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久しぶりの更新になってしまいました!

前回、良い場面で中断してしまったのは申し訳ないです!

ぼちぼち更新再開していきます!

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