第35話 じれったい二人……?

<三人称視点>


 ニイナとアリアの序列戦より数日。


「……」


 ぶつぶつとつぶやきながら、学院の大通りを歩く一人の少女がいた。


「……なによっ」


 ニイナだ。


 彼女は、序列戦時に姉のアリアと交わした会話を思い出す。

 中でも、自分が発した言葉についてだ。


『わたしは、あいつ……グランのことが好き』


「~~~っ!」


 思い出すだけでも恥ずかしくなる。

 だけど同時に、どこか自分の気持ちに整理ができたような気もしていた。


(これが、好きって感情なのね)


 今までは、なんとなく考える事を避けていたこの感情。

 それが『恋』であったことをようやく自覚する。


 ならば、あとはグランに振り向いてほしい。

 ……のだが、


「なんで話しかけてこないのよー!」

 

 あの序列戦以降、グランとまともに話をしていないようだ。

 毎日顔は合わせるが、軽い挨拶あいさつのみで二人っきりで話すことはなかった。


「わたしから話しかけるなんて、そんなこと……」


 かといって自分からはいけない。

 これまでもそうだったし、恋愛感情を自覚した今はなおさらだ。


 そんなところに、


「あ」

「え? ~~~っ!」


 運が良いのか悪いのか、ちょうど授業終わりのグランと出くわす。


「ニ、ニイナっ」

「な、なによ!」


 ニイナはバクバクする心臓を抑えるよう腕を組み、ぷいっと視線を向ける。


(はっ……! またやってしまったわ!)

 

 若干の後悔をしながら。

 そんなニイナには、グランから口を開いた。


「一緒に帰る?」

「……!」


 その言葉に、またドキンと心を跳ねさせるニイナ。

 もちろん断る理由はない。


「え、ええ! 仕方ないわね!」

「良かった。じゃあ送ってくよ」

「……うん」

 

 そうして、二人は一緒にニイナ宅まで帰ることに。



 


 帰り道を歩くこと、しばらく。


「「……」」


 未だ二人の会話はない。

 ニイナの頭の中が混乱しきっていたからだ。


(な、何を話せばいいのかしら!?)


 今の自分は、変なことを口走りかねない。

 そう思うと中々口が動かないようだ。


(ていうか、どうしてそっちまで黙ってんのよー!)


 受け答えならなんとかできる……はず。

 だからグランからきてほしいのだが、そのタイミングが来ない。


 と思っていた時、


「ニイナ」

「……! な、なにかしら!」


 ようやくグランが口を開いた。


「さ、最近あんまり話してなかったよね」

「そ、そうかしら?」

「俺も何を話していいか分からなくなって……」

「え?」


 だが、その言葉に違和感を覚えるニイナ。

 今日初めて・・・・・グランの顔を覗いてみる。


「……!」


 そうして気づいた。

 どうやらグランの方もいつも通りではない。


(あれ、なんだか少し顔が赤い?)


 ならばと、その原因を探ってみる。

 ニイナも明晰めいせきな頭脳を持つ天才。

 すぐにそれらしき事は思い浮かべることができた。


(まさか……!)


 アリアが使っていた【妨害魔法 アリアフィア】。

 あれは確かに王家が誇る最高峰の魔法なのだろう。

 

 だがそれが、グランに通じるかは別の話。

 グランならあんな魔法なんて破ってしまうのではないか。

 そこまで予想できた。


(え、うそ。うそうそうそー!!)


 そして勘付いてしまった。

 もしかして、あの会話を聞かれていたということに。


「~~~っ!」


 ニイナは声にならない声を発する。

 まるで海の中の生物みたいな高い声だ。


「ちょっとあなた!」

「ど、どうしたの?」

「この前の姉様との会話を──」


(って、聞けるかーーー!)


 とっさに真実を確かめようとするが、恥ずかしさのあまりキャンセル。

 もし「聞いてたよ」と言われた日には、心臓がもたずに倒れそうになることが容易に想像できたからだ。


 だがグランは、ニイナが何を聞きたいか理解する。


「そ、そのことでなんだけど」

「……!?!?」


 ニイナの目は完全にぐるぐると回る。

 もはや王家の風格など、どこにもありはしない。

 今はただの恋する思春期の女の子だ。


 しかし、グランの次の言葉が彼女の耳を傾けさせた。


「なんだか心臓の方がズキズキして」

「え?」


 さらにグランは続けた。


「序列戦の時からなんだ。ニイナを見るとそうなるようになった」

「……!」

「こんなの受けたことがない。どんな魔法も効かないんだ」

「……!!」


(そ、それって……!)


