第12話 少年の一番の才能

<三人称視点>


「俺があいつに勝ったら、一番でいいすか」


 新一年生『序列』第二位──エルガ・ミリウム。

 彼がこう言い放ったことで始まった、いきなりの対決。


「準備はいいか。グランに、エルガ」


 場所は闘技場。

 先生が審判になる形で、グランとエルガは距離を取って向かい合った。


 他のクラスメイトは観客席でそれを見守る。


「いきなり受験一位と二位の対決かよ……」

「これは見ものだぜ」

「ていうか、エルガ・ミリウムってあれだろ?」


 中には当然、コートの女の子──シンシアに、ニイナ・アリスフィアもいる。


「グラン……」

「ふんっ。庶民のくせに」


 そんな中、闘技場内ではエルガはグランを激しくにらんでいた。


「潰す」


 高貴さを思わせる白金色の髪。

 ギラリとした鋭い目付き。

 そこまで大きいわけではないが、しっかりとした筋肉質の体。


 両拳にガントレットを装着した、エルガ・ミリウムが臨戦体制に入る。

 自身の拳で戦うスタイルのようだ。


 対してグランも、


(やるしかないか!)


 まだ戸惑いながらだが、一応の構えを取る。

 そのタイミングに合わせて先生が合図を出した。


『開始』


 それと共に──


「食らいやがれえええ!」


 エルガはグランに向かって拳を奮った。

 距離はまだ遠い。


「……!」


 それでも攻撃はグランへ一心に向かった。

 飛んできたのは、巨大な爆風。

 まるで、炎が生きているかのように動きながらグランをおそう。


「なんだあれ!?」

「おいおい大丈夫か!?」

「あいつ、死ぬんじゃないか!?」

 

 観客も思わず立ち上がってしまうほどの攻撃。

 この学院でも、真正面からこれを受けられる者はそういないとすら思わせられるほどの威力だ。


 だが、当のグランは──


「えいっ」

「……は!?」


 パァンと音を立て、余裕の表情のまま拍手・・でそれをき消す。

 直撃寸前まで迫った攻撃を、目の前でいとも容易く消滅させたのだ。


「火属性、だよね?」

「ああん?」


 魔法には『属性』が存在する。

 属性の種類は、火・水・土・風の『四大属性』に加えて、光・闇の『原初属性』の計六種類。


 先程のグランの拍手は、ただの拍手ではない。

 「火」に相性の良い「水」の魔力をまとわせた手によって、相打ちさせたのだ。


 だが、一見簡単にも思えるこの挙動。

 高度な魔力制御、瞬時に魔法の質・威力を見極める知識があってこそのわざだ。


 グランの対魔法、無敵の防御技──『無の拍手』である。


 なお、この場にどれだけそれを理解している者がいるかは、定かではない。

 事実、クラスメイトの大半も理解していないよう。


「何が起きたんだ!?」

「分かんねえ!」

「何か特殊な装備を取り出したのか……?」


 闘技場内、エルガはギリっと歯ぎしりさせる。

 

「このチート野郎が……!」

「今のはお手並み拝見でしょ?」

「……!」


 一層ギラリとした目付きになるエルガ。

 そのままニッと少し口角を上げた。


「当たり前だゴラァ!」


 遠い距離でダメなら、とエルガは距離を詰める。


「楽しみ!」


 グランも応戦するよう、腰に差す剣を抜いた。

 両者の戦いは近距離戦に突入する。




 そうして戦闘が続く中、


「……」


 審判の位置でそれを観察する先生。

 受験時の資料も片手に、情報を整理していた。


(エルガ・ミリウム。『ミリウム王国』の王族か)


 名前の後ろに名字が付く者は、貴族の証。

 その例にれず、エルガ・ミリウムも立派な肩書きを持つ貴族であった。


(まず気になるのは……あの気性の荒さだな)


 誰もが見てわかる通り、エルガの怒号が闘技場内に響く。


「死ねえ!!」 


 およそ王族とは思えない言動だが、それも先生は理解していた。


(あの怒りは強さへの執着・・・・・・ゆえ。常に一番を目指そうとする姿勢もその賜物たまものだろう)


 ミリウム王国は大国であり、軍事・・国家だ。

 今でこそ戦争は起きていないが、エルガは幼き頃より、人の上に立つことを義務づけられた。

 性格がゆがんでしまったのはそのせいとも言える。


「ぶっ〇す!」


(……少々歪み過ぎではあるが。んで──)


 そして、次に目を向けるのはグラン。


(黄金の世代、中でも圧倒的首席のグランか) 


「ほっ、よっ」

「てめえ逃げんじゃねえ!」


 強力な炎を武器に闘技場を荒らし回るエルガ。

 グランはそれを軽々といなし続ける。


 そんなグランに、先生は思わずニヤリとした顔を浮かべた。


(ったく、冗談きついぜ。なんだあいつは……!)

 

「クソがあ!」

「まだまだ行くよ!」


 身のこなし、剣さばき、先ほどの謎の魔法の拍手。

 たった一、二分見ただけで感じてしまう異次元さ。


 先生は確実にそれらを実感していた。

 しかも、それだけではない。


(資料から見るに、たぐいまれなる圧倒的才能の持ち主だと思っていた・・・・・。残念ながら、そんな人間は存在しちまうもんだ)


 先生の考える通り、世の中には才能が全てを上回る例は存在する。

 どんな努力をもあざけわらうかのような、そんな圧倒的才能が。

 

 英雄で言えば、魔女デンジャがその最たる例だろう。


(だが、グランこいつは違え!)


 先生の目が見開く。


(魔女のような圧倒的才能……それを持ちながらさらなる才能、楽しむ・・・心を持ってやがる!)


 一見、完璧に見えるグランの戦闘。

 だがそれは、何千・何万と繰り返してきた努力の証。

 普通では考えられないほどの実戦経験からなるものだと、先生は見抜く。


(こいつ、一体どれほど積み上げて……!)


 生まれ育った環境は『英雄たちの里』。

 純粋な少年は、そんな中で「物事を楽しむ才能」で英雄たちの全てのわざを吸収した。


 苦しい修行も、考えるのもやめたくなる勉学も、それら全てを楽しむ・・・ことで普通の人間ではありえない修羅場を乗り越えて来た。

 もちろん、グラン自身は苦しいなどと思ったことが無い。


 好きこそ物の上手なれとはよく言ったものだ。

 剣、魔法、知識……その他あらゆるものが楽しくて仕方ない。


 それが英雄たちに育てられた少年、グランの強さなのであった。


(とんでもねえ逸材じゃねえか……!)


 そうして戦闘も続いた中、ついに戦況が動く。

 グランが仕掛けたのだ。


「これぐらいでいいかな」

「ああっ!?」

「ほっ」


 今まで肉弾戦をしていたエルガを距離を取り、剣をしまう・・・


「これで終わりだよ」

「……!?」


 グランは楽しげに笑い、魔力をこめた。





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エルガ君戦は後半戦へ突入!

口の悪さについては、まだ十五歳なので許してあげて下さい!

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