第31話 次なる影

<グラン視点>


「「「おじゃましまーす!」」」


 ノックの後、俺・ニイナ・シンシアで声を合わせて部屋に入って行く。


「来てくれたか!」

「はい、会長」


 場所は生徒会室だ。


 序列戦から数日。

 会長から「すぐに会いたい」とは言われていた。

 でも、どうも会長の周りに人が集まっていて、中々会いに行けなかったんだ。


 そこで、


「はじめましてね! アウラ生徒会長!」

「……は、はじめまして」


 ニイナとシンシアにも話して、せっかくなら連れて来てみた。

 会長も友達がほしいって言っていたし。


「会長、伝えていたニイナとシンシアです」

「ああ、もちろん知っているとも。二人とも来てくれてありがとう」


 二人のあいさつに、会長は早速嬉しそうな顔を見せる。

 女の子同士で話せることもあるだろうし、仲良くなってほしいな。


「まあ、座ってくれたまえ」

「「「はい!」」」


 広い生徒会室の中でも奥の方、客間に足を運ぶ。

 すると出てきたのは……紅茶とたくさんのお菓子たち。


「さあ、好きに食べてくれ」

「いいのね!」

「ありがとうございます……!」


 可愛らしい包装がされたお菓子たちだ。

 ニイナとシンシアはすぐに食いつく。


「なんだいグラン君。その顔は」

「あ、いえ、そういえばお弁当箱も可愛らしかったなあと思い出しまして」

「なっ!」


 とっさに聞かれて口走ってしまうと、会長は顔を赤くした。


「それは内緒だろう!」

「そうでしたか? でももう噂になってますよ」

「な、なにがだ……?」

「会長の持ち物が結構可愛らしいって」

「なに!?」


 会長はバッと二人の方を向いた。


「そ、そうなのか……?」


「ええ、そうね」

「確かに聞きました」


「そ、それはその……もごもご」


 恥ずかしくなったのか、口をすぼめてしまう会長。

 案外、これぐらいいじられる・・・・・方が合ってたりするのかな?


 そんな様子に、二人もふふっと笑った。


「本当にあなたに聞いてた通りなのね」

「意外かも」

「だっから言ったでしょー」


 二人には何度も「会長は意外と普通の人だよ」と伝えていた。

 でも、完璧超人だと思い込んでいる二人は信じてくれなかった。

 それを今やっとわかってくれたみたいだ。


 そうして、ようやく立ち直った会長。

 今度は会長から尋ねる。


「二人はグラン君の友達・・ってことでいいのだろうか」

「「!!」」


 だけど、その言葉にはニイナもシンシアもびくっとする反応を見せる。

 急に不安になった俺は思わず口を開いた。


「え、違うの?」


「違うというか……」

「違いはしないけど……」


 なんだか気になる反応だ。

 あれ、もしかして友達と思ってたの俺だけ……?


 そんな二人に対して、何かを察したような会長。

 ふっと笑いながら言葉に出す。


「ふむ、なるほど」

「何がですか!? 会長!」

「君は知らなくていいんだ、グラン君」

「えー」


 それから会長が二人にニコリと笑いかける。

 若干いつもより目が笑っていないようにも見えるけど。


そちらの意味・・・・・・でもよろしく、ということだな」

「「!!」」


 その言葉に、三人は謎にうなずき合う。


「やっぱりそうだったのね」

「強力なライバル」


「何の話なんだ……」


 結局よく分からないまま、話は終えてしまった。


 これが「女の子の秘密」というやつなのかもしれない。

 里のお姉さん──デンジャにならった通り、深くは突っ込まないでおこう。


 そうして、話は本題へ。


「そういえば、今日の話というのは?」

「うむ、そうだったな。会いたかっただけというのも本心だが──」

 

 話しながら、会長は何やら魔法紙を取り出す。


「せっかくなら少し話でもしよう」

「これって!」


 会長が持ってきたのは、学院の全体・・序列。


「ん? 別に何も特別なものではないぞ。学院内のそこら中に貼ってあるからな」

「え?」


 だけど、これが貴重というわけではないみたい。


「ええ、どこにでも貼ってあるわよ」

「グランは無知」

「……これは生徒会の責任だな」


「なんかすみません」


 初見なのは俺だけらしい。

 そうして謝った後、話は進む。


「まずは下の方、これが今の君達だ」

「えっとー」


 言われた通り、序列を下の方から眺める。

 

