第15話 この学院の日常

<グラン視点>


 学院二日目。


『~と、このようにですね』


 教室内に先生の声が響く。

 初日のレクリエーションを終え、今日からは本格的に授業が始まった。


「ふむふむ……」

 

 ディセント学院は基本、自由主義。

 多種多様な授業があって、あらかじめ開示された概要から気になる授業を取る、という方式らしい。


 最低限、定められた量の単位数さえ取得すれば、他の時間は何をしていても良いみたいだ


 そして、今日はこれが最後の授業。


『かつてはこの世界も、戦争が長く続いており~』


 講義名は『英雄学』。

 英雄と呼ばれる人たちについて習い、そこから学びを得る授業らしい。

 今日受けた中では、一番興味が持てる授業だ。


『~と、こんな功績を残した彼らが“英雄”と呼ばれているのです』

「!」


 と、そこまで話を聞いて、ピンとくる。

 英雄という言葉に聞き馴染なじみはないけど、たしか里でも似た話を聞いたことがあるような……。


「……!」


 そうして、頭の中で点と点が完全につながる。


 学院前の『剣聖』という銅像は剣の師──ザンに似ていた。

 かなりかっこよく作られていたけど、武器や特徴は一致する。


(もしかして……!)


 そうだ、きっとそうに違いない。

 俺は確信を持って心の中で結論づける。


(英雄の話は里にも伝わっているんだ……!)


 うんうん!

 そう考えれば納得がいく!

 

 そして、ノートにまとめた先生の話をもう一度見返してみる。


『剣聖は一振りで大陸を斬り崩した』

『魔女は千の魔法をぶっ放した』

『賢者は知でそれらをなだめた』


 どおりでどこかで聞いた話だと思った。

 みんなが自慢げに話していたのは、この英雄たちの話だったんだ。


 もー、みんな自分の事のように話しちゃってさ。

 ややこしいじゃないか。


 まあ、みんなも英雄さん達が大好きなんだね。


『それから英雄たちは~』

「……」


 と、一旦納得したところで、話を聞きながらふと教室を見渡す。

 改めて気になることがあるからだ。

 

(たくさんいるなあ)


 行われているのはSクラスだけど、この授業は一年生なら誰でも受けられる。

 席が空いてない様子から、一年生で受けていない人はいないんじゃないかと思う程に人気の授業だ。


(シンシア……)


 その中で、シンシアはこの授業を受けていない。

 別にそれ自体には疑問を持たないし、この学院で「全部一緒にね」なんて言うつもりもない。


「……」


 それでも、シンシアの態度は少し気になった。

 この授業の前のやり取りだ。


───

「シンシア、この授業を受けない?」

「どれ」

「英雄学だって!」

「……!」

 

 ただ興味がある授業を提案してみただけだった。

 だけど、急にシンシアの顔がひきつったように思えたんだ。


「シンシア?」

「……グラン、ごめん」

「え?」

「私は他に受けたいものがあるから」

「ううん、それは全然! じゃあまた後でね!」

「……うん」


 それから俺たちは別れた。


「……私は、英雄を信じていないから」

「?」


 ボソッと聞こえてしまった言葉は受け流して。


───


 あの言葉は結局どういう意味だったんだろう。

 独り言だったろうから触れなかったけど、今改めて考えると不思議な言葉だ。


「うーん……」


 そのままとらえるなら、一応の理解はできる。

 でも、どうにもそれだけには見えなかったような……。


 なんというか、英雄自体に『恨み』を持っているような、そんな表情だったように思えてしまう。


「……」


 シンシアと英雄、両者に一体どんな関係があるんだろう。


「──ンさん!」

「……」

「グランさん!」

「……! あ、はい!」


 そんなことを考えていたら、先生に当てられているのに気が付かなかった。


「何をぼーっとしているのですか!」

「すみません!」

「首席だからと言って容赦ようしゃはしませんよ!」

「は、はい……」


 そうして、二日目は過ぎていくのだった。







 入学から数日後。


「それで『属性学』の時にさ~」

「ふふっ、グランらしい」


 放課後、シンシアといつも通りの待ち合わせ場所で合流する。

 今日は特に用事がない。


「今日も学校楽しかったなあ」

「そうだね」


 数日経っても出てくるのはそんな感想だ。

 授業は知っている事も多いけど、実践もあるし、すごく退屈ってわけではない。


 あとは、


「……」

「どうしたの? グラン」

「……! ううん、なんでもないよ!」


 気になっている英雄とシンシアについてだけど、今も尋ねてはいない。


 今はそっとしておいた方が良い。

 なんとなくそう思ったからだ。


 触れられたくないことってあるだろうし。


「じゃあ寮に帰ろっか」

「うん」


 そうして、俺たちは寮へ歩き出す。

 授業を受けて友達と一緒に帰る、すごく学校っぽい日常だと思う。


 だけど、ここは世界最高峰──ディセント学院。


 むしろ、この後に起こる事が、この学院の日常なんだ。

 この時の俺は改めてそう実感した。


「待ちなさい」

「……!」


 唐突に後ろから聞こえた、ハッキリとした声。

 綺麗でどこまでも通るような声だけど、その声にしっかりとした覚悟が込められているのを感じた。


「どうしたの?」


 確信を持って振り返った先には……やはりだ。


「ニイナ」

「ええ。あなたに──」


 その様相から、なんとなく今から言われることが分かっていた。

 そして案の定、金色に輝く長い髪をなびかせながら、ニイナは口にした。


「正式に『序列戦』を申し込むわ」

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