第4話 【悲報】配信者レイナさん、また騙されてしまう①
「へぇ~ここがダンジョン省なんだぁ~色んな人がいるんだねぇ伊達~ここのおかげでアタシも安全にダンジョンに潜れるんだねっ!」
:なんだよその説明口調
:めっちゃ声震えてるやん
:ほんとレイナってアドリブ弱いよなwwww
:キョロキョロしすぎやろ
:お前陣内〇則かよ
:棒読みにも程があるwwww
サクラチャンネルの企業案件を兼ねた生配信は、霞が関にあるダンジョン省の庁舎内からスタートした。
いつもならあざといノリからの軽い始まりなのだが、今日に限ってはレイナも緊張しているのか、口調からして違和感がある。
とは言えそれはレイナだけじゃなく、伊達もだった。
いつもなら煽る様なコメントを挟むのだが、今日は妙に歯切れが悪い。
「伊達っ! アンタもなんか言いなさいよ」
『物売りにはそれぞれ売り声というものがございます。竿竹売りは「さーおやー、さおだけ」と長く伸ばしてございますな。これが「さおだけっ、さおっ」てな、せわしない売り声ではどうも具合が悪うございます』
「なんで唐突に落語を始めるのさ。お前さぁ移動の車で流し過ぎ。それ時うどんでしょ……覚えたわ……」
:草
:伊達D渋すぎィ!
:上方落語はいいぞ
:どうしたんだよ伊達ぇ!
そう言いながらもダンジョン省の長い廊下を進んでいく。
先導していく職員はスーツ姿の男女だが、ちらちらと伊達を見ながら肩を震わせている。
その様子にレイナが首を傾げるが、伊達は何も言わない。
やがてレイナは会議室の様な場所にエスコートされた。
よくある事務所にある長机があり、パイプ椅子が置いてある。
そこにレイナが坐り、向かい側に職員が坐った。
伊達は横からの画角で全体を画面に収める。
「さて今回レイナさんとダンジョン省のコラボ配信を致したく、こうしてオファーを出させていただきました。私はダンジョン省素材調達部の主任、皆川啓子と申します。どうかよろしくお願いします」
「あざますっ! えっと、レイナです。あ、あのっ! 伊達からは何も教えてもらえなかったんですけど、な、何をするんでしょうか!」
完全に緊張したセリフで、いつものギャル感が薄いレイナに、皆川主任は苦笑いをしつつもセリフを続けた。
「はい、今回ですね、新ダンジョンが現れたんです。まず新ダンジョン発生時のダンジョン地震により、概ね痛ましい災害となるケースが多いのはご存じですね?」
「はい、勿論です。その、えっと、中野や東京タワーダンジョンの時はその、痛ましい事故だったと聞いてます……」
沈痛な面持ちのレイナ。
流石にこの件では茶化せる事柄ではない。
今でこそ日本のダンジョンワーカーの目指すべき最難関ダンジョンと知られており、レイナも拠点としている中野ダンジョン、そして次点で難易度の高い東京タワーダンジョンは、発生時に多くの犠牲者が出ている。
中野はまだ軽度だったが、東京タワーダンジョンは1万人近くの死傷者が出てしまい、回復スキル持ちワーカーにスクランブルをかけ、東京圏のレスキュー隊を総動員した結果、重症者の数は相当数減らせた物の、それでも2000人ほどの死者が出ている。
中野の被害が少なかったのは、旧中野サンプラザがその中心で、ビル自体が経年劣化により解体作業の真っ最中だったからだ。
東京タワーの場合は、観光地でもあるし、フットタウンに相当数の人間がいたのが大きい。
「はい、本来ならば大災害となったでしょう。しかし今回のダンジョンは都市部から離れた僻地の為、完全に顕現した後に確認が取れました。ゆえに犠牲者はゼロなんです」
「……よかったぁ」
:レイナ優しい
:ポンだし暴走するけどこういうとこあるから推せるんだよな
:隠しきれない善良さよ・・・
:だから伊達によるレイ虐が映える訳ですねわかります
:やめたれw
「だとしたら今回は何のオファーなのですか?」
「はい、レイナさんは冒険者協会内の査定で、このほどBランク昇格の資格を得たと判断されました」
「ほ、ほんとですか!? や、やったわ……伊達ぇ、アタシBランクだって……」
