第7話 運行7 10月10日
今夜は私のとっておきの体験をお話しいたしましょう。
それは私が新人の時に話しです。
その日は、私が独り立ちとして、単独で夜行バスを運行する初日の事でした。
独り立ちを認められたとはいえ、まだ長距離の運転に慣れておらず、さらには夜間を走行するとなれば、まだまだ緊張を背負って業務にあたっておりました。
その日の乗客は6名でした。座席は全部で12席ありましたので、比較的空いている日だったと言えます。
1人ひとりに対して、名簿と乗車券を照合しては車内へと案内し、全員が乗り込んだ時点でバスの出発時刻になりました。
運転席へと座り、意を決して私はバスを発進させました。
片道4時間ほどの運行です、いま思えば新人にはちょうどよい距離でした。
ですが、当時の私は本当に緊張していましたので、そのわずかな距離がとても長く感じていました。
そうそう、走行時間が4時間ともなると、途中の休憩はありません。そのため、私はひたすらにバスを走らせていたのです。
フロントミラーを見ると、乗客はみなお休みになられていました。
昔しの夜行バスは、いまとは違って個室になるような仕切りはなく、感覚を置いて設置された座席が、横3列縦4列に並んでいるだけでした。
なので、運転席からはいくつかの鏡を使って、車内全体が把握できるようになっていたのです。
ふと、鏡越しに何かが動くような影がありました。と言っても、バスを運転中に鏡ばかりを見るわけにはいきません。
ですので、気のせいか乗客の誰かが動いていたのだと、自分に言い聞かせ走行に集中しました。
しかし、どうしても気になってしまった私は、再度鏡へ視線を動かしたのです。
車内は一見すると、何も変わりが無いように思えました。
ほっと胸をなでおろし、再度運転に集中しようとしたその時でした、はっと私はそれに気がついたのです。
『鏡に映る人影を数が多い』ことに……。
それに気がついた瞬間は、いっきに背筋が凍るような感じがしました。そして、自分に「気の所為だ」「勘違いだ」と言い聞かせ、よくよく鏡を覗き込んでみました。
すると確かに乗客は6名だったのに、鏡に映る人影が7名分あるのでした。
目的地到着まではまだ時間ありました。
私は途中停車し車内確認をするべきかと悩みました。
その間もバスはスペードを上げて走り続けています。
私は鏡から目を離すことができませんでした。
すると、突然の大きなクラクションがなり、前方がま眩い光でいっぱいになりました。
ついで大きな衝撃が全身を襲いました。
そうです。私は余所見をするあまり、走行車線を外れ対向車と衝突してしまったのです。
幸いの事に乗客には、怪我する者はいても死亡者はいませんでした。
そして、私は対向車との衝突で潰れてしまった、車体前方に挟まれてしまいましたが、なんとか命は取り留める事ができました。
あの日のことを思うと、本当に悔やんでも悔やんでも悔やみきれません。
あの日、私が見たのは死神だったのでしょうか?
それ以降、私は夜行バスを運転する際には、最新の注意を払って、業務についております。
運行記録 遊bot @asobot
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