登校初日から愛重友達
りんごかげき
①
「僕と友達になってくれない?」
言った。
言うべきじゃなかったかもしれない。
高校入学初日、わいわいと教室の中が賑わう中、隣の席の女の子が青い顔をしていた。
「通学初日からこんなに賑わうものなんですか……? こわ……」
その子は、学校指定の紫の帽子を被った、まるで小学生のように小さな女子生徒だった。
彼女の顔には汗が浮かび、目は白黒している。
だから言った。僕と友達になってくれないかと。この子はどうやら、人が嫌いなのではなくて、人が大好きで嫌われてしまうことを恐がっているだけだと気づけたから。
その子はポカンとこちらを見つめて、しばらく無言になった。その間も賑わう教室。僕も黙って、彼女の反応を待った。
「私と……友達に……?」
彼女は紫の帽子をぺたぺたと小さな手で触り、大きな瞳をぐるりと回して、僕のことを見つめた。
「いいんですか……?」
「いいんですか、というと?」
「わたし、変ですよ? 言葉では言い表せないけど、人生で不思議を体現してます。そんな私と友達になる……? もう後戻りはできないですよ? はいかいいえで答えてください」
彼女の大きな瞳が僕の顔を見据えたまま固定したように動かなくなった。まるで満月みたいだ。なんの確認かと思ったら退路を断つ意味での最終確認だった。
僕はどうしようかとしばらく本気で迷ったが、もしかしたら……もしかしたら絶望の底へと堕ちゆく運命の女の子の命わ助けられるかもしれないと思い、重く、大きく頷いた。
「は、はい! も、もちろん……」
「やだ〜♡」
いきなり声色が変わったのでびっくりした。教室中に可愛い女の子の声が響き渡り、ずっと会話をしていた連中の視線が集まる。
帽子を被った女の子は、まるでさっきまでの冷や汗が嘘だったかのように涼しい顔で話しかけてきた。
「僕と友達になってくれない……? なーんて普通言えないですよね♡ 自分の心配なことを言葉にしないと我慢できない性格の人って絶対メンヘラじゃないですか〜♡ でも、そこまでしてわたしとお友達になりたいなんて、ほんっとにほんとにほんとにうれしいぃ♡ ねえ、ちゅーしましょ? わたしまだしたことないの! 大好きなあなたとちゅーしたい気持ちでいっぱいだわ……? 大っ好き」
僕は衝撃のあまりガーンと身動きができなくなった。彼女は僕の首の後ろに手を回して、ぎゅーっと柔らかい胸を押し当ててハグする。
これ、パンドラの箱だった……。
登校初日から愛重友達 りんごかげき @ringokageki
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