第14話

 真智が家に着くころには既に福太郎の靴が勝手口に置かれていた。

 スーツのまま舌打ちをして福太郎の靴を蹴飛ばし勝手口の中へと入る

「お帰り、真智」

「勝手に鍵あけんなよ。お袋に切れられるの俺なんだけど」

「はは、いいじゃないか。蓮華さんに怒られるよりマシだろ?」

「あいつと人間比べんな。で、今日は何の用なんだよ」

 そう言って、真智はカバンからコンビニで買ったジュースを福太郎に差し出した。

「おや、いい心がけだね。これなら僕だっていじわるする必要がなさそうだ。ほれ、残りの二人のうち一人の身元だよ」

「……顔のない写真の方か」

 福太郎から紙を受け取ると、そこには二人の女性が。

 十九歳と名前の横に書かれている。

「自殺……。飛び降りか」

「蟹江(かにえ)ニコちゃんだよ」

「この蟹江ニコの方は貝津善旭と一緒で飛び降りだな」

「おいおい、また霊の仕業とか騒ぎ出さないだろうね? やめてくれよ、その流れはもう十分だよ」

「違う。そこじゃない。何でこんなにもたった五人集めただけなのに死に方がこんなにも違うんだって思ったんだよ」

 一人だけ死因も正体もわからないが、三人バラバラでも十分に怪しい。

「それは一理あるね。虹華ちゃんはどうだった? 死にそうだった?」

「最悪な聞き方してんな。いや、今は元気だったよ。妊娠してた」

「妊娠?」

「ん。来週生まれるんだってよ」

「マジか。けど、出産は命かけだし、どうなるかはわかんないよね」

「そうだな。でも、あの写真の中で顔がなくても生きていけてるのって、夏目虹華だけだな。その夏目虹華に色々ふっかけて来たんだが、面白いほど様子がおかしかったよ。ありゃ、絶対に何か知ってるな」

「様子? はー? もしかして、その動揺は父親が違うとかじゃない? 箱壷君の子供だったりして」

「そりゃないだろな。箱壷の親友だってすぐ忘れてたし、これ見ろよ」

 そう言って、垣原から借りたアルバムのページを見せる。

「ほら、これ」

「あら、わかりやす」

 それは真智がみつけた、愛し合う二人がお揃いの白いもこもこのキーホルダーがなくなった写真だった。

「高校生あるあるだな。青春の一ページがこんな風に生々しく残ってるのに悪意を逆に感じるよね」

「そこら辺はあったかもな。住所教えてくれた同級生は夏目虹華のことを少なくとも嫌ってたわけだし」

「そうね。でも、写真を見ていく中で虹華ちゃんは嫌われるよりも輪の中心にいるタイプの女だと思うけどな。ああ、まあ、でもわかるかも。こういうタイプの女子って裏でなにやってるかわかんないしな。浮気とかもさ、どっかで箱壷君に再開しちゃって火が付いたとか、親の声よりよく聞く話じゃん?」