『…………レイナさんの努力の賜物ですよ』
「伊達アンタ、大丈夫? ほらもっと罵倒とかしないの?」
:wwwwwwwww
:訝し気に見るなwwww
:伊達Dも空気読んでるんやろwwww
:普段ははしご外すからなw
:やはりレイナはポン
さてダンジョンワーカーの格付けについてざっくりと説明すると、協会主催の実地戦闘を含む研修会に登録し、約1か月に渡り素質をチェックされる。
ダンジョンワーカーは現在、登録が完了したニュービーに対し「ジョブ魔石」と言うアイテムを支給する。
これを体内に取り込む(心臓の上に押し付けると吸い込まれて行く)事によって、生えてくるスキルの方向性が決定づけられる。
レイナの「魔法剣士」も伊達の「マスターソーサリー」も、これがあったからだ。
ちなみにレイナは剣士、伊達は魔法使いの初期ジョブで、それを熟練させていくことで派生していった、ゲーム的に言うなら上級職なのだ。
レイナの場合は剣士からの派生ジョブ、護衛剣士と魔法剣士が現れ、攻撃的な魔法剣士を彼女は選択している。
伊達の場合は魔法使い→魔導士→ソーサラー→マスターソーサリーと発展させている。彼の場合はもう、現在判明している魔法使い系のスキルはあらかたマスターしているため、恐らく最上位ジョブに達している……とされているが、ジョブの仕組みは完全に判明している訳ではないので何とも言えない。
ただしマスターソーサリーは本来分岐し、選択しなかった側の派生ジョブのスキルも発現しているので、一応最上位だろうとは判断されている。
話を戻し、ダンジョンに潜る身体能力があり、その上で咄嗟の判断力や決断力が一定レベル認められた場合、ジョブ魔石が支給され、ここで晴れてダンジョンワーカーとして登録完了となる。
この状態をNクラスと呼ぶ。
これはラテン語由来の新参者を意味するNOVICE、或いはオンラインゲーム等ではポピュラーな、初心者を意味するNewbieの頭文字と言われている。
そこからは協会が認定するダンジョンで上層エリアを突破するとDランクに昇格する。
そしてDランクで1年ほど経験し、初期ジョブから最初の派生ジョブに進んだ所でCランクに昇格する。
ここまでは分かりやすい判断基準があるが、それ以降は基本的に資格ありと協会が判断した場合、その都度協会から打診があり、昇格試験に臨むという流れだ。
レイナはソロワーカーとして、下層の途中までは問題なくアタックできる腕前を持つ。
なのにCランクのままなのは、それくらいに下層は凶悪だからだ。
レイナの場合、伊達と言う随伴者が常にいるからこそ、下層でもソロを張れるが、普通は無理である。
ただし日本に所属しているワーカーの中で、レイナの力量はトップ層に片足突っ込んでいるのも事実。
なのにCのままなのは、偏に固定パーティーによるダンジョンアタックをしないからだ。
いくら本人にそれなり以上に力量があろうと、下層でモンスターハウスに囲まれたなら一たまりもない。
それゆえ、レイナ単体で見れば、そこまで評価をされないという事情がある。
しかしだ。
最近レイナに派生ジョブが現れて、魔法剣士の上位職にクラスチェンジした。
ジョブの名前はエレメントナイトと言い、魔法剣士は属性攻撃と速度に特化していたが、それに加え攻撃的な属性魔法が習得できる様になった。
いくつか攻撃魔法は習得したが、これから熟練度をあげていく事になる。
これにより、今まで中距離・遠距離攻撃が明らかな弱点だったレイナに、全てのレンジでアドバンテージが持てた事になる。
それを把握した協会が、今回の昇格を許可したのである。
ゆえにBランク以上が人外の域に達するという噂もあながち嘘ではないとわかるだろう。
「そこでですね、Bランク昇格試験を行いたいと思います。レイナさんには、そのダンジョン、仮称死国ダンジョンと言いますが、そこに調査アタックに行ってもらいます。これは新ダンジョンが発見された場合、ある程度の力量を持つワーカーによる斥候作戦でして……とても難易度が高いと協会では考えています……」
