二三.怨霊合戦
連合軍と、強化兵の戦場まで、目前まで近付いた。連合軍が押されているのは確かだが、さすが強者揃いの四国従者、幕府軍の隊員を上手く誘導し、相手と一対一にならないよう、集団戦法を取っている。強化兵は、ギリギリで松山城への侵入を防いでいる連合軍に、苛立ってきている。
「強化兵の動きが散漫になっている。統率も取れていない。今だ! かかれぇ!!」
僕の掛け声と共に、隊員たちが一斉に横から飛び出す。強化兵は一気に混乱しはじめた。
「なんだぁ!?」
パカッ。ダァン!
「必ず二人一組! 兜を取ってこめかみを撃て! 無駄弾はするなぁ!」
「おおおおお!!」
僕たちの奇襲によって、防戦一方の、城を守っていた連合軍も、勢いをつけていく。
「齋藤副将の突撃を無駄にするな! 今がチャンスだ!」
「うあおおおおお!!」
次々と倒れていく強化兵。いける。勝てるぞ!
ダァン! ダァン! ダァン!
完全に数的有利になった僕たちは、最後の追い打ちをかけようとした。その時、僕の目の前の隊員に、上から降ってきた刀が突き刺さり、動かなくなった。僕は恐る恐る見上げる。
そこには、倒れた強化兵から拾い上げた、無数の刀が浮いていた。
「上だ! 刀に気をつけろ!」
グサッ。グサッ。グサッ。
僕が叫んだ時には、もう遅かった。連合軍は次々と串刺しにされていく。
「齋藤副将! これは!?」
「無機物に触れることができる怨霊がいるんだ。平家は念の強い怨霊。よく考えればこういう攻撃だってできる。失念していた!」
カンッ! カンッ!
降ってくる刀に甲冑をあて、刺さるのを防ぐ。くそっ。一気に形勢不利になった。上を気にしながらも、目の前の強化兵を倒していると、ある作戦を思いつく。
「おい! 僕を殴ってくれ! 思いっきり!」
近くの隊員に声を掛ける。
「ええ!? なんですか!?」
「いいから! 早く! 副将命令だっ!」
隊員は、支離滅裂な僕の命令に怯えながらも、刀の持ち手の頭を僕に向ける。
「いきますよ!」
ゴンッ!
「ああ、副将! 副将! うわああああ!!」
僕は泣き抱える隊員を、上から見つめる。誰かフォローするだろう。
周りを見渡すと、赤い甲冑姿の平家の武士たちがうじゃうじゃといた。ああ、この数は想像してなかったな……。僕は少し後ずさりする。
霊体化する時の格好は、その直前の姿が反映される。今の僕は、甲冑姿で霊体化したから、霊体もそれも準じている。これなら平家とも五分の戦いができる、とつい数秒前まで思っていた。
「我は、保元・平治の乱で数々の戦功をあげた
一際体の大きな武士が、僕に刀を向けた。
「僕は、大阪幕府を支え、国民を守る。太平の世を作り上げるために生まれた天才、老中・齋藤瑞樹である!」
自分で言っていて、顔が赤くなった。
「齋藤瑞樹! ここに現れたということは、我ら平家に恨みがあるのであろう。受けて立とうではないか。我と一騎打ちで勝負だ!」
一騎打ちときたか。願ってもいないチャンスだ。武士の慣習に助けられた。
「仕方がない。それでいいだろう! いざ、勝負!」
僕は一歩下がり拳銃で重盛を撃つ。
「小賢しい武器を使いよって!」
重盛は、銃弾を刀ではじいた。なんて動体視力だ。
「我の太刀筋、見るがよい!」
そう聞こえた時には、重盛は目の前にいた。
「おうわぁ!」
ブゥゥゥン!!
