第37話 『団体序列戦』先鋒戦

<三人称視点>


 ──わああああああああっ!!


 闘技場にき上がる大歓声。

 入学してから話題が尽きない現一年生だが、今日の歓声はまた別格。


 それもそのはず。

 この日は、学院始まって以来のイベントが行われようとしているのだ。


 主審と進行を務める教員が、拡声魔道具で口にした。


『それでは──』


 開幕の合図だ。


『これより団体序列戦を始めます』


「「「うおおおおおおおおお!!」」」


 その宣言により、また歓声は大きくなった。




 会場の熱気が冷めない中、


「騒がしいわね」

「うん」


 控室で座っていたのは少女二人。


「準備はいいかしら」

「うん……!」


 ニイナとシンシアだ。

 二人はこれから行われる団体序列戦、その一番手を務める。


 ──『団体序列戦』。

 学院が始まって以来、初めての団体同士・・・・の序列戦だ。


 戦うメンバーは5対5だが、行われるのは全3回戦。


 先鋒・中堅はそれぞれペアの2対2。

 大将戦は1対1で行われる。

 

 この方式は、『七傑』の多くを手中に収めるアリアの提案によるもの。

 極論、人数が多いほどアリアに有利に働くからだ。


 ──それでも。


「勝つわよ」

「もちろん!」


 二人の目は闘志にあふれている。

 ハナから負けるなど毛頭ない。


「……ふぅ」


 だがシンシアにとっては、これが初めての序列戦。

 それがまさか、こんな大舞台になるとは予想もしていなかっただろう。


「……よし」


 しかし、隣に立つのがニイナであれば。

 同じ修行を重ねてきた仲間であれば。


「行こう。ニイナ」

「ええ!」


 その胸に意気込むのは──『勝利』の二文字のみ。




「「「わああああああああっ!!」」」


 ここにきて、また闘技場のボルテージが上がる。

 ニイナとシンシア……そして、


「「ふふっ」」


 アリア陣営の二人が姿を見せたからだ。


『両陣営、中央へ』


 主審の合図により、ニイナとシンシア、アリア側の二人が中央に並ぶ。


 それを、闘技場わきの待機所で眺めるグラン。


「ニイナ、シンシア……!」


 不安で仕方がないという様子だ。

 グローリアと戦った時でさえ何も無かったはずの足が、今はブルブルと震える。


「ど、どうですかね!」

「……ああ」


 グランに静かに返事をしたのは、隣のアウラ。

 不安なのは彼女も同じだが、アウラは一言だけ返した。


「二人を信じよう」

「……! はい」


 こちらは一年生二人なのに対し、向こうはどちらも『七傑』。

 学院トップの成績を持つ相手だ。

 

 しかし、三人は思い出していた。

 この順番オーダーを決めた時の、ニイナとシンシアのことを。


『ニイナとやらせて』

『シンシアと出るわ』


 会議を始めたと同時に、二人はそう口を開いた。

 その時の表情を信じて、今に至る。


「……はぁ」


 グランは深呼吸ののち、しっかりと闘技場へ目を向ける。


「がんばれ。二人とも……!」

  



 あいさつを終え、両陣営は距離を取る。


 いよいよ始まるのだ。

 団体序列戦、その大事な先鋒戦が。


『団体戦序列戦、先鋒戦──』


 戦いの火ぶたが切られた。


『始め!』


「「──光よ」」


 その瞬間、アリア陣営の二人が同時に片手を上げる。


 片方は右手、もう片方は左手。

 二人の腕はぴったりとくっ付いている。


 アリア陣営、先鋒戦ペア。


 全体序列五位──『イルミア』

 全体序列位──『イルメア』


 二人は双子の姉妹。

 合わせて『イルイル』などとも呼ばれている。


 二人は常に行動も共にし、これまでの功績も全く同じ。

 ゆえに、学院で二人だけの“同序列”である。


「「この身にまとえ」」


 どちらも神聖さを思わせる白い髪色。

 姉のイルミアには少し金が混じり、妹のイルメアには少し銀が混じっている。


「「そして集約せよ」」

 