 確かに、何処かの誰かが浮気をしてるしてななんて、娯楽の少ない村では数少ないエンターテインメントである。

 聞きたくもないし、興味もないのに無理やりアトラクションに並ばせられるような感覚で浮気についての情報が入って来るのだ。

 けど……。

「そんなレベルの気まずさじゃなかったんだよな。気まずさってよりも、怯えてるって感じ?」

「そりゃ、旦那に旦那の子じゃないってバレたらそうなるだろ。虹華ちゃんは一生怯えて暮らすしかないって」

 確かにその可能性だって捨てきれはしない。

 だが、矢張り。

「いや、どちらかと言うと、多分あれは箱壷じゃなくて貝津善旭に怯えていたんだと思う」

「なんでそう思うの? 勘とかだったら鼻で笑うけど?」

「勘って言うか、的確なところで動揺するんだよ。例えば、一番最初に箱壷の名前をだした時動揺した」

「確定演出じゃん」

「そんで、次に箱壷が貝津善旭の話をしたと伝えた時。ここが一番動揺して部屋に引きこもって行った。もし、箱壷に対しての怯えだったら最初になんで逃げなかった?」

「怪しいから」

「貝津善旭の時だって怪しさマックスだったぞ。多分、最初動揺したのも箱壷から貝津善旭の名前が出ることに怯えていたんじゃないかって俺は思うわけ」

「まあ、自分がきっかけで人が死んでるなんて旦那には言えないよね」

「そうだな。旦那には折り合いが悪かった高校の先生が自殺してるってことだけは伝えたっぽいけど」

「その情報伝える必要ある? 普通黙ってない? そんだけ動揺しといて情緒どうなってんの? 今の子は」

「情緒は知らんけど、伝えるべきイベントはあったみたいだぞ。なんか、ちよっと前に自殺動画? なんかよくわからんものを見たらしい。そういうドラマか?」

 真智が福太郎に問いかけると、福太郎はうーんと唸ってため息を吐く。

「……いや、多分本物の方だと思う」

「は? 本物っ……」

「そう。本当に自殺する姿を取った動画。ちょっと前に話題になったやつもあるぐらいだし、昔から一定数あるんだよ。サーチを特定のに変えて検索すると簡単に出てくるしさ」

「そんな時代なん?」

「そうだよ。ほら、今検索しただけでこんだけ」

 そこには様々なサムネイルの動画がある。お面を被った中年男性が、裸でロープを首に巻くものや女子高生が自分の手首に刃物を添えるもの。中年男性が柵を超えているもの。

「……随分と悪趣味だな」

「それは賛同するけど、取ってるのは自殺する本人が多いよ。最後ぐらい知っててほしいんだろうね」

「この中年のおっさんも、知っててほしいかったのか」

 そう言って、真智は一つの動画を再生する。

 それは、中年男性が柵を越えて、前かがみになったと思ったら次の瞬間消えてしまった。飛び降りたのだろう。消えた後に女の子の声でひぃっと短い悲鳴が動画編集て切られきらずに入っているのがなんとも生々しかった。

「うぇ」

「お前が自分の意志で押したくせに何言ってんだか。でも、うっかり見ちゃう人も多いんだよね。だから、結構大きな問題になってる。SNSに貼られると勝手に再生されちゃうとかなにも情報なくて開いちゃうとかあるらしいし……。そうだ、悪趣味で可哀そうと思うならお前がお経あげてみれば? ここ、寺だし」

「はぁー? 冗談。それにだってだいぶ前の画像なんだろ? 今さら俺にここで読まれてもただの独り言だろ」

「大分前ってねぇ……、あー。本当だ。五年ぐらい前だわ。題名に日付が入ってる」

「……五年、前?」

「うん」

 そう言って福太郎が真智がみた動画の題名をクリックする。

 そこには、年、月、日にちと時間の後ろにYОSHIAKAの文字があった。

「飛び降りたおっさんの名前?」

「福太郎、もう一回見るぞ」

「え、なに? なんか新しい扉開いちゃった?」

「バカ野郎。それどころじゃないだろ。これ、貝津善旭だっ」

 真智には、小さな画面の中で風にはためいている見覚えのあるスーツは、あの家にバカのように飾られていた写真の中で来ていたスーツ。風になびいてチラリと見えたパンクなネクタイ、背格好。

 間違いない。

「これは貝津善旭の自殺動画だっ」

「えっ!? そんな偶然あるか?」

「俺だって信じられねぇよ。おい、福太郎。これ、いつアップされたかわかるか?」

「ちょっと待ってよ。これは……、今から一年ぐらい前だ」

「一年? どうして今更?」

 自殺は五年前だと言うのに。

「いや、それよりも何でこんな瞬間が撮られているんだ? 自分が撮ったのか?」

「落ち着いて、真智。最後に声がしただろ? 女性の悲鳴聞こえてないか? これは貝津善旭が撮った自殺動画じゃない。恐らく、この悲鳴の主が撮ったものだ」

「ちょっと待てよ。そうなると、こんなタイミングよく携帯のカメラを起動させれるのか? 先生が自殺するタイミングに屋上にたまたま居合わせてカメラとるか?」

「……自殺じゃないからじゃないか?」

「は?」

「真智、これ、多分だけど自殺じゃないよ。……自殺動画がよくあると言ったよね? この手の動画は需要があってね、オカルトマニアの中では本物の霊が写っているかもしれないからって高額で動画を買い取る人もいるぐらいなんだ。だからね、心霊系漁ってるとよくお目にかかるんだよ。本物か偽物かはわからないけどね。その時にね、こんなプールの飛び込みのように前かがみになって飛び降りる人はほぼ見たことがない」

