第36話 それぞれの陣営

 「最後の一人、僕はどうかな」


 団体序列戦に必要なメンバーは五人。

 その最後の一人が決まらず、苦悩していたグラン達の元に現れたのは……


「シャロン先輩!」


 現学院『七傑』の一人であり、グラン達の寮長──シャロン。

 まさかの登場に、同じ寮に住むグランとシンシアが駆け寄る。


「本当ですか!」

「……でも!」


 だが、シンシアの方は少し心配そうだ。

 それもそのはず、今は四半期に一度の序列更新間近・・・・・・


 アリアの口ぶりでは、相手は『七傑』でそろえてくるだろう。

 そんな大事なタイミングで、黒星を付けられるのは非常に痛い。


 つまり、シャロンにとってはリスクでしかないのだ。

 ここで負ければ『七傑』から落ちることも考えられる。


 ──それでも、


「心配はない」


 シャロンは首を横に振った。

 さらにふっと笑っている様にすら見える。


「むしろこの好機を待っていたんだから」

「好機?」

「そうさ」


 グランの疑問に答えるよう、シャロンは視線を逸らす。

 ニイナ・・・に合わせるように。


「話してもいいかな。ニイナ」

「……まあ、悪いことはないけど」


 そうして、シャロンは口にした。


「僕はニイナと婚約者なのさ」

「え?」

「「「ええええ!?」」」


 淡々と明かされた衝撃の事実。

 まさかの答えに、シャロンとニイナ以外は声を上げた。


 混乱したグランがシャロンに問う。


「え、ちょっ、どういうことですか!? ていうか、って?」

「婚約は破棄されたからね。今は関係ないよ」

「え、ええと……?」

「フラれたのさ。ニイナ・アリスフィア様に」


 ニヤリとしたシャロンは、さらに続けた。


「でも、今でも特別な感情・・・・・を持ってても不思議じゃないだろう?」

「え、それって……」

「これ以上は言わせないでくれよ」


 シャロンの言葉に、少しドキンとするグラン。

 最近ニイナとあった一件から何かを感じたのかもしれない。


「……!」


 それと同時に、これまでのシャロンの言動や行動を思い出す。

 今になって思えば、よくニイナを見ていた気がしてくる。


 さらにはニイナと友達になった時、


『それなら僕の立ち回り・・・・も変わってくるなあ』


 その言葉にも納得がいく。


(あれは俺を意識して……?)

 

 そんな事を考える内に、ニイナが呆れたように口を開く。


「バカバカしい」

「え?」

「特別な感情ってのは、そいつの冗談・・よ」


 その言葉には、さすがにグランも意識を向ける。


「昔から好きだと言うけどね。軽々しいのよ」

「いやいや嘘じゃないさ」

「本当かしら。どうせ親に言われたから、そういうことにしてるんでしょ」


 だがどうやら、ニイナはシャロンの言葉を信じていないよう。

 シャロンの好意も『嘘』だと思っているようだ。


「破棄されたとはいえ、元から政略結婚。あなたからの本心なんて、一度も聞いたことないもの」

「はは、厳しいなあ」

 

 それは、この話が元から政略結婚だったから。

 親に決められた仲に愛情なんてない。

 ニイナはそう思っているようだ。


「ま、ニイナもこんな感じだし、話もやがて無くなったんだけどね」

「な、なるほど……」


 シャロンは良くも悪くも軽い・・

 この態度がニイナをより冗談に思わせる。


 実際にシャロンがどう思っているかは、グラン達も分からなくなってしまった。

 

「まあそういうことだから。僕も参加させてくれないかな」

「え、あ、はあ……」


 正直戦力としてはありがたい。

 だが、グランはチラっとニイナをのぞき見る。


「わたしは構わないわ。この団体序列戦は勝つことに意味があるもの。実力だけは本物だわ」

「……わかった」


 そうして、なんやかんやで五人目──シャロンの参戦が決定。

 少し疑問は残るが、現『七傑』の強力な助っ人を得て、グラン達はアリアへ望むこととなった。




 



 一方その頃、ディセント島のはじ

 学院からは遠く離れた場所にて。


「へえ」


 不敵な笑みを浮かべる少女。

 アリア・アリスフィアだ。


 彼女の目の前には、

 

「うぐっ……」

「ハァ、ハァ……ザコが」


 お互いにボロボロになりながも、いつくばる男と、なんとか立っている男。


 ここで行われていたのは、いわば『決闘』。

 決して序列戦ではない。

 それゆえに、審判に止められることもない。


 つまり、危険な事・・・・も許される状況下だ。


 アリアはふふっと笑みを浮かべて話しかける。

 当然、立っている方のみに。


「やるじゃない」

「ったりめーだ」


 口悪く答えたのは──エルガ・ミリウム。

 一年序列二位にして、入学早々グランと対決、その後しばらく姿を消していた男だ。


「く、くそ……」


 反対に、倒れているのは現『七傑』の男。

 彼の全体序列は六位。


 だが、その男にエルガは勝利したようだ。


「ア、アリア様っ!」

「……」


 倒れているこの男も『アリア派』。

 助けを求めるような顔で、彼女に手を向ける。


「お、俺は、まだ……!」

「ふふっ」


 だが、笑顔で近寄ったアリアの顔は──ひょうへん


「あなたには興味ない」

「……!?」

「弱い『七傑』はいらない」


 まるでゴミを見るような目だ。

 すでにこの男への感情は何も無い。


「行くわよ。エルガ・ミリウム」

「ああ」


 そうして、男の代わりにエルガを連れて行く。

 両者の内、勝った方が団体序列戦に参加させる約束だったようだ。


「俺はあいつを……ぶっ潰す」

「ふふっ。その意気よ」


 様々な思いが交差する団体序列戦。

 それがいよいよ本番を迎える──。





───────────────────────

【団体序列戦・メンバーと序列】

※一年が入学してからは序列未更新の為、一年は試験順に下位に付属


『グラン陣営』

グラン 一年一位(=全体百二十四位)

ニイナ・アリスフィア 一年三位

シンシア 一年四位

アウラ・フェイティア 全体三位

シャロン 全体七位


『アリア陣営』

アリア・アリスフィア 全体一位

エルガ・ミリウム 一年二位

??? 全体二位 (アリアの側近)

??? 

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