 そんな二人に、お互いが放った『光』が集約されていく。

 双子ゆえに全く同じ力を持ったそれは、一寸のよどみすらなく混ざり合う。


 また、光同士が相互に干渉し合い、互いに力を強めていく。

 1+1が2どころか、10にも20にもなるのだ。


 そうして──二人が姿を変える。


「「【天使化エンジェライズ】」」


「「……ッ!」」


 その姿に、ニイナとシンシアは戦慄せんりつする。

 二人の背中から飛び出しているのは、まさに天使のような羽。


 これは『力の象徴』。

 【天使化エンジェライズ】は、合わさった光の魔力により、お互いの身体能力・魔力を何倍にも底上げする強化魔法。


 その光の魔力が具現化し、二人の羽となっているのだ。


「「ふふっ」」


 アリアがわざわざ『ペア戦』を志望した理由。

 その一つがこの『イルイル』にある。


「なんて魔力……!」


 同じく魔法を専門とするニイナには分かる。

 一属性だけとはいえ、いま目の前にしているのは超常的な力を持った二人。

 真っ向勝負ではまず勝てないと。


「「行くわよ」」


 イルイルは同時に前へ一歩踏み出す。


「シンシア!」

「分かってるわ!」


 こうなれば、二人はひとまず距離を取るしかない。

 だが、イルイルの動きが速すぎる。


「「うふふっ」」


 その上にぴったりと息の合った行動。

 それぞれ違う方向に退避したニイナとシンシアは、一方を狙われてしまう。


「……ッ!」

「ニイナ!」

 

 イルイルが狙ったのは──ニイナ。

 『七傑』とはいえ、ニイナの持つ三属性は厄介そのもの。

 早めに潰してしまおうというのだ。


(しまった……!)

 

 ニイナは魔法使いゆえ、接近戦には強くない。

 それを補う作戦も立てていたが、【天使化エンジェライズ】というまさかの不意打ちに作戦を使う暇もなかった。


 それを待機所から眺めるアウラ。


「あんなもの、いつの間に……!」


 同じ『七傑』のアウラだが、どうやら知らない魔法だったようだ。


「私が事前に知っていれば!」

「それは仕方ないよ」

「……!」

 

 アウラに答えたのは、同じく『七傑』シャロン。


「僕も知らなかった。結構マークしていたはずなんだけどね」

「……っ」

「あちらのアリア女王様、よっぽど対策していたと見える」

「くっ!」


 アウラとシャロンは、思わず対面側の席に視線を向ける。

 アリアの方だ。


「うふっ」


 普段から魔法を隠す。

 アリアの策略の内だったのだろう。


 だが、動揺するアウラとシャロンの隣で一人。

 グランだけはじっくりと戦況を見つめていた。


「信じてるよ」


 その視線の先にいるのは──シンシア。




「ほらほら~!」

「どうする~?」


 イルイルの猛攻は止まらない。


「くっ……!」


 ニイナもよく受け流している方だ。

 二人がニイナを狙うのは先ほどの理由に加えて、実はもう一つ。


 『シンシアをなめている』のだ。


(もう一方は……)

(あとでどうにでもなるわ)


 シンシアは序列にして、一年で四位。

 ニイナの一つ下だ。


((話にならないわ))


 イルイルは、どちらかが一対一でもニイナに勝つ自信はある。

 ましてや、そんなニイナの下なんて目にもくれていない。


 だが、これはシンシア自身も自覚していた。


「……」


 シンシアは知っていたのだ。

 グランが賞賛される一方で、それにくっ付く彼女は「大したことない」と言われていることを。


 また、それは周りの人物にも原因がある。

 なにしろ比較対象は、超貴重な三属性持ち『ニイナ』に生徒会長『アウラ』だ。


 今回もメンバー補給要員として入ったのだと。

 そう言われているのを耳にしていた。


 ──だがシンシアは、決してそうではない。


「私だって……」


「「……!」」


 シンシアが出した覇気に、イルイルはふと意識を向ける。

 それが感じたことのないものだったからだ。


「私、だって……!」


 事実、シンシアに目立つものはあまりない。


 しかし、彼女は誰より師に恵まれた。

 彼女の師匠は──グランだ。


 英雄たちすら超えた実力を持つグランの背中を、彼女はずっと一番近くで見てきたのだ。


「はあああああッ!」


「イルミア!」

「分かってる!」


 そんなシンシアの流派は、世界で最も強い。


グラン流・・・・──」


 グランから習った剣術をそのまま出したのだ。

 その名前・・でさえも。


「『ただの一振り』……!」


 その一太刀は、まだ粗削りながらグランのそれを思わせる。


「くぅっ……!?」

「イルミア!?」


 防御体勢に入った二人をかいくぐり、一閃。

 シンシアの剣技が、イルミアの片翼を斬り裂く──。

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