第30話 アウラ・フェイティア 過去と未来

 「そう簡単には負けません、会長」

「やはりそうでなくてはな……!」


 グランと同じく、英雄『剣聖』ザンから剣を教わっていたアウラの兄。


 そんな亡き兄のイメージと研鑽けんさんを続けたアウラは、いつしか対剣聖に特化した・・・・・・・・剣技を習得していた。


 そうして対決が始まった両者は、対策の差により、まさかのグランが追い詰められる展開に。


 だが、その勢いのまま対決を制するかと思われた間際。

 グランが一瞬の隙で反撃に出る。


「……っ」


 思わぬ一発から、一旦距離を取ったアウラ。


(どこから攻撃の手が出てきた?)


 対策しきっているはずのグランの剣技。

 だが、今の攻撃はまるで予想外からの一手だったのだ。


「そろそろ反撃しますよ!」

「さすがだな、グラン君……!」


 お互いに闘志が沸き上がる。

 

 グランにとっては、全力を出せる相手。

 アウラにとっては、超えるべき相手だからだ。


 それでも、アウラには疑問は残る。


(さっきの攻撃が気になるな)


「ならばッ!」

「!」


 アウラは考えを振り切って自ら前に出る。


 ついさっきまでは自分が押していた。

 それなら押し切る方向へと変えたのだ。


「はあああああッ!」

「……」


 アウラが見誤っていたとするなら、グランの本当の力。

 派手な剣と魔法の力に目がいきがちだが、それを底で支える知識・・があってこそ、グランは真に力を発揮する。


「見切りましたよ、会長」

「……!?」


 今まで通用していた剣技を、グランは正面から受け止める。


 さらに、


「──!」

「ぐっ!?」


 アウラが読んだ方向とは反対・・からの一手、


「次はこっちです」

「……!」


 かと思えば、下からの追撃。


(バカな!)


「ぐああっ!」


 グランの猛攻に端まで追い詰められるアウラ。

 押していたはずの攻防は、いつの間にか圧倒されてしまっている。


(なぜだ! ──!)


 考えるアウラの頭の中で、さっきのグランの言葉がよみがえる。


『見切りましたよ、会長』


「……!」


 その言葉から、彼女は嫌な仮説・・・・を立ててしまう。

 賢すぎる頭が仇となったのだ。


(そんなはずは……!)


 アウラはその仮説を振り切るよう、自らグランへと向かう。


「まだまだ!」


 そんなことあってはならない。

 もしそうなら、この対決の行方はすでに決しているのだから。


 ──しかし。


「それはもう読みました・・・・・

「なんだと!? ……ッ!」


 再び飛ばされるアウラ。

 もはや攻防にすらなっていない。


 ならばもう、認めるしかない。


(私の仮説は……当たったのか)


 グランのやったことは、実は至極単純。

 アウラが自分の剣技を対策した剣技ならば、それを対策すればいい。


(これほどなのか、この少年は……!)


 つまり、対策の対策・・・・・


 グランの英雄のわざは『剣聖』や『魔女』だけではない。

 それを底で支える“『賢者』の知識”があってこそグランは真に力を発揮する。


「もう俺に剣は当たりません」


 『賢者』ウィズより教えられた数多の戦術。

 それらを応用して、グランはアウラの剣技を全て理解した。


 今のグランは、もはや“未来予知”の領域。

 アウラが次に出す手を限りなく正確に読める。


 だがそれは、


「早すぎるだろう。あまりにも……!」


 アウラの言う通り、早すぎる・・・・


 彼女が何年もかけて実らせた『対剣聖』の剣技。

 それに等しいことを、グランはほんの十数分程度の打ち合いで、完成させてしまったのだから。


 アウラは問う。

 

「ならば初めから、君はわざと押されるフリを?」

「……」


 しかし、それには首をに振る。


「そんなわけはないです」

「!」

「想いが乗った会長の剣は本当に強かった」


 そして、グランはニッと笑った。


「でも、だからこそ、会長と剣を重ねるのは楽しい!」

「……! 君は一体どこまで!」


 これもやはり、グランの根源である『究極に楽しむ才能』から来る。


 アウラの剣技をもっと知りたい。

 その考えが超越し、全てを読み切るに至った。


「会長、楽しかったです」

「──!」


(右……!)


