第22話 最も英雄に近い者とのエキシビジョンマッチ
「友達を泣かせるお前を絶対に許さない」
「はっ、面白いガキだ」
グローリアは不敵に笑う。
「その様子じゃ会話を聞いていたんだろう。どうする、今さら僕を疑う者なんて──」
「直接対決だ」
「なに?」
余裕をこいてたグローリア。
だが、言葉にはムッとした表情を見せる。
「シンシアの為にも、まずはお前を倒す」
「ほう。それは、僕が誰だか分かって言っているんだろうな」
「もちろん」
「……フッ」
グローリアは白銀のマントを寄せ、グランに背を向けた。
「いいだろう、場は僕が準備しよう。だが……」
「なんだ」
「彼女の復讐は行われない」
「それはどうかな」
そんな言葉を残して、グローリアはグラン達の前を去って行った。
「シンシア」
「……グラン」
そうして、グランは再びシンシアに歩み寄る。
「ごめんシンシア。話を盗み聞きしちゃって」
「……ううん、私の方こそごめん。ずっと、話せなかった」
「そんなことない」
「!」
そのまま、グランは力強い目を向けた。
「悪いのはあいつだ。力を得るために国を滅ぼした。許せないよ」
「……うん」
シンシアもだいぶ落ち着きを取り戻したようだ。
となれれば、そういえばと疑問が浮かんでくる。
「グランはどうしてここに?」
「ごめんね。実は最初から聞いてたんだ」
「最初から? でも、あの男は
「これだよ」
「え?」
グランがニッとして指を一度鳴らすと、シンシアの前から姿を消す。
同時に気配すらも消え失せた。
「ははっ。目の前、目の前」
「わっ!」
そして、もう一度鳴らせばグランは再び姿を現す。
「【透明魔法】っていうんだ。声も物音も気配も、
「……そ、そうなんだ」
それは、グローリアが「それなりの魔力探知」を持っていないことを意味しているようなのものだが、グランにそんな意図はない。
そうして、シンシアの後ろからもう一人。
聞き馴染んだ高い声が聞こえる。
「まったくもー、どれだけこいつを抑えるのに苦労したか」
「……ニイナ?」
ニイナだ。
どうやら【透明魔法】でグランと一緒に隠れていたようだ。
「証拠が必要だって言ってるのに、話の途中で何度も飛び出しそうになっちゃって。結局最後も飛び出しちゃうし」
「ははっ、ごめんごめん」
「いいわよ。とりあえず話は良い方向に進んだわ」
呆れ気味に笑うニイナに、謝るグラン。
その二人に、シンシアの口は自然と動いた。
「二人とも……ありがとう」
「いいんだよ」
「ふんっ、これぐらい当然よ! わたしはその……と、友達なんだから」
そうして、グランは再びシンシアに向き直る。
「シンシア、見てて」
★
<三人称視点>
次の日、放課後。
「おい急げ!」
「これは大注目だろ!」
「またあの一年かよ!!」
「まじで話題が尽きねーな!」
学院内から『第一闘技場』に向かって、足音が
誰もが見たいと思う対決が開かれる、そうアナウンスがあったからだ。
そして、その『第一闘技場』。
「まじでやるのか!」
「生でグローリア様の戦闘を見られるなんて!」
「次なる英雄様だろ!?」
──わあああああああ!
雑多の声は一つの歓声となり、場内を埋め尽くす。
場内にはシャロンやエルガ、またもVIP席にてアリア・アリスフィアなども姿を見せている。
もちろん、ニイナとシンシアも。
「……グラン」
「大丈夫よ」
「……! ニイナ」
少し不安に見つめるシンシアの手を、ニイナがぎゅっと握った。
「あいつは負けないわ」
「……うん!」
そんな中、
「あの一年生は初めて見られるんですよね」
「ああ、そうだな。少々忙しくてね」
隣に立つ秘書から答えたのは、一人の女子生徒。
女性にしては少し低く、かっこよさが勝るカリスマ声だ。
「だから今日はわざわざ時間を作ったよ」
「そうでしたか。『アウラ』生徒会長」
スラリとした長身に、黒く長い髪。
腰には長めの剣を差す。
この学院の生徒会長──アウラだ。
そんな彼女に、隣の秘書が問いかける。
「生徒会長は、例の一年生グラン君はお知りで?」
「もちろんとも。新入生も全員覚えたよ。貴族の中では少し浮いてしまうが、魔法も勉学も今までにないほど優秀のようだな」
「みたいですね。……では」
「?」
「学院『七傑』としてはどう見られますか」
アウラは生徒会長にして学院『七傑』。
その質問にはニヤリとして答えた。
「……面白い子だよ」
そして、闘技場内。
グランとグローリアが向き合っている。
「随分と話を大きくしたんですね」
「そんなつもりもなかったんだけどね。僕が戦うと言ったら集まってきちゃったみたいで」
お互いに睨み合ってはいるものの、どこか冷静な態度は崩さない。
「
「そっくりそのまま返しますよ」
「フッ。やはり君は面白い」
軽く言葉を交わし、互いに背を向ける。
両者は距離を取って位置についた。
『これより、一年生グラン 対 光の剣士グローリア様のエキシビジョンマッチを行います!』
「「「わああああああっ!」」」
審判のコールで、会場は最高潮に盛り上がりを見せる。
グローリアは「エキシビジョンマッチ」というていで場を作ったようだ。
だが、両者はそのつもりではない。
「フッ」
「……!」
これはお互いの信念を賭けたプライドマッチ。
片や友達の復讐、片や「最も英雄に近い者」を背負っている。
『試合開始!』
「ほう」
開始早々、グランの剣の構えに目を見開くグローリア。
剣聖ザンと鍛錬を重ねたことで習得した、圧倒的なプレッシャー『剣聖の構え』だ。
しかし、グローリアも百戦錬磨。
「構えは
「……!」
プレッシャーだけではものともせず、グランへ斬りかかる。
「そんな貧弱な剣では押し切られてしまうぞ!」
「……」
グローリアの武器は、大剣──『グローリア』。
刃は類を見ないほど太く、大きく、その輝かしき太刀筋で道を切り拓くと言われる。
自身の名を付けているように、まさにグローリアの象徴とも言える栄光の剣だ。
「大口の割にはその程度かな!」
「……」
対して、グランの武器は『ただの剣』。
特筆すべき性能はなく、良くも悪くも
それもそのはず、この剣は『剣聖』ザンがグランにあげたもの。
グランには「免許皆伝の印」だと伝えたが、その真意は全く
ただでさえ強すぎるグラン。
そんな少年に「性能まで良い剣を持たせたらまじで終わる」と剣聖ザンは考えていたのだ。
「どうした少年!」
「……」
武器差は圧倒的。
それでも、
「ねえ」
──怒ったグランは強すぎた。
「ふざけてる?」
「なに? ……ッ!?」
今まで目の前にいたはずのグランは消え、次の瞬間にはグローリアの腹に斬り傷がつけられていた──。
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