第14話 初めての友達と、学院『七傑』

<グラン視点>


「やあ、いらっしゃい」

「「!」」


 突然聞こえた声に反応して、シンシアと共にバッと横を振り返る。

 喜んでいたからか、寮から出てくる人に全く気が付かなかった。


「どうしたんだい? そんな驚いた顔で」

「あ、いえ」

「そっか」


 ニコっと笑った男の人。

 何をするかと思えば、そのまま胸に右手をえて丁寧ていねいなお辞儀じぎをした。


「僕はシャロン。ここの寮長をしている三年生さ」

「寮長さん!」


 明るい茶髪に、スラッとした長身の体型。

 どこか余裕のある感じから上級生かなとは思ったけど、やっぱりそうだったみたい。


「よ、よろしくお願いします!」

「……よろしくお願いします」


 そんな先輩に、俺とシンシアもお辞儀を返す。


「はは、そんなにかしこまらなくてもいいよ。君達は新入生の二人だろう?」

「はい」

「話は聞いてるよ。今日は歓迎パーティーだ」

「……! はいっ!」


 歓迎パーティー。

 その言葉に心がおどる。

 

 嬉しいなあ、そんなことまであるんだ。

 シャロン先輩も優しそうな人だし、この寮に来て正解だったかも!


 だけど、俺がるんるんで付いて行く後ろで、


「シンシア? 行こうよ!」

「……あ、うん。行く」


 シンシアは少し考える素振りを見せていた。


「……シャロンって」


 それから何かつぶやいていた気がしたけど、特に気にはしなかった。







「「「入学おめでとー!」」」

「うわあっ!」


 俺とシンシア、それぞれが寝室に案内された後。

 大広間にて、さっそく夕食をねた歓迎パーティーが開催されていた。


 寮は男子棟と女子棟に分かれているけど、こうしてみんなでワイワイできる部屋もあるみたいだ。


 そんな中、女子の先輩がいきなり絡んでくる。


「今年の新入生は二人か~? 寂しいなあ」

「みたいですね」

「ったくよ~、金持ちが多いのか~?」

「あははっ」


 寮のメンバーは俺とシンシアを含めて八人。

 二・三年生がそれぞれ三人ずつみたいだ。


 少ないとは聞いていたけど、思ったより少ない。

 ……でも。


「ところでよお!」

「わわっ」

「首席の挨拶良かったよ~? 私は嫌いじゃないね!」

「あ、ありがとうございますっ!」


 その分、仲良くなれそうで嬉しいかも。


「ほらほら、シンシアちゃんも食べな!」

「ありがとうございます」

「遠慮はいらないって! 全部シャロンのおごりだからな!」

「聞いてないよ、それ」

「……ふふっ」


 シンシアも馴染なじめそうで良かった。





「先輩たち、派手な人たちだったよね」

「うん」


 歓迎パーティーもあっという間に終わり、空もすっかり暗くなった頃。

 寮の外のベンチで、俺はシンシアと星を眺めながら話していた。


「すごく楽しくなりそうだよ」

「私もそう思う」

「だよね!」


 そんな中、少し間をおいてシンシアから口を開く。


「……ねえ、グラン」

「ん?」


 温かいコーヒーを持ったままのシンシア。

 姿勢は少し前屈みだ。


「グランは代表の挨拶で、友達がほしいって言ってたよね」

「それが学院ここに来た理由だから。でもまさか、こんなすごい学校とは思いもしなかったんだけど……」

「ふふっ、そっか。じゃあ──」


 そんなシンシアが、綺麗な茶髪をパサッと揺らしてこちらをのぞく。


「私じゃダメかな」

「えっ!」


 出てきたのは唐突な言葉。

 俺は慌ててシンシアと目を合わせた。


「いいの!?」

「うん。私もずっと言おうと思ってた」

「本当に! やった!」

「ふふっ」


 シンシアは安心したような表情でニッコリ笑う。

 何度も見た笑顔だけど、なんとなく心からの笑顔に見えた。


「──でも」

「?」


 かと思いきや、シンシアは口をつーんと尖らせる。

 ほおも少しぷくっとふくらませて、何かを言いたげだ。


「ニイナさんには言ったのに、私には言ってくれなかった」

「え」

「友達になろうって」

「……!」

 

 これ、もしかしてねてる!?