避けたはいいものの、風圧で吹き飛ばされる。
「フッ。やわい体幹だのぉ」
あんたの力が強すぎるんだ。
その後も、重盛の攻撃を避けるので精一杯の時間が続いた。何か打開策はないか。平家が嫌がるもの……、平家の天敵……。
僕は明後日の方向を指さし、大声を張り上げる。
「あれは!! 源頼朝!?」
重盛の攻撃はピタリと止み、僕の指さす方向へ体を向ける。
「なんだと!?」
「すみません。勝つためなんです」
ボゴォォォォンッ!!
メリケンサックをはめた僕の左拳が、重盛の顔面にクリーンヒットする。
「重盛さまぁ!!」
意識を失いかけている重盛に、平家の武士が駆け寄っていく。
「おのれ卑怯者め!!」
武士の叫びに、僕は小さく頭を下げて謝る。
「我の負けだ……。攻撃を止め、一旦引こうぞ」
重盛の言葉に、僕はさらに胸が痛くなる。すみませんっ!!
「重盛、何を言っておる」
その時、大きな
「
「終わりじゃない。終わりじゃないぞ。戦っていうのは、頭を殺った方が勝ちなんだ。俺らの頭は生きている。そして」
知盛……、重盛と同じく、源平合戦で武功を上げた、武闘派の武将だ。
「相手の頭も生きているではないか。あの城の中にいる」
知盛は、松山城を指さす。
「俺は気付いた。わざわざ憑依して正面突破する必要はない。直接頭を取りに行く。俺に任せろ」
「知盛……、頼んだぞ」
知盛は、碇を振り回しながら、ビュンと城へ飛んでいった。
まずい。知奈さんが狙われている! 僕は急いで知盛の後を追う。その時、頭がズキンと揺れ、気分の悪さから嘔吐してしまった。これだけ激しい戦闘をしている。霊体化の限界は近い。
「知奈さま、ここが勝負の分かれ目ですよ!」
「ううう」
僕が、長宗我部御殿に着くと、知奈さんと蜂須賀は、仲良くババ抜きをしていた。
「こっち!」
「うぇーい! 知奈さんの負けー!」
蜂須賀はこれでもかと、高知藩主を煽っている。もう少し気を遣えよ。というか、知盛はどこだ?
「頭はどこにいるぅぅぅ!?」
遠くから雄たけびが聞こえてくる。近づいてきたかと思えば、また遠くなる。
……迷ってるな。いけしゃあしゃあと城へ突っ込んでいったのに。
「見つけたぞ!」
知盛が、やっとのことで御殿に入ってきた。
「齋藤瑞樹とやら、早いではないか。まさか先回りされているとはな!」
お前が遅いんだよ。
「俺はそこの頭を取って、この戦、勝利宣言するぞ! 頭を清盛さまに献上する!」
頭がダブルミーニングになっていて分かりづらい。だが、平家のトップが、大方の予想通り平清盛であることは理解できた。
「そうはさせない。僕は必ず、知奈さんを守る」
「次はポーカーをしましょう!」
「負けないですよ」
ああ、僕たちのことを、全く見えていない二人のお気楽な会話が、体の力を抜けさせる。
「おらぁ!」
バキバキィ!!
知盛は、御殿内のタンスを持ち上げ、思い切り知奈さんへ投げつける。僕は身を挺して、たんすの軌道を逸らし、たんすは壁に衝突し破損する。
「うわ! な、何が起こってるんですか!?」
知奈さんは思わず蜂須賀に抱きつく。蜂須賀は、たんすがあった方向を睨む。
「これは……怪奇現象……」
蜂須賀、頼むぞ。
「こわいですっ!」
蜂須賀も知奈さんに抱きついた。おおい! 臨戦態勢取っとけっ!
「これならどうだ!」
今度は、飾ってある刀を、高速で投げつけてきた。
カキンッ。
メリケンサックで刀を弾く。
僕は知盛の懐まで入り込む。動きはそれほど早くない。近距離戦で勝負をつけるぞ! 甲冑の間に銃を差し込む。
ダァン!