 つまり、それは貝津善旭の死が自殺ではないことを示唆している。

「これって……。福太郎、もっとデカい画面で見た方がよくないか?」

「え、まあ、そうだね。なにか気になったことでも?」

「この、前かがみになる前、ちょっと頬が動いてるだろ? 何か言ってないか聞こえないか?」

「さすがにそれは……、まあ、ちょっと繋いでみるか」

 そう言って、福太郎は自分の携帯を真智の部屋にあるモニターに繋ぐ。

「だめだ、風の音しか聞こえないね」

「微かにも声が入ってないのかよ」

「でも、待って、この手。フェンスを握ってない手。手を広げてこっちに来るなって言ってるみたいじゃない?」

「く、る、な。あ、頬が揺れてる動きもそれに近いな」

「でも、正解なんてわかんないよ。あくまで僕の見立だし。それで何がわかんの?」

「貝津善旭がこの撮影者を認識していかどうがわかる。この時点で、こいつらは二人で屋上に上った可能性が高いってことだろ?」

「なんのために? 一緒に自殺するために?」

「めっちゃ一人じゃん。柵を越えた時点で流石にそれは気づけるだろ」

「じゃあ、呼びだれたんじゃない? この撮影者に」

「なんで? 貝津善旭の方から呼んだ可能性も高いだろ」

「わざわざ先生側が屋上呼び出す必要ないでしょ。教室だって、部屋だっていくらでも伝えれるし、見ろよ。この風の強さ。明らかに話し合いに向かない場所に先生が呼び出すわけないでしょ」

 確かにそうだ。

 風の音はすさまじく、スピーカーからは轟々と鳴る音しか聞こえない。

「……となると、柵を越えなきゃいけない理由がいるな」

 貝津善旭は自ら進んでここに来たわけではなく、たれかに誘導されて屋上にいる。柵を越えたのも同じだ。自ら進んで柵の向こうに足を出したとは到底思えない。

「逆にここで自殺を促したとか、ほら箱壷君が脅したのここだったかないかな?」

「ないだろ。箱壷は地面側で貝津が落ちるところを見ているし、お前も言ってたこの風でどう脅すんだよ。大声でも張り上げて親にいいつけるって言ってんのんか? 面白すぎだろ」

「そっちの方が動画に残したいね」

「少なくとも、ここには話し合いで来たわけじゃないってこだな。それ以外に屋上に呼び出す理由ってなにかあるか?」

「古来じゃ喧嘩とかで呼び出していたって古い文献には書かれてたよ」

「昔の少年漫画だろ。なにが文献だよ。でも、今の時代にそんなことで呼び出さないだろ」

「それ以外に屋上ってなんか用ある? 本当に自殺したいやつか突き落としたいやつしかこないでしょ。こんな風の日なんて」

「でも突き落とされた様子はないな」

「一旦停止してなにしてんだか。幽霊でもいた?」

「はは、いいね。動画で解説したら見るやつも数増えるんじゃない?」

「面白い程増えないね。そもそもが、幽霊のおもしろエピソードを拾うお前のトークが面白くないもん。……いや、ちょっと待て」

「あ? なんだよ。謝罪か?」

「バカ野郎。僕はなにも間違ってないに決まってんだろ。違う。先生の動き。何で前かがみになってるのか、わかったかも。先生、もしかして柵の向こうになにかを拾いにいったんじゃない? だとすると、こうやって前かがみになるじゃん」

 そう言って、福太郎が先生の真似をする。

 確かにそれにはなにかを拾うポーズだ。

「足元。足元だっ! 何か映ってないか探せっ!」

「真智、これっ。ここっ! ちょっとしか映ってないけど、なんか先生の足元に写ってない? 白いの」

「なんだこれ、ゴミか?」

 画像に撮って拡大するも、どうも元の画像が荒くてなにかはわからない。

 しかもそれは貝津善旭の体に隠れているために、中々映ってくれないのだ。

「ゴミにしては大きすぎない? 片手に乗るサイズだよ。何かのボールかな? でも、綺麗な丸じゃないし……」

 手のひらサイズの白くて丸に近い形をしたなにか。

「……違う。ボールじゃない。これは、白いウサギのぬいぐるみがついた、キーホルダー」

「言われてみれは、確かに耳っぽいのもあるか……。よく気付いたね、真智。でも、白いウサギなんて……、あれ。ちょっと待てよ。これって……」

 二人はこれをつい先ほど見ているのだ。

「そうだよ。箱壷和樹と夏目虹華か交際中にカバンにつけてた白いウサギのキーホルダーだ」

 間違いない。

 二人は別れたからカバンからこのキーホルダーを外したんじゃない。つけられなくなったから別れたのだ。

「となると……、この動画を撮っているのは夏目虹華か」

「待て待て。それって、彼女が自殺動画撮って彼氏が飛び降りた瞬間に写真撮ってたてこと? そんな偶然ある?」

「ないだろうな。福太郎、これ最後まで見ると、白いのがなくなってる。でも、柵に隠れてあまり見えない貝津善旭の右手を見てくれ。凝視すると、微かに白い色が写ってないか?」