「ご、ごめん! でも、教室で会った時に言おうとはしたんだよ!」

「本当?」」

「本当だよ! ベネトラ先生に止められちゃったけど」

「ふーん。……なんてね」

「!」


 でも、すぐに笑顔に戻った。


「ふふっ。友達ってこんな感じでいいのかな。私も初めてでよく分からないんだ」

「あはは! 俺もだよ」


 シンシアなりのいじわるだったみたいだ。


「それでさ──」

「ふふっ」


 それからも少し話して、シンシアもコーヒーを飲み終える。


「じゃあ明日からもよろしくね、グラン」

「うん! よろしくね!」

「おやすみ」

「おやすみ、シンシア!」


 シンシアが寮に入っていくのを確認して、俺は思いっきり背伸びをした。


「~~~!」


 じいちゃん、俺初めての友達ができたよ!


「いやー、青春、青春」

「ん?」


 と思いっきりガッツポーズをしていたところに、近づいてくる足音が聞こえる。

 振り返った先にいたのは、シャロン先輩だ。


「先輩! まだ起きてたんですね」

「一応、寮長として見回りをね」

「あ、すみません! 俺も急いで戻ら──」

「いいよいいよ、ここは基本自由だから。それより隣いいかな」


 ペコリと軽くお礼をした後、先輩は隣に座ってくる。


「君とは話をしたいと思ってたんだ」

「話、ですか?」

「うん。君がいずれ……いや、すぐにでも辿り着くだろう場所のことをね」

「?」


 前屈みで手を組んでいるシャロン先輩。


 けど、なんだかさっきまでと雰囲気が違う……?

 そう思った時、先輩は唐突に言葉にした。


「──学院『七傑ななけつ』」

「!」


 急にバサバサッと大量の鳥が飛んで行く。

 何かを感じ取ったのかもしれない。


「学院『七傑』? ……あ」


 そこでふと、放課後にエルガ君から聞いた言葉を思い出す。


(俺はてめえをぶっ倒して、七傑をも超えて、この学院のてっぺんをってやる!)


 聞き返せる雰囲気じゃなかったら流したけど、たしかに言っていた。

 シャロン先輩が言ったのと同じ『七傑』と。


「……」


 俺はごくりと固唾かたずを飲んで聞き返す。


「あの先輩、それって?」

「一言で言えば、この学院トップの七人のことさ」

「……!」


 そこまで言って、シャロン先輩が目を合わせてくる。


 でも、なんだろう……。

 雰囲気が、先輩の周りが、より不気味に感じる。


「グラン君、君のことは色々と聞いたよ」

「え?」

「いや怖いなあ」

「それってどういう……?」


 シャロン先輩は胸に右手を添えた。


「説明が遅れたね。僕はディセント学院全体・・序列第七位にして、学院『七傑』のシャロンさ」

「──!」


 学院のトップ七人の『七傑』。

 シャロン先輩がその一人……!


 それにこの闘争心に満ちているような目、やっぱりだ。

 こっちが先輩の本性……?


「グラン君」

「……はい」

「寮長としても、いずれ当たるかもしれない相手としても──」


 シャロン先輩に差し出された手を取りながら立ち上がる。


「よろしくね」

「こちらこそです、先輩」







<三人称視点>


 次の日、学院二日目の早朝。

 まだ空は薄暗く、陽がようやく顔を出し始めた時間帯だ。


「はッ!」


 そんな中、中には魔法をまとわせた剣を振るう少年の姿が見られる。

 グランだ。


「はッ!」


 これはグランの日常。

 努力さえ楽しむ才能を持つグランの日課なのであった。


 また、その様子を──


「やってるなあ」


 屋上から眺めるシャロン。


 浮かべる表情は、戸惑いと感心。

 グランの姿には若干の笑いさえ出てくる。


「努力する天才とは聞いたけど、まさかここまでなんてね」


 そうして、シャロンはふと空を見上げた。


「君は彼をどう見るんだろうね」


 こぼしたのは意外な言葉だった。


「ニイナ」





───────────────────────

グラン君についに初めてのお友達が!

そして、シャロンという人物像はいかに……?

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