「ぐわっ」
知盛が後ろへたじろいだ。もちろんこれで倒れないのは分かっている。
「おらおらおらぁ!」
ボゴボゴボゴォッ!
甲冑を着ていない脇腹や顔を、マシンガンのように殴打していく。
「ぐぐぐわぁ」
今だ! 僕は知盛の兜を足で蹴飛ばし、銃口をこめかみにあてる。
「何!?」
知盛はニヤッと笑う。
「俺の兜は二重だ。対策をしないとでも?」
ドガガガァアアアアンッ!
遠心力を最大限に使った碇の勢いは、凄まじい。僕は瞬間的に気を失いかけ、ぶっ飛ばされる。壁に激突した衝撃で御殿が揺れる。
「こわい。こわいです。壁が勝手に崩れていきます」
知奈さんは、蜂須賀にしがみつき、離れようとしない。蜂須賀は、自分の使命を思い出したのか、ゆっくりと立ち上がった。
「私が守らなきゃ。私が」
蜂須賀は、崩れた壁にうなだれる僕に視線を向けた。明らかに目が合っている。僕のことが見えているのか? いやいや、そんなはずはない。
「怨霊さん! いるんですよね」
蜂須賀は、次に知盛の方向を見た。……視認能力があるのか?
「俺の姿が見えるのか?」
「こんなことはもうやめてください。こんなやり方で、日本統一なんて、できっこないですよ」
知盛は碇をブンブンと振り回す。
「けっ! 昔から天下統一は、武力によるものと相場は決まっている! 俺たち平家は、再び奮い立ち、日本の頭に立つんだ! 源氏にやられて、はいおしまいじゃ、死んでも死にきれねぇ!」
「蜂須賀! 知奈さんを連れて逃げてくれ!」
僕は、痛みに耐えながら、声を振り絞って彼女に伝える。
「戦いで、戦いで日本統一なんて、できっこないですよ!」
「それはもう聞いたから! 早く逃げろって!」
「ええと、ああ、戦争は絶対にだめなんですっ!」
僕の声が聞こえていない? ということはやっぱり見えていないのか? 蜂須賀は何をしているんだ。
「ええい! もういい! その頭を取れば終わりだ!」
知盛は、床に落ちている刀を拾い、知奈さんに切りかかる。
「知盛さま!」
その時、平家の武士が汗だくになりながら御殿に入ってきた。知盛は攻撃の手を止める。
「なんだ!? 今良いところなのに!」
「我々怨霊が、城前で次々と消されています!」
「何だって!?」
知盛は刀を放り投げ、武士の胸ぐらを掴む。
「どういうことだ!?」
「どうやら、香川藩が裏切った模様! 香川藩の中に、陰陽道に精通している者がいるとのことです!」
「ぐぬぬ。徳子さまめ! しっかり管理しておけよ! 齋藤瑞樹! そしてそこの頭! 命拾いしたな。この場は一時停戦だ!」
知盛は鬼の形相で城の外へ出ていった。
香川藩が裏切った。こちら側についたということか。僕も城外へ行って状況を確かめなければ。
知奈さんと蜂須賀には、置手紙を残す。
『この場所はもうバレている。他の見つからないところへ 齋藤瑞樹』
蜂須賀は僕が書いてすぐに、手紙を読む。
「齋藤さま」
目の前にいる僕を見つめる。やっぱり見えているのか? どっちなんだ?
「私、ぼんやりとですけど、怨霊がいるなっていうのが、気配で分かるようになったんです。きっと、齋藤さまが一度私に憑依した影響なんだと思います」
なるほど。気配だけは感じ取れるのか。
「この部屋に二人いるのは分かりました。そして、きっと、きっとその内の一人は、齋藤さまだと、信じていました」
蜂須賀は僕の太ももあたりに抱きつくポーズを取った。ちょっと位置ずれてるぞ。
「齋藤さま、ありがとうございます。やっぱり私の理想です」
僕は、触れらない手で蜂須賀の頭をポンポンと叩き、城外の状況を確認しに行った。
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