第33話 事態の幕開け

<三人称視点>


 時間もそれなりに経ち、気が付けば辺りも赤く染まっている。

 そんな中、グランとアリィは学生街の外れの方まで来ていた。


「終わっちゃいましたね」

「そうですね」


 二人っきりでたっぷりと学生街を満喫した二人。

 少し寂しい雰囲気にも包まれている。


 そうして、グランは心配そうにたずねた。


「もうすぐ暗くなりますけど……」

「はい」

「アリィさん、帰る場所はありますか」


 悪い人に追われているというアリィ。

 帰る場所がないのなら寮に連れて行くことまで、グランは考えていた。


 だが、アリィは首を横に振った。


「いえ、今日はここまでです」

「でも──」

「ふふっ。本当に優しいのね、グラン君」

「え?」


 アリィは少し雰囲気の違う声で笑った。


「それってどういう……あ!」


 そんな時、グランの魔力探知の範囲内に三人・・が入り込んで来る。

 魔力から、それはよく知る人物たちだと察した。


「どうされましたか?」

「多分、友達がこちらに向かってます」

「ふふっ。それじゃあ待ちましょうか」

「え? あ、はい」


 てっきり逃げるかと思って聞いたが、アリィは笑顔を浮かべた。

 グランは不思議がりながらも、それならと二人は待つことに。


 そうしてすぐ、グランを追っていた三人が姿を見せる。


「グラン!」

「ちょっと!」

「グラン君!」


 シンシア、ニイナ、アウラだ。

 一斉に声を上げた三人にグランが聞き返す。


「みんなして、一体どうしたの」

「グランがどこに行ったか心配で」

「ははっ、ごめんごめん」


 しかし、グランに寄ったのはシンシアのみ・・


 アウラとニイナは思わず固まってしまったのだ。

 グランの隣にいる人物に。


 そんなニイナが、震えながらに口を開く。


「なにを……」

「ニイナ?」


 さらに、顔を青くして声を上げた。


「なにをしているの!」

「ふふっ」


 その声が向けられているのは、グランの

 今日ずっと一緒にいたアリィだ。


アリア姉様・・・・・……!」

「えっ」


 その言葉に耳を疑いながも、ゆっくりとアリィの方を振り返るグラン。

 それに合わせて、帽子とサングラスを取った。


「あら。よく気が付いたわね、ニイナ」

「当たり前よ……!」


 中から出てきたのは、ニイナによく似た特徴を持つ顔。


「そんな……」


 長い金髪に、ただひたすらに「美しい」容姿。

 少し大人びたニイナのようにも見える。

 

 加えて、どこかで聞いた声に似ていた・・・・と思っていた声。

 グランはようやく気づく。


(ニイナそっくりじゃないか……!)


 そんなグランに、アリアはぺろっと舌を見せる。


「ごめんなさいね。グラン君」

「じゃあ、アリィさんというのは!」

「偽名よ。そもそも本名じゃなかったでしょ?」

「!」


 グランは彼女との会話を思い出す。


『私のことはアリィとでも呼んでくれれば』


「まさか、本当に……?」

「ええ」


 アリィ、改めアリアは目を閉じながらうなずく。

 それでも納得のいかないグランが続けた。


「でも、悪い人に追いかけられてるって──」

「うーそっ」

「……!」


 だが、その答えに言葉を失ってしまう。

 そうしてグランが驚く中、ニイナが再び声を上げる。


「アリア姉様!」

「あら」

「何をしているか、答えてと言ってるのよ!」

「ふふっ」


 アリアは妖艶ようえんまなしをグランに向ける。


「グラン君とデートをしたかっただけよ」

「ふざけないで!」

「あらまあ」


 つーんと口を尖らせるアリア。

 その美貌とは裏腹に、今の彼女からはどこか威圧感も感じる。


「大真面目なのに……って、そうだっ」


 そんな中、アリアは何かを思いついたように「うん!」とうなずいた。


「ニイナはそんなに知りたいのね、私の目的っ」

「ええ、そうよ!」

「じゃあ私とやるかしら」

「!」


 アリアが何を言い出すのか、大体の予想はつく。

 だからこそニイナは、弱々しく尋ねた。


「な、なにを……」

「序列戦っ」

「……!」


 その答えは、案の定。

 顔をひきつらせるにニイナに、ふふっと笑ったままアリアが続ける。


「知りたいんでしょう、私の目的。それを賭けてやってあげてもいいわ」

「そ、それはっ……」

「あら。意外と意気地無しなのね」

「ち、違うわ! わたしの条件は何なのよ!」


 序列戦は互いが条件をのみ、はじめて成立する。

 まだ一年生のニイナが、全体序列一位のアリアとやるとなれば、かなりの条件がいるはずなのだ。


「そんなのいらないわ」

「!?」

「可愛い妹から何を奪おうって言うのかしら」

「そんな、戯言ざれごとを……!」


 しかし、アリアは何も要求せず。


 条件とは、序列下位から上位に挑む時、その対価として上位に与える報酬のようなもの。

 こうすることで、上位の者にも序列戦を受けるメリットが生まれる仕組みだ。


 だが、このように上の者が何も要求しなければ、序列戦は成立する。

 こんなことは滅多に起こり得ないが。


「あらやだ。本音なのに」

「……そういうことなら、わかったわ」

「ふふっ!」


 そして、ニイナはアリアに強い視線を向ける。


 これはデメリットがない勝負。

 受けないはずがない。


「受けて立つわ! アリア姉様……!」

「それでこそよ。可愛い私の妹っ」


 こうして、話は思わぬ方向へと話が進み、両者の序列戦が決定。


 ──それでも、事態はまだほんの幕開けである。

 






