第28話 まさかの誘い

<グラン視点>


「グラン。一緒にかえろ」

「あ、いや、今日はちょっと」


 今日も授業を一通り終えた後、シンシアがそう誘ってくる。

 でも、今日は用事が……なんて思っていたら、横から高い声が飛んできた。


「またなの!?」

「うわっ!」


 ニイナだ。

 胸の前で腕を組みながら、さらに言及してきた。


「また会長からのお呼び出しかしら?」

「あ、そうなんだよね。ははは……」

「ははは~、じゃないわよっ!」


 ニイナは細目でぐっと顔を近づけてくる。


「会長と秘密の関係になったりしてるんじゃないでしょうね?」

「いや、そんなことは……」


 ニイナを抑えながらふと考えてみる。


 秘密の関係……ではないと思う。

 でも、会長が頑張る理由を知るのは生徒では俺だけ……。


 あれ、これって秘密の関係なの?


「怪しいわ!」

「いやいやいや!」


 だけど、ここで大っぴらに話すこともできない。

 今はとにかく否定だ。


「このたらし!」

「だから違うって~」

「ふんっ」


 そうして俺を睨みつけた後、シンシアを呼んで二人でコソコソと話し始める。


「やっぱり、あのアウラって会長!」

「そうかもしれない」

「まったく、油断ならないわ」

 

 正確には聞き取れないので、何の話かは分からない。


「と、とりあえず俺は帰るよ。また早朝練でね!」

絶対来てね・・・・・。グラン」

「ふーんだ!」


 シンシアは控えめに手を振って、ニイナはぷいっと顔を逸らした。

 けど、シンシアも目が笑っていなかったような……いや、気のせいか。







「来てくれたか!」


 アウラ会長邸に着くと、ぴったり表門に張り付いていた会長が顔を出す。

 いつもに増して笑顔だ。


「すみません、ちょっと遅れましたかね」

「大丈夫だ。そんなことはない」

「良かったです。あと……」

「ん?」


 俺はポケットからある封筒を取り出した。


「会長、毎度ここまで重大そうに呼び出さなくても」


 それは会長からの招待状のようなもの。

 誘われる時は、いつもこんな感じの綺麗な封筒が届くんだ。

 中身も『最近はいかがお過ごしで~』みたいな挨拶から始まる。


 会長が倒れてから一週間。

 お呼び出しはもう三度目なのに、よく挨拶が尽きないなあとは思う。


「す、すまない。友達というのがどういう距離感か分からなくてな」

「俺も分かりませんけど、ここまでしなくても来ますよ」

「……っ! そ、そうか!」

「はい。いつでも呼んでください」

「~~~っ!」


 なぜか顔が赤くなっている会長。

 不思議と前よりも視線も合う気がする。


「そ、そろそろ入ってくれたまえ!」

「お邪魔しまーす」

 

 それから案内されるがまま、会長の家に入って行った。





「グラン君。これは?」

「あー、そうですね」


 簡単なお菓子をもらいながら、会長から渡された資料に目を通す。


 会長の家に来てやっているのは、主に二つ。

 生徒会の仕事手伝いと、たまに剣の手合わせをする。


「この系統の魔法は複雑なんですけど……こんな感じでどうですか」

「──! そうか、こうすれば! さすが、すごいな」

「いえいえ」


 生徒会が設置する目安箱には、毎日たくさんの仕事や相談が届く。

 俺はその中から、剣や魔法に関する研究の相談などの手伝いをしているんだ。

 

 学院の生徒はすごく意欲的で、数は相当なもの。

 これを毎日一人でこなしていたなんて。


「どうした? グラン君」

「あ、いえ」


 会長はやっぱりすごい。

 でも、その分時間をかけていたそうだから、俺が手伝うことで会長が休める時間を多く作れたらとは思う。


「君のおかげで、最近の夜は眠れているよ。ありがとう」

「それは良かったです!」


 こう言ってもらえると俺も嬉しい。

 

「よし。今日の分は終わりだ」

「え、もう?」

「ああ、誰かさんのおかげでな」


 会長の美しい顔がニッコリと笑う。

 そのまま、後ろに立てかけてあった二本の木刀を持った。


「では今日も……やるか?」

「ぜひ!」


 手合わせの時間だ。





「甘いですよ!」

「君こそ!」


 医務室で会ったメイドさんの審判の元、木刀で打ち合う。


「もっとこい! グラン君!」

「はい!」


 手合わせはこれで三度目。

 でもやっぱり……


「──!」


 なんというか、すごくやりにくい。

 俺の剣術を知っているというか、対策をされているというか。


 魔法による身体強化が無い分、それほど速さや力の差は生まれない。

 でも、それを抜きにしてもやっぱり強い。


『そこまでです!』

「「……!」」


 そうして、メイドさんの声が響いて俺たちは剣を下ろした。


『一本ではありませんが、押しているのはグラン様ですね』

「フッ、そうだろうな」

「……」


 さらに、今日はついに決着が着かなかった。

 手合わせだから軽めとはいえ、学院に来てからこんなこと無かったな。


「不満か?」

「いえ、そんなことは」

「……ふむ」


 だけど、会長は口に手を当てながら不敵な笑みを浮かべた。


「グラン君。良い事を考えたのだが」

「……なんでしょう?」

「ワタシと──」


 そして、右手を前に差し出される。


「序列戦を行わないか」

「……!」


 それは予想だにしないまさかの誘いだった。

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