第5話 この英雄、どこかで見たことある気が……

<グラン視点>


 ディセント学院、入学試験当日。

 

「おおー!」


 朝早くから訪れたディセント学院。

 早速、その規模の大きさに度肝を抜かれる。


「これがディセント学院かあ……」


 見上げるほど高く、立派な宮殿のような建物。

 横に広いのはもちろん、奥もここからは見えないほど続いているみたい。

 船から見えた学院は、ほんの一部分でしかなかったんだ。


 ちょっと聞いていないほどすごい学院だけど、それでも俺の行きたかった「学校」には変わりない。


「よし」


 俺はとにかく友達をたくさん作るんだ!

 頑張るぞ!


「でもそのためには、まず合格しないとな」


 そうして一人意気込んでいると、ひそひそと周りから声がする。


「あいつ田舎者かよ」

「見るからに平民だな」

「普通何度も見学には来るだろ」


 どうやら俺の方をニヤニヤと見ながら話しているらしい。

 格好からして、あれが貴族なんだと思う。


「なるほど……」


 俺は素直に思った。

 これは──いきなり大チャンス!


「ねえねえ! 君達はここに来たことあるの?」


 俺は手を振りながら、遠くのひそひそと話してた人達に声をかける。

 その人たちを含め、周りの人がびくっとした。


「なっ!」

「なんだあいつ!」

「普通ここで話しかけるか!?」


 だけど、結果は残念。


「あれ」


 俺が話しかけると「さっさと行こうぜ」と離れられてしまった。


 そんな様子を見ていたからか、周りにもじろじろと見られている気がする。

 今の人たちと同じような目、感心するような目など、人によって様々だけど。


「うーん」


 でも、どうしてだろう。

 わざわざ俺に聞こえるように話していたはずなのに。

 あれは話しかけても良いってことじゃなかったのかな。


「友達作りって難しいなあ」


 まあ、しょうがない。

 まだ試験も始まっていないんだし、これからこれから。

 そう切り替え、俺は校門から学院へと足を踏み入れた。





「お!」


 とてつもなく大きな校門から、学院に入ってしばらく。

 広すぎる敷地内を進んで行くと、一際目を引く物が並んでいた。


「銅像?」


 校門から真っ直ぐ続く大通りの両脇には、何体もの大きな銅像たち。


「これは相当に頑丈がんじょうだな」


 触れない程度に近づいてみると、かなり丁重に扱われているのが分かる。

 

 銅像の半径1メートル以内にはそれなりの・・・・・結界。

 加えて、銅像自体も超合金の素材と強力な防御魔法が組み合わさって作られていて、絶対に壊すなという意思を感じる。


 でも、ここで疑問が一つ。


「この人たち、誰なんだろう」


 肝心な誰かが分からなかった。


 どうやらこれらは『英雄たちの像』というらしい。

 だけど、『剣聖』『魔女』『賢者』など肩書きが刻まれているだけで、彼らの名前はっていない。

 知ってて当たり前という意味なのかな。


「歴史だけは教えてくれなかったからなあ……」


 思い浮かべるのは、白いひげを生やしたじいちゃん。

 知識面でお世話になったウィズじいちゃんだ。


 何でも教えてくれたウィズじいちゃんだけど、なぜか歴史関連は教えてくれなかったんだよね。

 たしか「わしの正体が~」とか何とか言ってた気がするけど、結局どういう理由だったんだろ。


「ていうか……あれ?」


 そんな中、改めて目の前の銅像をよーく観察してみる。

 目をらしてみると、この『剣聖』の像がどこか見たことある気がしたからだ。


 思い出すのはそう、剣の師──おっさん面のザンだ。


「うん。若干似てる」


 随分と……いや、ありえないほどかっこよく作られてはいるけど、顔の特徴はなんとなくザンと似ている。

 本人だと言われるとギリ・・信じるかもしれない。


「それにこの剣……」


 ザンが本気モードになる時に使っていた剣とよく似ている。

 普段持ち歩いている剣と違って、本気の打ち合いではこれと似た物を持ち出してくるだよね。


 ……って、待てよ?


「まさか!」


 ここまで考察して、俺はある一つの可能性に思い至る。

 面影のある顔、特徴的な剣。

 何よりもあのザンの強さ。


 もしかして。

 もしかして──。


「ザンはこの銅像の人に憧れて真似をしていた・・・・・・・のか」


 そうだ、きっとそうだ!

 そう考えれば全ての辻褄つじつまが合う!


「あの飲んだくれ、意外とミーハーなとこあるじゃん」


 この銅像の人物を真似して、髭面や武器までも真似したのか。

 なんだかザンがかわいく思えてきたかも。

 今度、思いっきり問い詰めてみようかな。


「そっか、そっか~」

 

 そうして満足した俺は、結局すべての銅像をスルーして試験会場に向かった。

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