────

ディセント学院 全体序列


124 グラン

125 エルガ・ミリウム

126 ニイナ・アリスフィア

127 シンシア

204 アルマジロ・モフアー

──


 下位には見事に一年生がずらり。


「君たちが入ってから序列更新は行われていない・・・・・・・・・・・・からな。一年生は受験順位のまま、上級生の下にくっついた形だ」

「なるほど」


 序列の更新は四半期に一度。

 俺たちはただ下に加わっただけの形みたいだ。


 また合格者は毎年80名程度なので、やめた上級生が抜けたと考えるとこんなものだろう。


「そして、問題はだ」

「上?」


 軽く流しながら、順に視線を上げていく。

 そして最上位まで目を通した……が。


 一つ気づいたことがある。


「八位より上がない?」

「そうだ」


 紙の上の方、序列が載っているのは八位まで・・・・

 いわゆる『七傑』と言われる人たちの名が載っていないんだ。


「これは一体?」

非公開・・・なんだよ。しばらく前から」

「え、そんなことができるんですか?」

「……ああ、できてしまうんだ」


 若干下向きになった会長が言葉した。


「『七傑評議会』による決定ならばな」

「……!」

 

 会長が続けて説明をしてくれた。


 『七傑評議会』。

 不定期に開催される『七傑』のみでの極秘の会議のことだそうだ。


 この会議は校内のどの組織よりも権力を持つ。

 まさに学院全体の意思決定のようだという。


「もちろん勝手に教員をやめさせるなど教員側への権力はない。だが、基本なんでもできる・・・・・・・・・

「……!」


 その言葉に込められた『七傑』の地位。

 改めてその重さに気づかされる。


「では、序列非公開にしたのはどうして?」

「さあな。ワタシは公平性を欠くとして反対したが、過半数を取られてしまってな。残念ながら可決だよ」


 そこで、疑問を覚える。

 もしかして俺の考えていた前提が違っていたのではないかと思ったんだ。


「あの、会長」

「なんだ」


 俺はその疑問を解くように会長に求めた。


「会長の序列って一位じゃなんですか?」

「……」


 正直、勝手にそう思っていた。

 だけど、会長は首を横に振る。

 

「ワタシの序列は三位・・だよ」

「!」


 会長が一位だと思っていた。

 だから特に気にしなかったんだ。

 表舞台で一番目立っているのは会長なのだから。


「いるんだよ。まるで君のように、努力だけではどうにもならない圧倒的なまでの才能がね」

「そんな人が一位と二位だと?」

「……ああ。それに」


 会長はチラリとニイナ・・・の方に目を向けた。


「ニイナ君は勘づいているんじゃないか」

「やっぱり……」


 ニイナが口を開いた。

 何かに勘づいたみたいだ。


 そうして、会長がようやく答える。


「ああ。ディセント学院、序列一位は君の姉──アリア・アリスフィアだ」

「え」

「さらに、二位は彼女の直属の執事」

「……!」


 部屋の中に衝撃が走る。

 一位がニイナのお姉さんだったなんて。


「それだけではない」

「え?」


 だけど、会長の言葉にはまだ続きがあった。


「学院には『アリア派』と呼ばれるばつがある」

「アリア派?」

「ああ。彼女らはアリアに付き従い、言われたままに動く」


 会長の重たい口調が続く。


「『七傑』のうち、ワタシとシャロン君を抜いた残り五人、あとは全てアリア派・・・・・・なんだ」」

「……!」


 そして、会長が話を締めくくる。


「ワタシが言いたかったのは、『七傑評議会』の過半数が彼女の手下だという事実」

「……」

「そして、彼女は何かよくない事・・・・・を考えているかもしれない」


 少し暗い顔を浮かべたまま。


「学院をも超えた、とても広い意味でね」







<三人称視点>


 ここは名も無き場所。

 暗く寂しく、一切の人すら寄り付かないような場所である。


 そんな場所に、一人の少女。


「あなたが例の【あの人】かしら」

「ほう。君は……」


 彼女の名はアリア・アリスフィア。

 学院を飛び出し、部下を引き連れてこの場所に訪れたようだ。


 そんな彼女に【あの人】は聞き返す。


「この場所はグローリア君から聞いたのかい」

「ええ、そうね」

「ふむ」

「手段は言わないでおいてあげるわ」


 グローリアがグランに敗北した時、彼が口にしていた【あの人】。

 それと同一人物のようだ。


「して、君の目的は?」

「……ふふっ」


 その問いに対しては、妖艶ようえんな顔を浮かべて答えるアリア。


「全部っ」


 アリアの欲は止まる事を知らない。

 彼女は究極のわがまま女王なのだ。


「学院も大陸も地位も。全て、全て私のものにすることだわ!」

「……ふむ」

「だからこそ──」


 そして、その中でも今の願望を口にした。


「まずはグラン君が欲しいわ!」

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