 ニイナは自分史上最大速度で思考を巡らせる。

 それでも、導かれる答えは一つ。


(わたしを……意識してる?)


「だから、なんとなく話しかけずらくて」

「……!」

「何か知らない? ニイナ」


 本気で困ったようなグランの顔。

 ニイナにとって、それを見たのは初めてだった。


「ふふっ」


 それがなんとなく嬉しくて、つい笑ってしまう。


「知らないわ」

「えー、なんだよそれー」

「だって知らないものっ」


 気が付くと、パニックのようなものは消えていた。

 グランも同じだと思うと、自然に落ち着けたようだ。


「早く行くわよっ」

「あ、待ってよ!」


 そうして、少し頬を赤らめたような二人は歩いて行った。







 それからさらに数日。


 場所は『学生寮ディセンティ』。

 グランとシンシアが寝泊まりしている寮の前だ。


「みなの者、集まってくれて感謝する」


 アウラが集まった者の顔を見ながらそう伝える。

 

「はい」

「……はい」

「ええ!」


 メンバーはグラン、シンシア、ニイナ。

 いつメンが集合したところで、大切な会議が行われる。


「さきほど、『団体序列戦』の詳細が決まった」

「「「……!」」」


 アウラの発表に、一同は顔を引きめる。


 アウラ・グランが、アリアと話した時。

 『団体序列戦』は学院創設以来初めての試みである為、後日に色々と詳しく決めるという話に落ち着いた。


 そして本日、アウラとアリアが密談を交わし、ようやく『団体序列戦』の詳細が決められたようだ。


「概要は話していた通りだ」


 それについてアウラが改めて話し始める。

 大まかな変化はないようだ。


 出場メンバーは五人。

 それぞれ先鋒戦、中将戦、大将戦に分かれる。

 武器や防具に関する規定も、通常序列戦と全く同じ。


「そして、『団体序列戦』が行われる日程だが」


 一通りの説明を終え、アウラがハッキリ伝える。


「それが今月末に決まった」

「「「……!」」」


 それだけでグラン達は意味を理解する。

 今月が終われば、学院での四半期が終わる。


 ──それはつまり。


「この団体序列戦は序列更新に大きく影響する」


 アウラの言う通りだ。

 これは四人の序列も掛かった、大きな賭けなのだ。

 現『七傑』であるアウラにとっても、当然重たいものとなるだろう。


「だが、まだ問題が一つある」

「そうですね……」


 アウラの言葉にグランがうなずく。

 これはすでに四人の共通認識。


「我々には、もう一人メンバーが足りない」

「「「……」」」


 グラン・シンシアとアリアによって、進められた本計画。

 ニイナとシンシアに話すと同時に、二人は「参加する」とすぐさま返事をくれた。


「ゴラーク君なら誘ってみても──」

「ダメよ」

「だよね」


 グランの言葉には、ニイナがすぐさま拒否。


 相手の力量を考えれば当然だ。

 アリアは『全員七傑で揃える』と口にしていたのだから。


「「「うーん……」」」


 かといって、アウラにもあてはない。

 ここにきてぼっち……否、一人で仕事をこなしてきた弊害へいがいが出てしまった。


 ──そんなところに、


「もしかしてお困り?」

「「「……!」」」


 寮から出て来た一人の男。

 実力・協力関係共に信頼もできるであろう人物であった。


「最後の一人、僕はどうかな」

「シャロン先輩!」


 現学院『七傑』の一人であり、グラン達の寮長──シャロンが提案してきた。


 



───────────────────────

ニイナとアリアの秘密の会話を聞いていたグラン君。

彼もまだ「恋」ってほどではありませんが、意識しつつあるのかも……?

それに「恋」を教えてもらったか怪しいですね笑。


そして、団体序列戦の方はメンバー決定となるか!

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