「このキーホルダーを取るために、先生は柵を越えて身を乗り出した。でも、その時風が強くてバランスを崩しそのまま下に……真智、これ自殺じゃないよ」

「ああ。これは間違いなく事故だ」

 貝津善旭の死は、自殺じゃない。このぬいぐみを拾うために事故で亡くなったというわけだ。

「これって、殺されたとかじゃなのか?」

「え? なんで?」

「あのぬいぐるみ、何で柵の向こう側にあったと思う? あんな場所にどう落とすんだよ。彼氏との思い出の品を。そうなると、これはどう考えても事故だけど、故意だろ? この場合はどうなるんだ?」

「さあ? 僕はオカルトにはやや詳しい方だけど日本の法律にはあまり詳しくないんだ。ま、今さらわかったところでこの場合、虹華ちゃんの方が故意じゃなくて友達とふざけて遊んでいたら柵から出ちゃって先生に頼んで取ってもらったら勝手に落ちて行った。びっくりした。って言われたらもう証拠もないけど否定も出来ないから終わりでしょ」

「確かにそうだな。けど、これでわかったな。箱壷が俺に頑なに嘘をつき続ける理由も、夏目虹華の怯えていた理由も。自分がやらかしてたから顔色が悪くなったってわけだ。はっ。何が正義感が強い二人だよ。ただの人殺しじゃねぇか」

「子供って時に残酷だからね。確かにこの二人が別れるのも納得するよ。これは気まずいどころの話じゃない。あー……。見てよ、真智。このぬいぐるみ、これだけの風なのに全然動いてない。多分これ、下にテープとか接着剤で固定されてると思う。いやー。悪質だね。これで死ぬと思ってないとかやばくない?」

「うわぁ……」

「悪質だね。子供だからって言ってもさ。でも、そうなるとまだ謎は残ったままじゃない?」

「ん?」

「なに忘れた顔してんの。僕たちが探してるのは先生の死の真相じゃなくて、顔のない写真を貼って箱壷君を呪った人物を探すことだろ?」

 福太郎のあまりの正論、思わず真智の口が大きく開いた。

「あ、忘れてた。でも、これさ、オプションで稼ぐよりただただこれで脅して金巻き上げて方が頭いいだろ。もう呪いなんてどこにもないし、自業自得じゃん」

 どうやら、呪いのことは完全に忘れてしまったらしい。確かに、そよりも人の自殺が自殺ではないと言うショッキングな出来事に意識は行きがちになってしまうのは仕方がないことだが、だとしてもこれは酷い話だ。

「脅しになんないでしょ。だから勘違い偶然を主張されてもこっちはそれを覆すこと出来ないんたからさ。逆にお前が詐欺で訴えられて終わるだけじゃん。バカだし愚かだね」

「うっせ。でも、もう調べようがないんじゃないか? これでわかったのは、あれの呪いは自作自演じゃないってことぐらいだろ。流石に共犯の女の写真入れとく度胸もないだろうしな」

「そうだね。そもそも、なんで虹華ちゃんを選んだのかな? これ写真の女たちみいに苦しむって呪いなのに、少なくとも虹華ちゃんはは出産を控えていて不幸には思えない。旦那さんはアレな感じだったりするの?」

「なんだよ、アレって。普通にいい人そうだったよ。世話焼きで話好き。家事だって手伝ってたし、自分の子供が生まれるのに結構意欲的だった。ネットでよく見る自分の子供が生まれるのに実感がさそうな父親とは対照的だったよ」

「まあ、それが幸せなのかはわかんないけど、とりあえず不幸とは思えないね」

「そりゃそうだ。だって、この呪いは女たちに対しての呪いじゃないんだろ? 夏目虹華が不幸になる道理も理由もないし、そんな呪いの効果自体が最初からない。不幸にならなきゃいけないのは、箱壷だろ。福太郎が何回も言ってることじゃないか」

「そういう意味では、この呪いは達成できてるってことかな? お前なんかみたいな詐欺師に金巻き上げて、自分たちが死なせてしまった先生の影に怯えて、本当のとこが言えず嘘だけを重ね、この呪いで誰かから恨まれながら自分は暮らしているんだと知り、その女たちの死が自分の過去の過ちにリンクしてるんじゃないかと震えてる……。あ、でも彼は蛍ちゃんのことしか知らないのか」