そうして小柄だがクール系美人である皆川主任(推定25歳独身)は、ゆっくりと首を横に振る。
それを見たレイナはごくりと唾を飲み込んだ。
室内が言い知れぬ緊張感に包まれる。
だが我らがレイナはここで止まる女じゃない。
「協会はアタシがそれを出来る、そう思っているんですね……?」
「ええっ……勿論です。若手ナンバーワンの潜在能力を持つ、そう信じていますっ」
:おお、流石はレイナよ
:マジで戦闘だけは間違いないからな
:伊達Dがいるとは言え、相手の属性に確実に有利を取っていけるのは神
:調子にさえ乗らなきゃ完璧なのに・・・・
「黙れ愚民共よ。アタシは協会から認められてるの。わかる? アンタ達ざことは違ってねっ!」
レイナは満面の笑みでカメラを見つめた。
:そういうとこやぞ
:まるで成長していない・・・
:しかし伊達Dおとなしいな
:そう言えばそうだ
そこで漸く伊達がカットインしてきた。
『レイナさん、これはもう若手ナンバーワンどころか、一気にトップへ躍り出るチャンスかと。勿論ヒヨったりしませんよね?』
「あったりまえよっ! このアタシを誰だと思ってんのよ! 天下のレイナ様よ!」
『では再度確認しますが、死国ダンジョンに向かうのですね……? 貴女の覚悟が本物なら、僕も精一杯応援します』
「ふふっ、まっかせなさいっ! アンタとアタシが揃ってれば何も怖い事なんて無いわ! シコクだがサコクだから知らないけど、華麗に偵察とやらをして見せるわ!」
画面には映ってはいないが、伊達と皆川は顔を見合わせ深く深く頷いた。
こうしてレイナのBランク昇格試験を兼ねた新ダンジョンの偵察任務が確定したのである。
すると画面の中に伊達の手が伸びて来た。
いつもの右手だ。
それは流れる様に手の甲をレイナに見せながら、人差し指を下に向ける。
『レイナさん』
「なぁに――――あふゥン……」
:一瞬で眠りに落ちて草
:白目剥いてクタンってなったぞwwww
:伊達Dのワンアクション魔法すげえなマジで
:初見殺しにも程がある
コメント欄が騒がしいが、伊達のカメラはレイナに寄っていく。
そして虚空から彼が取り出したのは分厚いアイマスクと高級そうな密閉型ヘッドフォン(※推定価格78000円のドイツメーカー製)をレイナの耳と目に装着。
何とも惚れ惚れする手管であろうか。
それをじっと見ていた皆川がサッと顔を逸らして小刻みに肩を震わせる。
:あっ(察し)
:これ昔のバラエティのアーカイブで見た事あるぞwwww
:悲しいなあ・・・
:お労しやレイナ・・・
そして伊達がパチンと指を鳴らすと、部屋のドアが開き、そこから黒服の職員(※公務員)が10人ほど雪崩れ込んできた。
そして慣れた様子で眠っているレイナをお神輿の様に担ぎ上げると外に運んで行った。
『はい、ここで企画説明になります。これからレイナさんには新ダンジョンに向かってもらいます。ただし事前調査によると、一定の手順を踏まないと入口にたどり着けないギミック型ダンジョンの様です。そう言う訳で……ブフッ、失敬、レイナさんには安全に移動してもらったという訳です。現在羽田空港に弊社所有のビジネスジェットがスタンバイをしています。それでは皆さん、配信はここで一度お別れし、空港から第二部を開始予定になります。リスナーの皆さんには、サクラトリップ公式トゥイッターの告知をチェック頂けたなら幸いです』
そう言って配信はデフォルメされたレイナの2Dモデルがコミカルなダンスを踊っている待機画面へと移行したのであった。
:うわあwww
:こらもう拉致だよ!
:やべえ・・・早く見たいんだがwwww
:レイナの曇らせでしか得られない栄養素がある
:可哀想は抜けない(ただしレイナは除く
:大概チェリーってクソ外道よなwww
こうしてレイナは謎のダンジョンに向かって強制移動と相成ったのである。
レイナの冒険はこれからだ! という所であろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます