第9話 【朗報】レイナさん、うっかり活躍してしまう①【困惑】

「あいたっ……ぬう、膝うったぁ……伊達ぇヒールぅ」

『レイナさん、僕ァねぇパパスじゃあないんですよぉ。膝をちょっと打ったくらいでやれヒールくださいだのね、あなたワーカーでしょぉ? ここは一つ、視聴者の皆さんにねぇ、ビシーっと良い所見せてやってくださいよぉ。僕ァそう思いますよぉ。はいヒール』


:結局かけてやるの草ァ!

:実際過保護

:恐ろしく早いグレーターヒール、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね!

:パパスはほんま草

:けど絵面が酷いんよ

:目隠ししてヘッドフォンそして何故か後ろ手に縛られて歩かされる・・・罪人かな?

:富士の火口に突き落とされそう

:伊達Dは岩笠だった・・・?

:レイナがかぐや姫・・・ねえわwww


 勾配のキツい斜面を歩くレイナと伊達D。

 配信は山形空港を降りたってからすぐに再開された。

 もちろん伊達Dは手抜かりが無いので、ジェットによる移動中もカメラは回しており、それを編集した物をレイナのオンラインサロンの方で限定公開すると公言している。なんて商魂たくましい男なのだと言わざるを得ない。


 さて何も知らないレイナが連れてこられたのは、奥羽山脈の一角、蔵王連山だ。

 新規ダンジョンが発生した地点は中々に険しく、現地は「蔵王の御釜」と呼ばれる火山湖がそのポイント。

 ダンジョン省が確認した所、湖の真横にぽっかりと大穴が開いているとの事だ。

 ここは普段は綺麗なエメラルドグリーンの湖水なのだが、光の当たり方で色が変化するため「五色湖」とも呼ばれ、蔵王刈田岳・熊野岳・五色岳に囲まれた立地ではあるが、観光地としても有名だったりする。


 ここらにはハイキングコースも整備はされているのだが、今回ダンジョン省の調査部が、蔵王の御釜一帯に不自然な地震を観測。

 震度計にはマグニチュード9.7と記録。

 具体的に言うのなら、西暦1960年に起きたチリ地震を若干上回る地震エネルギーだ。

 つまりこれだけを見れば観測史上最大というか、もはや計測不能に近い規模だったという事。


 ただし不自然な……という表記が用いられたのは、この巨大地震が起きたのが「蔵王の御釜」の真横というピンポイント過ぎる場所だからだ。

 普通の地震なら、余波が周囲一帯に影響をだし、震源地から遠くなるほどに震度は弱まりながらも、広範囲が揺れた筈だ。


 今回は気象庁がまず異常を察知し、すぐにダンジョン省に共有されたが、ダンジョン省はすぐに政府にダンジョン特例法を理由に軍事衛星を使い調査を開始。

 案の定ダンジョンが生まれていたと言うのがこれまでの流れだ。


 なぜこれだけ迅速に動けたのか。

 それは中野ダンジョンや東京TDタワーダンジョンの時も、同じような反応を示したからだ。

 実際の被害規模がどうであれ、中野も東京タワーも多くの死傷者が出ているのだ。

 これらのデータを蓄積した結果、気象異常が発生すると、まずはダンジョン関連を疑うというマニュアルが作られている。


 そしてレイナが騙されて四国を周遊している間に、ダンジョン省が許可を下ろし、ダンジョン協会が工作部を動かした。

 具体的には現地から一番近い国道あるいは県道付近に仮の調査本部を設営。

 関係者の出入りを円滑にするために、駐車場や事務所、ヘリポートが作られる。

 そこから測量チームがダンジョンまでの最短距離を概算で計算し、測量を行いながら道を付けていく。

 勿論舗装路は後からやるので、草刈りと重機による地固めがメインになるが。


 同時進行でダンジョンの入り口に突貫工事で建屋が組まれる。

 これはダンジョン由来の素材を使った特殊コンクリートで、建築に魔法を使用する事で、とんでもない強度となる。

 そこに結界が得意な術師が派遣され、魔石を使った強力な結界を張る事で、とりあえずの応急処置は完了となる。


 レイナが昇格試験として依頼されたのは、この後のフェイズとなり、実際に中の調査を行う事で、ダンジョンの方向性(出現モンスターの傾向などからある程度全体像が想像できる)をチェックするという内容だ。

 

 ――――なのだが、調査本部に到着したレイナは、伊達の「転んではいけませんから!」という欺瞞から、目隠し状態で手を縛るという行動に出た。

 それを見ていた視聴者は「鵜飼いみたいだ」と感想を述べた。

 周囲にいた協会職員はドン引きしていたが、何故か伊達の顔を見ると何も言わない。

 そんな感じで一応歩くには問題ない程度には整備された道を30分ほど進んだ所で、漸くレイナは目的地に到着した。

 そしてカメラをいつもの様に魔法で浮かせて固定すると、伊達が彼女の目隠しを外した。


「うわぁ綺麗な山~湖なんて緑だねっ!」


:小並感

:wwww

:語彙力をさぁ

:確かに綺麗だけども

:マイペース過ぎるwwww

:これも伊達Dの調教の結果なんやろなあ・・・


「伊達、ここどこなのー? 四国からだから……ふふん、当てちゃうからねっ……うーん、富士山っ!」

『ええ…………』

「あ、ちが、今の無し……高尾山?」

『探り探り言うのやめましょうよぉ。どうせ思いついた山を順番に言ってるだけでしょぉあなた』

「うるさいうるさいっ! アタシはね、エンターテインメントを考えているのよ? わかる? エンタメ。わかる? なんで!? 無言で撫でるのやめてよ!?」


:これはやむなし

:ポンだとは思ったけどここまでとは・・・

:撫でたくなるのわかる というかアメちゃん握らせたい

:レイナは可愛いなあ!

:ビーバーになって叫びたい

:あれビーバーちゃうマーモットや

:マ? 今知ったわ

:ちなあの叫び声は動画作った奴がつけたSEやから

:え・・・じゃあマーモット叫ばないん!?

:ここのリスナーもポンだらけやんけ!


 とは言え埒が明かないと踏んだのか、伊達Dは自分のインベントリの中から何かを取り出した。

 半透明のシートが下がった円筒形状の謎アイテムだ。

 それはアパレルショップではよくある更衣室に似ている。

 これを身長の高い伊達が手に持っている。

 そんな伊達の奇行にレイナは首を傾げた。


「えっとぉ、伊達、これなぁに?」

『これはですねぇ、時間もおしている事ですし、さっさと装備に着替えましょうという配慮ですねぇ』

「……えっと、その、この中で着替えるの? 見えちゃわない?」

『見えたらBANされますから、全体像が薄っすらとシルエットで見える程度ですよ。嫌だなあレイナさん、僕ァ大切な貴女を視聴者様とは言え見せないですよぉ』

「だからそう言うのやめろし……顔あっつ……わかったから、着替えるし」

『ええ、ではお早めに』


 そう言って中に入っていたレイナ。

 そして伊達はインベントリから彼女の装備を取り出すと、上から手渡していく。

 それを見て視聴者は大興奮である。


:確かにシルエットだけだけどさ・・・

:モデル並みの身長で恵体だからシルエットの方がえちえちなんだよなあ・・・

:伊達Dようやった!それでこそ裏方や!

:・・・・・ふう。何を騒いでいるんだい? 世界はこんなに美しいというのに

:秒で賢者になるなwwww早漏すぎぃ!

:これ伊達D絶対見えてるよね・・・・

:伊達Dの顔見ろよあくびしてんぞwww

:そらこの人ずっと仕事してるからねwwwそりゃ眠いでしょうよwwww

:つか見飽きてるでしょ・・・レイナずぼらだしwwwww

:伊達「どこが羨ましい?言ってみろ(えちえちシーンは見てもブラック企業がカスに見える労働を強いられる)」

:あれ全然羨ましくなかったわ・・・・


 コメント欄が盛り上がる中、カーテンの中が何度もフラッシュする。

 その度にレイナのシルエットが浮かび上がり、まるで魔法少女アニメの変身シーンを彷彿とさせる。

 そしてしばらくの後、中から「もういーよー」との合図と共にカメラに背中を見せていた伊達が簡易更衣室をオーバーアクションでインベントリに消すと同時に後方伸身3回宙返り2回捻りでフレームアウトする。

 どうもメインチャンネルの配信では、意地でも顔を見せたくないらしい。

 そして――――


「じゃーんっ! どう? アタシの新装備だよっ! えへへ、みんなにお披露目出来てマジ嬉しいんだけどっ」


 目のところで横ピースを決めたレイナが笑顔で立っていた。

 これまでの彼女の装備は、ひらひらした布をあちこちにあしらい、見栄えがするようなドレスメイルだった。

 しかし今はどうだ。


 白に近い薄桃色のホットパンツに膝上までの編み上げブーツ。

 その下には赤くデフォルメされた桜の花びらの透かしが入ったニーハイストッキングをガーターベルトで吊っている。


 トップスは前を逆三角形に開いた超ロングチュニックで、色は白いが複雑な黒革のベルトが攻撃的に配置されている。

 当然そうなるとヘソ出しになり、中に見えているブラはレースを複雑に編んだ藍色。

 頭はトレードマークだったギャルツインテではなく、元々ゆるいウエーブがかかった髪をエアリーに編んで、右サイドから前に垂らしている。


:おおおおおおすげえええ

:かわよ!

:つかギャル感増したな!こういうのでいいんだよ

:いつの間に作っていたんだ!

:前より防御力無さそうw

:当たらなければどうという事は無い!


 新装レイナはどうやら好評の様だ。

 この装備は伊達があつらえた物で、以前よりもずっと高度な魔法が付与してある。

 ゲーム的に言えば物理攻撃と魔法攻撃をそれぞれ40%ほど軽減してくれる。

 その上で軽量化のお陰で彼女自身が感じる重みはパジャマを着ている程度の感覚しかない。

 つまり彼女の持ち味であるスピードを活かした戦術をさらに向上させるのが目的だ。

 

『好評の様で安心しました。レイナさんは戦士系の上位二次職であるエレメンタルナイトにクラスチェンジしました。今後は今まで以上に属性と速度で相手を翻弄するスタイルに磨きがかかるでしょう! つまりはそう! 桜坂レイナ日本最カワ最ツヨ計画の新たなフェイズに入ったという事! ふふっ、僕ぁ嬉しいですよ。ねえレイナさん。近い将来、レイナさんが世界一位となる日が見れるなんて……僕ァ武者震いが抑えられませんよぉ!』

「~~~~~~~っ!?」


:wwwwwwwwwww

:ド畜生wwwww

:レイナの初めて聞いたんだけど!? って表情が最高すぎる

:これから試験だってのにプレッシャーかけてくスタイルwww

:俺たちも応援してるで!(ゲス顔)

: 桜 坂 レ イ ナ 世 界 一 位


「やめてぇ……プレッシャーかけるなぁ! 伊達ェ! アンタね、空気読みなさいよっ! いい、今は新装備のお披露目。わかる? レイナ可愛い! これでいいのよ。でしょ? なんで悪の女幹部みたいな流れになってる訳? ばかなの?」

『いえここ最近のレイナさんってポンコツ面ばかりでしたので、ここで一つ本来のレイナさんに戻すべきかと思いまして。僕ァカッコいいレイナさんが見たいなぁ』

「お前に騙されて拉致されたんだが? 伊達さ、次会うの法廷かもだよ?」

『受けて立ちましょうっ! 僕が今まで貯め込んだレイナポンコツ集はVol20くらいまでたまってますよぉ?』

「アタシの恥部を裁判記録に残そうとするなし!」


:レイナが裁判記録なんて言葉知っててびっくり

:裁判官も苦笑いしそうwww

:緊張感、なし!w


 そうしていつものコントの流れになる一行だったが、この後のレイナは、思ってもみない出来ない出来事に遭遇するである。果たしてそれは彼女にとって吉なのか凶なのか神のみぞ知るというところだろうか(※なおタイトル)

 

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