 グランの剣術ならば、ここは右に来る。

 そう呼んだアウラの対策……


「さっきまでならそっちでした」

「……!」


 の、さらに対策。

 完全にきょをつかれたアウラは懐に入り込まれる。


 ──そして、カーンと甲高い音が響いた。


「……フッ」


 アウラの剣が、グランによって場外まで飛ばされた音だ。


「ワタシの……負けだ」

「ありがとうございました」


『勝者、グラン!』


「「「うおおおおおおおおおっ!!」」」


 審判の勝者コールにより、会場は一気に盛り上がった。




 会場が大盛り上がりする中。


「……」


 へたり込んでしまうアウラ。

 今の彼女の耳には歓声は届いていない。


「ワタシは……」


 アウラ自身、兄に固執しすぎているのは自覚していた。

 だからこそ、同じ剣術を持つグランを倒すことで過去を清算し、全てを忘れようとしていたのだ。


 しかし、結果は敗北。


(ワタシは、超えられなかったのだな)


 やはり自分は過去を超えられない。

 そう結論づけそうになってしまう。


 そんなアウラに対して、


「会長」


 グランは隣にしゃがみこむ。


「グラン君……」

「アウラ会長の想いは聞いています」

「え?」


 グランはメイドからその話を聞いていたのだ。


「それでも、俺は全力でぶつかりたかった」

「……そうか」


 その上で勝ったのだと言う。

 だが、そこにはグランの優しい考えがあった。


「お兄さんへの憧れは決して悪いことじゃない」

「……!」

「でも、そこだけを見ないで」


 グランが手を差し伸ばし、アウラを支える。


「今まで、会長の世界にはお兄さんしかいなかった。だから、自分とお兄さんだけを比べてしまって、辛くなったんだと思います」

「……っ」

「でも、周りに耳を傾けてください」

「周りに?」


 グランは観客全体を指すよう、腕を広げた。


「……!」


 アウラに届くのは、それは大きな大きな歓声。


「アウラ生徒会長ー!」

「すごかったです!」

「興奮しました!!」

「会長大好きです!」


 グランを称える声以上に届く、アウラへの賞賛。


「これは……」

「全部、会長が築いたものですよ」

「……!」


 敗北の瞬間、思考を閉じてしまったアウラには聞こえなかった。

 それをグランが「耳を傾けて」と言ったことで、初めて伝わってくる。


「確かにお兄さんはすごい人かもしれません。それを追ってきたから、今の会長があると言っても良いと思います」

「ああ」

「ですが」


 グランは確信を持って言葉にする。


「みんなが尊敬しているのは会長自身・・です」

「……!」

「過程がどうであれ、結果的に学院に尽くしてきた。そんな会長をみんな尊敬してると思います」

「グラン君……」


 涙ぐむアウラに、グランはニッコリと笑った。


「それだけは誇りに思ってください!」

「ああ。ああ……!」


 アウラが自然とグランにハグを求める。


 これは、今まで周りに見せなかった弱い自分。

 でも、それもさらけ出していいと思えた。


「これを伝えたくて、僕は最後まで全力でぶつかろうと」

「ありがとう……!」


 二人は中央で抱き合った。


──わあああああああっ!


 その姿には今日一番の歓声が上がったという。


「「「ア、アウラ様ーーー!!」」」

   

 ……中には発狂・・も含まれていたかもしれないが。







<アウラ視点>


 数日後。


「アウラ生徒会長、失礼します!」

「ああ」


 生徒会室に後輩が入ってくる。


「これお願いしてもいいですか!」

「構わないぞ」

「ありがとうございま……あ、でも!」

「?」


 後輩はワタシへの資料を引っ込める。


「また無理をしてませんか?」

「……! フッ、大丈夫だよ。今は、みながそう言うことでかえって暇なんだ」

「良かったです!」


 そうして、後輩から資料を受け取った。


「では失礼します!」

「ああ」

「くれぐれも体にはお気をつけて!」


 後輩が出て行ったのを見計らい、背もたれに寄りかかる。


「……フッ」


 グラン君、あれから周りはすごく変わったよ。

 

 今までのことを謝ってくる者、助けになってくれる者、声をかけてくれる者。

 ……あとは、ハグを求めてくる愚か者(応じるわけはないが)。


 周りに目を向けてみれば、ワタシはたくさんの人に囲まれていたんだ。


「君の言った事は正しかったんだな」


 でも、一つだけ。

 一つだけ君が言った事には違うことがあるんだ。


「……」


 君は、ワタシの世界にはワタシと兄上しかいないと言っただろう。


 しかし、それは違った。

 似ていたから気づかなかったんだよ。


 ほんの少し前から・・・・・・・・、兄上ではなく、ワタシは兄上に似た人の背中を追っていたんだ。


「……ふふっ」


 少年のように小さい背中。

 だけど頼れる大きな背中。


「グラン君」


 ワタシは兄上の影を君に見ていたんだ。

 おそらくこれから未来さきもずっと。


「だがまあ……」


 兄上よりも、さらに遠い背中かもしれないな。





───────────────────────

アウラ会長は無事救われましたね!

これからはグランとも周りとも、さらに良い関係を作れることでしょう!


ただ、同時に激しいヒロインレースに参加するという意味にも……?

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