「不幸かどうかは大分怪しいけどな。実害が今んところ俺しかないわけだし」

 あの長文メッセージを思い出しながら、真智は深くため息を吐く。

「でも、少なくとも幸せな気持ちにはなれないでしょ?」

「なんてか、アホみたいな話だよな。まどろっこしすぎるんだよ。コストがかかり過ぎてんのに、そんなに効果がないとか……、いや、呪いなんてないから全然ないじゃん。現に今まで箱壷は不幸になってなかったじゃん。今、偶然女の一人が殺されて騒いでるたけで関連ないんてないし、他の女たちだってそう。そもそも、一番効果あるのは夏目虹華の顔つき写真ベッドに貼った方が早いだろ。ま、一番早いのは寝てる時に顔面思いっきり殴るのだろうけど。なんたって、部屋に入れるんだからそれぐらい出来るだろ」

「ま、呪いなんて神頼みみたいなもんだしね」

「ああ、神頼み。確かにそれが一番しっくりくるわ。他人まかせにし過ぎだよな。あわよくば、不幸になれはいい的な。だから俺はこれを女関係だと思ったんだよ」

「あわよくば不幸になって欲しいって、どの位置なら考えられるかな。やっぱり彼女とかが一番だよね」

「そうだな。ま、この呪いと貝津善旭の死に繋がりはないんだろうな。犯人は二人の関係を知らずに顔切り取ってるけだし」

「そうだね。そもそも、先生はこんな嫌がらせされるぐらい嫌われていたわけだろ? 箱壷君の学校関係者はないんじゃないの?」

「……学校、関係者?」

「やっぱり家族が怪しくない? この動画がことの発端の可能性は高いよ。検索で上の方に出てくるってことは、かなり見られている動画ってことだし、家族が見ててもおかしくない。真智でさえ先生だと気づけたなら、家族なんてもっとすぐにわかるんじゃない? それこそ、サムネイルとかでさ。家族は箱壷君に会った事あるんだよね? 先生の葬式に現れたんだろ? 彼、顔が割れてるってこじゃないか」

「……違う。福太郎、違う。箱壷じゃないっ」

 真智が立ち上がった。

 そう、そもそも真智が思っていた前提が違うのだ。

 箱壷の罪の意識は自責の念ではなく、本当に自分が手を下していたこと。彼女と協力し、先生を落として動画を取ろうとしていてたこと。

 そして、箱壷はそれら全てを真智に隠して、嘘をついていたこと、だ。

「福太郎、自分の過ちを隠す卑怯者が被害者の家に行くと思うか? 好青年だと思ってたけど、あいつはただの卑怯者だよ。見知らずの俺にさえ救って欲しいくせに自分が責められたくなくて噓をつく。そんな奴は、絶対に葬儀にいくわけがない」

「え、でも、いたんだろ?」

「ああ、背の高い制服を着た生徒がな」

「そんな曖昧な。いまから背の高い奴探そうって? 流石に僕でもそれは無理だよ」

「いや、もう誰かわかってる。他にもいるんだよ、背が高い奴が。そいつは、ずっと貝津善旭のことを先生と呼び、知らないと言うわりには多くを知っていた。そして、箱壷が先生が呪いをかけていると行った時、微妙な顔してた。決意したみたいな……」

 真智は思い出す。

 今回の騒動の流れを静かに、一人だけで。

 先生は自殺ではなく、依頼者と虹華によって故意に事故を引き起こされてて死んだがそれを知る人はいない。

 しかし、死んだ時点では自殺として扱われているが、動画が残っている。

 先生は生徒に嫌われていたが、全ての生徒に嫌われていたわけではない。

 しかし、誰がそうだったかはわからない。

 先生の葬式には背の高い男子が現れて涙を流した。

 しかし、それは一人だけ。

 先生の飛び降りる姿は動画になって沢山出回っている。誰が見てもおかしくない。

 しかし、それは一年前から。

 写真の呪いは写真の人物が不幸になれば成程、呪った相手が不幸になる。

 もしあの写真に自分が不幸に出来る人間がはいっていたら?

 例えば、自分が知っている罪を、夫にばらしてどん底になる女がいたら?

 最後に依頼者の部屋に簡単には入れるぐらい親しい間柄。

 そして、彼の良さと努力を知りつつもあわよくば、不幸になればいいのに思わざる得ない関係。

 例えば、それは先生に救われていた『誰か』の一番の願い事だったんじゃないだろうか。

「福太郎、ちょっと俺出かけてくるっ!」

「え? ちょっ! 真智っ!? 何処行くんだよっ!」

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