第34話 思わぬ方向へ

 「グラン君のことは好きなの?」


 全体序列一位──アリア・アリスフィア。

 普段、滅多めったに表に姿を見せない彼女が、妹のニイナに序列戦を提案した。


 その理由は、これを聞くためだったようだ。


「そ、それは……」


 二人を囲うのは【妨害魔法 アリスフィア】。

 魔法大国として有名なアリスフィア王国、その王家が誇る最高級の妨害魔法だ。

 この会話は周りは一切聞こえていない。


 だが、会場内で唯一、グランはその妨害を無意識に突破。

 

「……え?」


 意図せず、アリアとニイナの会話を聞いてしまっている形となっていた。


 そんな中、アリアは薄っすらと笑みを浮かべながら促す。

 ニイナが口をもごもごさせているからだ。


「ニイナ」

「……ぼそぼそ」


 今のニイナに、グランが魔法を突破しているかなど考える余裕はない。

 そして、ようやく意を決した。


「……っ」


 ニイナの中に思い出がよみがえる。


 まだ学院に来て長くはない。

 それでも、良くも悪くもグランにかき乱された日々だった。


 最初の船でいきなり友達になろうと言われたこと。

 それからしばらくは「失礼な奴」とよく喧嘩していたこと。

 後になって気付けば、それが意外と楽しかったと気づいたこと。


 そして、血に汚されたアリスフィア王家に呑まれそうになった時、グランが魔法を楽しむことを思い出させてくれたこと。


 それらが全て……今の感情に繋がっているということ。


「わたしは……」

「うんうん」


 ニイナは顔を赤らめたまま、ぼそっとつぶやいた。


「あいつ……グランのことが好き」

「ふふっ!」


 その答えにアリアは両手を合わせた。

 それが聞けて満足そうだ。


 ──だが、


「……って」

「あら?」

「なわけないでしょーーー!!」


 ニイナの顔が爆発したように赤くなった。

 心臓の鼓動が限界だったようだ。


「あらあら」

「ハァ、ハァ……!」


 自分が何を言ったのか自覚して恥ずかしくなったみたいだ。


 それでも、姉のアリアには分かる。

 ニイナの感情が本物だということは。


「それがあなたの答えなのね」

「ち、違うんだからー!」


 そして、アリアは少し寂し気に・・・・に笑う。


「まだそんな表情ができるあなたが、うらやましく思うわ」

「アリア姉様? それはどういう……」

「解除」

「……!」


 だが、ニイナが尋ねる前にアリアは妨害魔法を解除。


「何が起きていたんだ!?」

「分からねえ!」

「あれがあの人の魔法か!?」


 途端に会場の声が二人に届く。

 同時に、アリアの表情は威圧的・・・なものへと変わった。

 いつもニイナへと向けられている表情だ。


「始めましょうか、ニイナ」


 その変化にニイナは目を見開く。


(アリア姉様、あなたはもしかして……!)


 何か思うことがあったようだ。

 しかし、妨害魔法を解除したアリアに、すでに容赦ようしゃはない。


 序列戦はもう始まっているのだ。


「早くしなさい。ニイナ」

「……!」

「その身が焼け焦げるわよ」


 そうして、二人の魔法の攻防が始まる──。







「かはっ!」


 ニイナが杖を手放し、地にせる。

 ここが彼女の限界だ。


『勝者、アリア・アリスフィア!』


「ふふっ」


 審判の声が響くが、観客の声は少ない。


「な、なんだったんだ……」

「そんなことがあるのか……?」

「相手も一年序列三位のニイナ様だぞ……」


 決着があまりに一瞬だったからだ。

 駆け引きなど何も存在せず、ただアリアの魔法の威力が上回った。

 言う事があるとするなら、それだけ。


 それが観客をドン引かせるほどのものだったのだ。


「ニイナ」

「アリア、姉様……」

「残念だったわね」


 そんな一言を残し、アリアは会場を去った。

 



 そして、会場外への通路にて。

 アリアの前に立ちはだかる、一人の少女。


「さすがだな、アリア」

「あら。久しぶりじゃない」


 アウラだ。

 一年時から張り合う仲間として、当然二人も知り合いである。


 そんな彼女に、不敵な笑みを浮かべたアリアが問う。


「なんの用かしら。生徒会長さん」

「なに、ちょっとした提案だよ」

「……へえ?」

 

 アリアはいつもの妖艶ようえんな表情を浮かべた。

 何を言い出すか分かっているようだ。


「ワタシとやろうじゃないか、序列戦」

「どういうつもりかしら」


 その問いには、強い眼差しを向けたアウラ。


「良からぬ事をするなら、ワタシが君を止める」

「……ふふっ」

「現ディセント学院生徒会長として」

「あははははっ!」


 その会話のみで、両者はお互いのメリットを理解する。


 アウラは、ニイナと同じく「アリアの目的」を尋ねるべく序列戦を提案したのだろう。


 アリアは、最近一度序列戦に負けているアウラをここで倒せば、今度こそ『七傑』から排除できる可能性がある。


 さらに今は、四半期に一度の序列更新間際・・・・・・


 アリアは提案に乗った。


「それは面白いわ!」

「なぜだ」

「だって」


 加えて、アリアには確信があったのだ。


「あなた如きが私に勝てるの?」

「……! やってみなきゃ分からないだろう」

「そうかしら。手、震えてるわよ?」

「……ッ!」


 アリアに指摘され、アウラはサッと手を隠す。

 口ではこう言いつつも、心の中ではおびえていることがバレたのだ。


 それもそのはず、この二人は過去に何度も対戦をしている。


 戦績はアウラの0勝3敗。

 全て圧倒的な敗北ばかり。


 一年時にして『七傑』入りしたアリア。

 彼女にとっては、アウラですら取るに足らない存在だったのだ。


 どれだけアウラが功績を重ねようとアウラを抜けない理由。

 それがここにあった。 


「分かっているさ。でも今度こそ──」

「会長」

「……!」


 そんなところに、後ろから声が割って入る。


「それなら俺にやらせてもらえませんか」

「グ、グラン君……!」


 真っ直ぐな目で歩いて来たのは、グランだ。


「俺もあなたに聞きたいことがあります。アリアさん」

「……ふふっ」


 一時はデートのように街を回ったグラン。

 その時のアリアと今のアリアを重ね、何か思うこと・・・・があるようだ。


「どうしようかしら。私ったらモテモテで困るわっ」

「──ならばアリア、あれ・・を行うのはどうだ」

「……!」


 冗談ぽく振る舞うアリアに、アウラが提案した。

 その言葉には、アリアも若干目を見開く。

 

 だが、


「いいじゃない」


 すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべた。


「え、何の話ですか? 会長」

「ああ。元はと言えば、アリアが発案者なのだが」

「ええ、そうね」


 アウラはその名を口にする。

 それはいつかの『七傑評議会』で決められた、新たな・・・序列戦の形。


「──団体序列戦」


 それが『団体序列戦』だ。

 

 ルールは簡単。

 普段ならば『一対一』の序列戦を、『五対五』で行うというもの。


 戦いはそれぞれ先鋒戦、中堅戦、大将戦に分かれる。

 先鋒・中堅戦はそれぞれ二人ずつ、大将戦のみ一対一で行われる。


 なぜわざわざ五人で行うかは……『七傑評議会』を牛耳るアリアの意思が込められている。


「でもいいのかしら」

「……ああ」

「こちらのメンツを考えてみなさい」


 現『七傑』のうち、アウラとシャロンを除いた五人がアリア派。


 つまり、団体序列戦に出てくる五人。

 それが全員七傑・・・・なのだ。


 これが、アリアが『団体序列戦』を発案した理由である。

 普通に考えれば、『七傑』五人に勝てるメンバーを揃えるなど不可能なのだ。


 ──それでも、


「いいですよ」

「……! へえ」


 その問いにはグランが答えた。


「俺もあなたを確かめたい……!」

 

 こうして、ニイナの序列戦敗北を経て、アリアとグラン達の団体序列戦が決定した──。






───────────────────────

ニイナ対アリアの序列戦から、事態は思わぬ方向へ進みました。

前話の『事態の幕開け』はここに繋がってくるわけですね!

この後にも展開はあるかもしれませんが……。


それから、アリア側は七傑五人だとして、グラン達には五人もいますかね……?

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