第29話 アウラの剣技

<三人称視点>


 ディセント学院、放課後。

 生徒たちあわただしく闘技場へ向かう。


 本日の序列戦『グラン対アウラ』を見るためだ。


「またあの一年か!?」

「まじで話題尽きねえな!」

「最近あのグローリアとやったばっかだろ!?」


 グランが学院に来てまた一か月経たず。


 全ての対決を含めれば、一年序列二位エルガ、一年序列三位ニイナ、英雄に最も近い者グローリアに続き、四戦目。


「よろしく。グラン君」

「はい、アウラ会長!」


 ついに、『七傑』にして学院生徒会長──アウラ・フェイティアと序列戦を行うこととなった。


「うおおおおお!」

「一年いけえ!」

「今回も期待してるぞ!」


「アウラ様ファンクラブ声出すぞ!」

「「「おおっ!」」」


 会場の勝利予想は半々。

 いや、むしろグランの方が多いかもしれない。


 それほどに、直近のグローリア戦のインパクトは強かった。


 そして、闘技場内で握手を交わした両者。


「それより、本当にいいのか? グラン君」

「?」


 今一度、今回の戦いについて確認する。


剣のみで戦う・・・・・というのは」

「……」


 アウラとて『七傑』の名に恥じない魔法を持つ。

 それでも、異常すぎるグランに対してはさすがに劣ってしまう。


 つまり、その差がなくなる分、この条件はアウラに有利にはたらく。


「もちろんです。俺から提案したことですから」

「分かった」


 だが、提案したのはグランからのようだ。

 彼には何か考えがあるのかもしれない。


「ワタシも剣士として、君とやりたかったんだ」

「ベストを尽くしましょう」

「ああ」


 言葉を交わし終え、両者は互いに距離を取る。


『始め!』


「……」

「……」


 審判のコールがあったにもかかわらず、両者は大きく動きはしない。


 一歩寄っては一歩下がり、互いに距離を保つ。

 まさに達人の間合いだ。


「「「……」」」


 観客もそれが分かっているだけに大きく声は上げず、固唾を飲んで見守る。


 そうしてしばらく、


「──!」


 珍しく先に動いたのはグラン。


「……!」

「実戦だとよりはやいな」


 手合わせの時とは違うグランのスピード。

 だが、それをアウラは受け止めて見せる。


 ──そして、


「もっと上げますよ!」

「ああ、来いッ!」


 そこからは一転。

 両者の剣が中央で激しくぶつかり合う。


「うおおおおッ!」

「はあああああ!」


 グランが仕掛け、アウラが受ける。

 アウラのカウンターをグランが受け流す。


「なんだよあれ!」

「見えねえ!」

「速すぎだろ!!」


 あまりにも速い太刀筋に、観客は息を呑む。

 なお、全てを目で追えている者はほとんどいないだろう。


 そんな中、


「……!」


 胸の前で両手を包み、心配そうに行方を見守る少女が一人。

 アウラ専属のメイドだ。


(アウラ様……)


 彼女は、あるじがグランと接するようになってからの日々を思い出していた。


───


 とある日の夜、アウラの部屋にて。

 グランとアウラはすでに何度も会う仲だ。


「兄上……」


 兄の形見である剣を手に取るアウラ。

 たまたま少し扉が開いていたことから、メイドは廊下から言葉を聞いてしまっていた。


「兄上、最近変な縁が生まれました」


 ぐっと力を込めたまま、言葉を続けるアウラ。


「グラン君って言います」


 言葉を重なる度、剣を握る力は強くなる。


「明るく、強く、剣も魔法もできる。まるで兄上を見ているようです」


 “高貴さ”という点では全く違う。

 それでも、アウラは確かにそんな風にグランを見ていた。


「それに、あの剣術……兄上とそっくりなんです」


 アウラがグランを初めて招いた日。

 彼女はグランの剣の師匠について詳しく尋ねた。


 尊敬する兄とグランの剣術が、限りなく似ている・・・・・・・・ものだったからだ。

 

 そして、何度か手合わせを行った二人。

 アウラはほとんど確信を得る。


「彼と兄上の師匠は、同じ人なのかもしれませんね」


 剣に優れていたというアウラの兄。

 彼は実は、剣聖ザンから剣を教わっていたのだ。


「それが、それが……」


 そうして、アウラは一層剣を強く握る。


「ワタシには懐かしく思えて仕方なりません……!」


 涙を一粒こぼすアウラ。

 グランに最初に近づいたのは、こんな理由からだったようだ。


「そんな彼はワタシと友達になってくれました。さらに前を向くよう導いてくれます」


 それから、そっと形見の剣を置くアウラ。

 

「ですが、だからこそ、ワタシは彼を超えたい」


 改めて決意を新たにした。


「兄上と同じ剣技の彼を超えて、過去のものにする。いつまでも囚われないようになるためにも」


 いつものキリっとした目に戻るアウラ。


「グラン君に直接対決で勝ちます。そして──」


 だが、そこには少しの寂しさもあった。


「兄上のことは全て忘れよう」


───


 アウラはそんな思いのために戦う。

 

 そしてそれこそが、アウラがグランと互角以上に戦う理由でもあった。


「いくぞグラン君!」

「……!」


 アウラは兄を亡くしてからも、いつも兄の剣術を相手にイメージして研鑽けんさんしてきた。

 剣聖ザンから教わっていない彼女には剣術はマスターできなかったが、その副産物を得たのだ。


「アウラ会長……!」


 いつしかアウラの剣術は、対剣聖に特化・・・・・・し始めていた。


 イメージで何千、何万と剣聖の剣術と戦ってきたアウラ。

 それが実り、本番でついにグランを押し始める。


「おい、会長が押してないか!?」

「やっぱりすげえ!」

「でも、一年はグローリアを倒した剣だぞ!?」


「「「アウラ様ーーー!!」」」

 

 この流れに観客は大盛り上がり。

 その歓声に応えるよう、アウラもギアを上げた。


「決めるぞ、グラン君……!」

「……!」


 だが、グランはニヤリと笑う。


やっぱり・・・・そうでしたか」

「──! ぐっ!」


 グランの一瞬の反撃。

 剣を弾かれ、距離を取らされたアウラは、今の攻防をとっさに振り返る。


(今、何が起きた……?)


 だが、すぐに理解はできない。

 対剣聖に特化されたアウラの剣技のはずが、完全に対策外からの攻撃だったのだ。


「そう簡単には負けません、会長」

「やはりそうでなくてはな……!」


 両者の決着はまだ先のようだ──。

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