 後日。

 ディセント学院、第一闘技場。


 この広い場内を埋め尽くすほどの人数。

 だが、その声はまさにぶんしていた。


「まじかよ、この序列戦……」

「アリスフィア王国の姉妹だって!?」

「というか、お姉さんも学院にいたんだな」


 それほど事情を知らず、ただ興味本位で来ている者たち。


 反対に、


「あの方がアリア様……?」

「表舞台に姿を現すのなんていつぶりだ?」

「序列戦も最後は去年とかでは?」

「どうして今になって……」


 アリアがこの学院において、「裏の支配者」であることを知る者たち。

 比較的序列上位の者、もしくは三年生が中心のようだ。


 さらに、この男も。


「これはさすがに……予想できないでしょ」


 全体序列七位。

 アリアと同じ『七傑』にして、グラン達の寮長──シャロンだ。


「……」


 彼は、どこか心配そうに・・・・・闘技場内を見つめていた。


 そして、観客席の一角に座るグラン。

 アウラにシンシアも一緒だ。


「ニイナ……」


 アリアの提案により、ニイナが敗北した時の条件は無い。

 それでも心配せずにはいられなかった。


「他の人の序列戦ってこんなに緊張するんだ」


 ただ、その言葉には──


「そうだよ」

「そうだぞ」


「いてっ」


 アウラとシンシアにチョップを食らう。


「グランの序列戦はいつもハラハラ」

「もう少し君と早く関わっていれば、ワタシはグローリア戦など見ていられなかっただろうな」


「す、すいません……」


 少しムッとした目を二人に向けられたようだ。

 

「でも、今はニイナを信じます」

「……うん」

「ああ、そうだな」


 そうして、闘技場内に意識を向けた。




『それでは、序列戦アリア・アリスフィア 対 ニイナ・アリスフィア──』


 審判の合図と共に、距離を取って睨み合う両者。


『はじめ!』


 その戦いの火ぶたが切られた。


「アリア姉様!」

「なにかしら」


 ニイナが魔力を練りながら声を上げる。


「条件を要求しなかったのは、結局なぜですか」

「……ふふっ、そうね」


 二人は序列戦の前、一度会話を交わしている。


 その時、アリアは「戦いが始まったら教えてあげる」と言っていたよう。

 そこで今ニイナが尋ねたというわけだ。


 対してアリアは、パチンと指を鳴らす。


「──【妨害魔法 アリスフィア・・・・・・】」

「!?」


 途端に、アリアとニイナを囲む透明な領域が展開された。

 ニイナが思わず声を上げる。


「これは……!?」

「あら。ニイナはまだ会得してないのね」


 そんな彼女に、アリアは笑みを浮かべながら説明する。


「これはアリスフィア王家に伝わる魔法。この空間内には、アリスフィア王家しか侵入できないわ」

「……!」

「そして、領域内の会話は漏れない。この魔法を破れるのは、同じアリスフィア王家のみよ」


 アリアの言う通り、これはアリスフィア王家が生み出した“独自の魔法”。

 アリスフィア王家以外は侵入することができず、あらゆる会話を外にらさない。


「これで何を聞こうって言うの……?」

「ふふっ。話が早くて助かるわ」


 そして、ニイナは勘づいた。


 学院内外でこんな大規模魔法を使えば、大ごとになるに違いない。

 そこで、合法的にこの魔法を使うためだけに、序列戦を開いたのだと。


「ニイナ、あなた……」


 だが、ニイナが予想していた質問は大外れ。


「グラン君のことは好きなの?」

「はい!?」


 尋ねられたのは『恋バナ』。

 こんな会話をしているなんて、領域外の誰が思うだろう。


「それってどういう!」

「もちろん、恋愛的な意味でよっ」

「……!?!?」


 しかし、アリアの目は真剣そのもの。


 彼女は本当にこれを聞きにきたのだ。

 ニイナはそう直感した。


「そ、それは……」


 ならば答えるしかない。


 すると、みるみるうちに顔を赤くするニイナ。

 外に漏れないのであればと、真剣に考えてしまっているのだ。




 ──だがこの時、ニイナの計算外のことが一つだけ起きていた。


 アリアは嘘をついていない。

 これは本当に、アリスフィア王家が誇る最高級の妨害魔法だ。


 しかし、にとってはあまりに些細ささいな魔法に過ぎなかった。


「……え?」


 グランはほぼ無意識に領域を突破。

 二人の会話はしっかりと耳に入っていた。





───────────────────────

ニイナがまさかの形で大ピンチ(?)に……!


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