第19話 招かれた者

<グラン視点>


 序列戦を終えた次の日、朝。


「ニイナって朝弱いの?」

「はあっ!?」


 俺たちは並んで学校に向かっている。

 今日から朝の日課に参加したニイナに、いつも通りシンシアも一緒だ。


「いきなり何言ってんのよ!」

「だって、ずっと眠そうだし。朝弱いなら無理しなくていいよ?」

「そ、それはっ……!」


 手で口元を抑えるニイナ。


「同じ寮だと思ったら意識しちゃって眠れなく……ごにょごにょ」

「ん、なに?」

「~~~! なんでもないっ!」

「うわっ!」


 ごにょごにょしてたから聞き返すと、バッグを振り回してきた。

 不思議と顔も赤くなって見える。


「と、とにかく! 明日からも参加するわ! いいわね!」

「わ、わかったよ」

「まったく!」


 そう言うと、ニイナは少し早足で先を行く。

 そんな彼女を、隣のシンシアが細めた目で見ながらつぶやいた。


「……騒がしい」

「あはは。まあ、そうだね」


 苦笑いをしながら返す。

 確かに、出会った時よりもさらに騒がしくなってるかも。


「別に、私も嫌なわけではないけどね」

「……! そっか!」


 けど、シンシアもそう思ってるみたい。

 そんな会話をしていると、ニイナが前の方で手を振ってくる。


「ちょっとー! 早く歩きなさいよ!」

「ははっ。自分から早歩きしたくせに」

 

 シンシアには同感だ。

 ニイナと友達になってかなり騒がしくはなったけど、その分楽しくもなったかな。







 学院、一時限目。

 いつも通りに教室へ入る。


「ん?」


 だけど、俺たちが扉を開けた途端、周りがざわざわし始めた。


「おい、ニイナ様とあいつが隣にいるぞ!?」

「一体どういう風の吹き回しだ!?」

ほだされてしまわれたのか!?」


 コソコソ話してるつもりみたいだけど、正直丸聞こえだ。


「ニ、ニイナ……」

「~~~っ!」


 そーっとニイナの顔を覗くと、額あたりがピクピクしている。

 そろそろ限界……あ、もうダメそう。


「そこ! うるさいのよ!」


 ニイナは指を差して声を上げた。


「はっ!」

「す、すみません!」

「失礼いたしました!」


 それからニイナは、ふんっと言いながらその辺の席に座った。

 かと思えば、その隣の席をバシバシと叩く。


「ほら。あんた達もさっさと座りなさいよ」

「う、うん」


 あんなこと言われても、隣は隣なんだな。


 そういえば、ニイナって挨拶に来られることはあっても、授業では割と一人が多いイメージだ。

 もしかして寂しかったのかな?


「……」

「なによ、わたしをじろじろ見ちゃって」

「ううん、何も」


 それは考えすぎかな。


「ところで、今日って何をするの?」


 周りを見渡しながら両隣の二人に尋ねる。


 なんだか教室の人数が多い気がしたからだ。

 Sクラスの二十人はもちろん、一年生ほとんどがいるんじゃないかな。


「あなた知らないの?」

「えっ」

「今日から一年生に向けて“外部講師”が来るらしいわ。それの紹介で集められてるのね」

「あ、そうなんだ」


 ニイナがそう教えてくれた。

 どこかでぼーっとしてて聞いてなかったかな。


「シンシアは知ってた?」

「知ってたよ。……当然・・

「!」


 あれ、今ニイナの魔力が一瞬怒っているように見えたような。

 それか、何かを警戒するような感じ……?


『はい、静粛せいしゅくに』


 そうして、チャイムが鳴ると同時に先生が入ってくる。

 担任のベネトラ先生じゃない、女性の先生だ。


『皆さん聞かれたかと思いますが、今日よりこの一年生に向けてゲストが講師として来てくださいます。では、どうぞ』


「やってるかな。学院生のみんな」


 先生の手招きと共に、教師側の扉から入ってくる人。

 煌びやかなオーラをまとった大人の男性だ。


 そして同時に、


「「「きゃーーー!!」」」

「「「おおおおっ!!」」」


 教室内のそこら中から声が上がる。

 女子の黄色い声援、男子の盛り上がる声で、教室内でどよめくほどだ。


「!?」


 なんだなんだ!?

 突然の事態にびっくりして、思わず周りをきょろきょろしてしまった。


「……へえ。さすがね、この学院も」

「ニイナ!?」


 隣のニイナも声は上げないものの、あの男の人を知っている様子。


「あの人を知ってるの?」

「……はあ。あなたって本当に何も知らないのね」

「そ、そんなに有名なの?」

「ええ。それはもう」


 ニイナですら驚きの表情だ。


『はい、静粛に』


 そうして、もう一度先生がパンと手を叩く。

 指示通り静かになったところで、先生が紹介を始めた。


『もう説明はご不要かと思われますが、来て下さったのはこの方』

「……」


 俺はごくりと固唾かたずを飲んで、先生の話を聞く。


『【最も英雄に近い者】、【生ける伝説】、【次なる英雄】など、様々な肩書きを持ちます』

「!」


 英雄に最も近い者だって!?


『光の剣士グローリア様です!』

「……!」


 そうして、光の剣士グローリア……さんが丁寧な所作でお礼をした。


「ご紹介に預かりました、グローリアです。先生のお話は少々おお袈裟げさだと思われますが、学院に尽力できるよう精一杯教えさせていただく所存です」


「「「わああああああっ!!」」」


 紹介の後、教室はまた大歓声と拍手に包まれる。

 この人気ぶりからも、様々な肩書きは本当みたいだ。


 ──だけど。


「シンシア? 大丈夫?」

「……うん」


 俺には、シンシアが今にも剣でグローリアさんをおそい掛かろうとする目で見ているのが、気になって仕方なかった。





───────────────────────

ニイナの話もひと段落つき、一緒に登校する仲に!

と思いきや、また不穏な感じが?

果たしてシンシアの真意とは……?

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