第28話 まさかの誘い
<グラン視点>
「グラン。一緒にかえろ」
「あ、いや、今日はちょっと」
今日も授業を一通り終えた後、シンシアがそう誘ってくる。
でも、今日は用事が……なんて思っていたら、横から高い声が飛んできた。
「またなの!?」
「うわっ!」
ニイナだ。
胸の前で腕を組みながら、さらに言及してきた。
「また会長からのお呼び出しかしら?」
「あ、そうなんだよね。ははは……」
「ははは~、じゃないわよっ!」
ニイナは細目でぐっと顔を近づけてくる。
「会長と秘密の関係になったりしてるんじゃないでしょうね?」
「いや、そんなことは……」
ニイナを抑えながらふと考えてみる。
秘密の関係……ではないと思う。
でも、会長が頑張る理由を知るのは生徒では俺だけ……。
あれ、これって秘密の関係なの?
「怪しいわ!」
「いやいやいや!」
だけど、ここで大っぴらに話すこともできない。
今はとにかく否定だ。
「このたらし!」
「だから違うって~」
「ふんっ」
そうして俺を睨みつけた後、シンシアを呼んで二人でコソコソと話し始める。
「やっぱり、あのアウラって会長!」
「そうかもしれない」
「まったく、油断ならないわ」
正確には聞き取れないので、何の話かは分からない。
「と、とりあえず俺は帰るよ。また早朝練でね!」
「
「ふーんだ!」
シンシアは控えめに手を振って、ニイナはぷいっと顔を逸らした。
けど、シンシアも目が笑っていなかったような……いや、気のせいか。
★
「来てくれたか!」
アウラ会長邸に着くと、ぴったり表門に張り付いていた会長が顔を出す。
いつもに増して笑顔だ。
「すみません、ちょっと遅れましたかね」
「大丈夫だ。そんなことはない」
「良かったです。あと……」
「ん?」
俺はポケットからある封筒を取り出した。
「会長、毎度ここまで重大そうに呼び出さなくても」
それは会長からの招待状のようなもの。
誘われる時は、いつもこんな感じの綺麗な封筒が届くんだ。
中身も『最近はいかがお過ごしで~』みたいな挨拶から始まる。
会長が倒れてから一週間。
お呼び出しはもう三度目なのに、よく挨拶が尽きないなあとは思う。
「す、すまない。友達というのがどういう距離感か分からなくてな」
「俺も分かりませんけど、ここまでしなくても来ますよ」
「……っ! そ、そうか!」
「はい。いつでも呼んでください」
「~~~っ!」
なぜか顔が赤くなっている会長。
不思議と前よりも視線も合う気がする。
「そ、そろそろ入ってくれたまえ!」
「お邪魔しまーす」
それから案内されるがまま、会長の家に入って行った。
「グラン君。これは?」
「あー、そうですね」
簡単なお菓子をもらいながら、会長から渡された資料に目を通す。
会長の家に来てやっているのは、主に二つ。
生徒会の仕事手伝いと、たまに剣の手合わせをする。
「この系統の魔法は複雑なんですけど……こんな感じでどうですか」
「──! そうか、こうすれば! さすが、すごいな」
「いえいえ」
生徒会が設置する目安箱には、毎日たくさんの仕事や相談が届く。
俺はその中から、剣や魔法に関する研究の相談などの手伝いをしているんだ。
学院の生徒はすごく意欲的で、数は相当なもの。
これを毎日一人でこなしていたなんて。
「どうした? グラン君」
「あ、いえ」
会長はやっぱりすごい。
でも、その分時間をかけていたそうだから、俺が手伝うことで会長が休める時間を多く作れたらとは思う。
「君のおかげで、最近の夜は眠れているよ。ありがとう」
「それは良かったです!」
こう言ってもらえると俺も嬉しい。
「よし。今日の分は終わりだ」
「え、もう?」
「ああ、誰かさんのおかげでな」
会長の美しい顔がニッコリと笑う。
そのまま、後ろに立てかけてあった二本の木刀を持った。
「では今日も……やるか?」
「ぜひ!」
手合わせの時間だ。
「甘いですよ!」
「君こそ!」
医務室で会ったメイドさんの審判の元、木刀で打ち合う。
「もっとこい! グラン君!」
「はい!」
手合わせはこれで三度目。
でもやっぱり……
「──!」
なんというか、すごくやりにくい。
俺の剣術を知っているというか、対策をされているというか。
魔法による身体強化が無い分、それほど速さや力の差は生まれない。
でも、それを抜きにしてもやっぱり強い。
『そこまでです!』
「「……!」」
そうして、メイドさんの声が響いて俺たちは剣を下ろした。
『一本ではありませんが、押しているのはグラン様ですね』
「フッ、そうだろうな」
「……」
さらに、今日はついに決着が着かなかった。
手合わせだから軽めとはいえ、学院に来てからこんなこと無かったな。
「不満か?」
「いえ、そんなことは」
「……ふむ」
だけど、会長は口に手を当てながら不敵な笑みを浮かべた。
「グラン君。良い事を考えたのだが」
「……なんでしょう?」
「ワタシと──」
そして、右手を前に差し出される。
「序列戦を行わないか」
「……!」
それは予想だにしないまさかの誘いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます