第8話 【悲報】配信者レイナさん、また騙されてしまう⑤
「びゃああああああああうまいいいいいい……」
:大人気女性Dチューバーの顔か?これが・・・
:完全にメシの顔してやがる・・・
:こら酷いメシテロだよ!
:こんなの絶対間違いない奴じゃん・・・
:これは低評価の嵐ですわ(高評価ポチー)
:訓練されてて草
「だってっ! こんなに美味しいんだもんっ! ああ^~イカのテンプラの歯ごたえ^~伊達ぇ~ご飯ちょうだい~」
:wwwww
:これはひどいwww
:さっきまでの不機嫌さはどこいったのかと
:シェフ伊達よ・・そこはマズメシでオチるとこやろ!
:彼は食べ物を粗末にはしないので
:言うて後ろに見切れてるDF社員も同じ顔してるが・・・
:こんなのただの社員旅行じゃねえか!
『ご安心ください。社員に忖度はしても、弊社CEOにはしてませんから。彼女は今、僕がセッティングした営業で渡米しておりますので』
「あーあ、リョーコさんかわいそ」
:完全に私怨で草
:ひどい下克上を見た
:ある意味で社長をぞんざいに扱っても許されるアットホームな職場?
:完全にブラックのそれで笑う
:ホワイトなら今頃レイナをドル売りしてるんだよなあ・・・
:桜坂レイナ 職業はダンジョンワーカーもできる芸人
:戦闘も上手い芸人枠やめろ
:いや草
そんな訳で混乱もあったが、伊達による素潜りの戦利品+事前に買ってあった見事なカツオ、そしてトヨオカ自動車会長のポケットマネーによる松坂牛の差し入れを含め、和やかな食事会となったレイナたちであった。
伊達が各種お造りなどを準備する傍ら、DF社員がオルフォードのインベントリから取り出した道具類で野外パーティー会場を設営。
スケジュール的に余裕が生まれている事を鑑みて、成人しているメンバーは飲酒も許可された。
とは言えイレギュラーに対応するため、伊達だけは呑まないが。
その伊達は、料理関連の仕事の経歴が無いのにも関わらず、妙に料理が熟練している。
大きな魚は出刃で手早く解体し、後は柳包丁でお造りが完成する。
これらは彼の私物である和包丁のセットでだ。
柳包丁まで個人所有をしているのにも呆れるが、刺身の後がエグかった。
いまレイナが顔面崩壊させているのは、アオリイカの天ぷらである。
彼女が坐るテーブルの前にキッチンを設置して、本格的な天ぷら屋の様に、目の前で調理を見せている。
そして揚がる端からレイナの皿に載せてやるのだが、レイナはモザイクを掛けた方がよさそうな表情で蕩けさせている。
とは言え、画面に見切れているが一緒に食べているDF社員もまた、同じように顔面崩壊させているのだから同類だが。
「…………なによぉ。すっごい見て来るジャン」
『いえ、いつも頑張ってくれて感謝しますよ』
「ちょ、やめろし……マジでそう言うの無理だから」
料理が途切れた時、ふと伊達がしみじみと言う。
思わず漏れたセリフの様で、彼には珍しく一瞬取り乱した様な表情をしたが、すぐに取り繕う。
レイナはそれに気づかないフリをしたのか、或いは気づかなかったのか、いずれにせよ、いつも通り頬を赤く染めて狼狽えて見せる。
:お、てぇてぇか?
:熟練のてぇてぇ鑑定士である俺の判定は・・・
:?
:?
:言えよwwwww
:すまん目頭が熱くなってタイピングできなかった・・・
:鑑定士とはwwww
:レイナのリスナーもポンコツかよぉ
:互いにブーメラン投げ合う素敵な関係ですねww
『貴女は生きてるだけで撮れ高がありますからね。DFの運営側としては感謝しかないですよ』
「ぶぅ。意地悪っ! 伊達なんか伊達なんだからねっ!」
『語彙力の無さで僕の名前を罵倒に使うのはやめてくれませんかぁ? そうだ、次の企画はD配信者レイナ、漢検10級に挑戦する! なんてどうでしょう』
「ちょっとぉ、アタシ結構漢字得意なんだけどぉ? 10級なんて余裕で合格しちゃって企画倒れになっても知らないんだから。え、なんで?! どうして頭撫でるの!? やめろしっ! はずいからぁ……」
:レイナは可愛いなあ!
:安定のポンコツwww
:恥ずかしいのはレイナの頭の出来なんだよなあ・・・
:漢検10級にキレよう?
:受験会場でレイナ以外全員小学生とか撮れ高ですなあwwwww
:逆に見たいんだがwwww
:いや待て俺は騙されんぞこれは高度なてぇてぇだ!
:お前ポンだったやろ良いから涙拭いてすっこんでろ!
:はい・・・
:いや草
という感じで、この日は和やかに過ぎていったのだが、結局この後はあまり盛り上がる事無く残りの日程を消化する事になった。
と言うのもこれは愛媛以降の札所の位置に関係する。
翌朝すぐにレイナ一行は高知県最後の札所である三十九番札所である延光寺に参ると、愛媛県内の
たった五か所なのに、実は愛媛県内ではこの区間の移動が一番距離がある。
逆にこれ以降、残りの札所は密集しており、次から次へと消化できてしまった。
そもそもレイナの身体能力はまだ認定前とは言え、実質Bクラスに準拠したレベルであり、これまでの移動は、彼女的にはのんびり歩きの感覚でも、一般人にはジョギングよりも速い速度での移動なのだ。
それもインターバルをとる事なく、その速度を維持した状態での移動だ。
なので猶更、札所が密集していると、かなり愉快なスピードで消化する事になる。
こうなるともう、撮れ高はほぼ無い。
何せ門の前でレイナが「〇〇番 〇〇寺」と何かしらのポーズを取りながらセリフを言うだけしか見どころが無いのだから。
ちなみにコレは別に配信でリスナーの為にやってる訳じゃない。
後にこの四国お遍路の旅を動画化する際のインサート用素材に使うのだ。
なので困った伊達は、最後のエリアである香川県に入った所でグルメ番組系に方向をスイッチし、香川県内において、地元民しか知らない様なうどん屋をツブヤキXのDMで情報を集め、寄せられた店に全部レイナを行かせた。
その結果――――
「おうどんおいしかったけどもうにねんくらいたべたくない……」
虚無の表情で三角座りをするレイナの映像が笑いを誘った。
とは言えたった7日間で、それも徒歩で八十八か所を制覇したのは普通に偉業であり、もしできる身体能力があっても誰もやりたがらないという意味ではとても貴重な映像になっただろう。
そんな訳で全ての目的を終えたレイナは、謎の達成感から晴れ晴れとした表情で、最初に四国に降り立った場所である高松空港にやってきた。
そして空港の前で後の動画化の為のエンディングを撮ると空港内に入っていった。
彼女たちの移動はDF社が保有するビジネスジェットなので、その手続きを待っていたのだが、カメラを回したままの伊達が、すっかりオフの気持ちになっていたレイナの前に立った。
「え、ちょ、なに!? 後は帰るだけだよね!?」
しかし伊達は何も言わず、スッと何かをレイナに差し出した。
ヘッドフォンとアイマスクである。
「あの、伊達、えっと、自分でつけろと?」
伊達の肯定の頷きとシンクロするように、画面が上下する。
レイナの目が左右に泳ぎ始めたが、やがて覚悟を決めたのか、菩薩の様な表情になり、彼女はアイマスクとヘッドフォンを自ら装着した。
その様はまるで、執行を待つ死刑囚の様だった。
:当たり前だよなあ?
:ダメだwww腹いてえwwwww
:レイナ「南無三……」八十八か所巡っても煩悩は消えなかったのにここで悟りの境地に達したレイナさん
:wwwwwww
:無慈悲すぎるwwww
:伊達「(わかるな?)」レイナ「…………」コクリ
:そう言えばダンジョン省の依頼はまだやってなかったわ
:それなwww
:っぱレイ虐なんだよなあ
:レイ虐でしか得られない栄養素もあるんよ
:曇ってても晴れてても可愛いんだよレイナは
:わかってる けどどっちが見たい?
:・・・・・曇ってるレイナです
そして四国の旅が雑に終わると共に、レイナ達は本来の目的地である山形空港を目指す事になったのである。
勿論レイナは行先を知らない。
ちなみにツブヤキXのトレンドで、「なにも知らないレイナ」「レイナ以外は知ってる」が上位を席巻するという謎現象があったとかなかったとか。
なんにせよレイナの冒険はこれからも続くのである。(※打ち切りエンドではない)
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