帰還

 霞んだ視界。

 瞬きをすると、頭痛がする。

 耳に届くのは、心電図の音だ。


「……あー……」


 喉がカサカサで、声が出なかった。

 声を出そうとすれば、空気が口から漏れるだけ。

 焦ったことで、少しだけ意識が明瞭になってくる。


 ここ、どこだ。


 首だけで寝返りを打つ。

 足のある方は、ガラス張りだった。

 ガラスの向こうには、ナースステーションがある。


 片腕には点滴。

 胸には吸盤みたいのがたくさんついている。


 全身がダルくて、動けない。


 少し寝ようか。

 なんて、目を閉じて、もう一度開けると、目の前にはナースさんがいた。


 時間の感覚がおかしくて、一度の瞬きで数十分経過している。


 何度か、瞬きと意識の覚醒を繰り返す。

 混濁する意識の中、ふと目の前には医師の顔が直近で映った。


「うん。安定してるね」

「良かったですね」


 オレは――。

 どうやら、本当に死にかけていたらしい。


 医師たちの話を盗み聞きすると、峠に差し掛かっていたようだ。

 心肺が安定せず、速くなったり、止まったり、医師達は目を離せなかったとのこと。


 改めて、オレを診てくれた人に感謝をした。

 おかげで、息を吹き返すことができた。


「あ……」


 今は、もう少しだけ寝よう。

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