第10話
「無視して帰ればよかった……」
後悔の果てのような声を出しながら夜の家事を終えて真智は自室に戻る。
家事中に絶え間なく震える携帯を見ることは既に彼にとっては恐怖でしかなかった。
あの後、なんとか口に運んだ軽食の味を思い出すことが出来ないぐらには苦痛な時間であった。
真智は自室につくと、ペンと紙を手に取る。
事態は真智の望んでいない方向へとシフトしていっている。
真智が一番嫌いで、一番嫌な楽とは真逆、複雑な悩みが名前を持ってで出来たてまったように。
「ちょっとまとめるか……」
デジタル時代。ちょっとしたメモでも重要なノートでも、いまはパソコンや携帯、タブレットで済ましてしまう時代に真智は一人薄暗い部屋でペンを取る。
どれだけ時代が進んでも、自分の手で文字をかくことによって頭が整理されていく人間だっているだろう。
それが真智なのである。
まず、今回の呪いとは『まったくの別案件』で、依頼者である箱壷は自身が呪われていると高校生のころから思っていた。
その別案件とは。
・担任教師の飛び降り自殺場面を偶然撮影してしまったこと
から始まる。
高校一年生の冬。今から大体、五年ほど前ぐらいに彼は当時担任だった男性教師の自殺場面に遭遇してしまった。そして、たまたま撮っていた携帯の画面に、その飛び降りる様子が残っていたらしい。
話聞くだけでは、随分とショッキングだ。
なんならトラウマだって植え付けられていてもおかしくはない。まだ、高校生という子供時代にそんなことがおこったら誰でもそうなる。
だが、話はこれだけではなかった。
なんとこの担任の自殺に、箱壷は深く関わっていたのだ。
当時彼が付き合っていた彼女や他のクラスメイト達にセクハラ紛いのことや自分の意見に従わない生徒を叩いたり、怒鳴ったり、独断と偏見でなんの公平さもなくモノを取り上げたり、その取り上げたものを勝手にネットオークションに流して売っていたり、やりたい放題の先生だったらしい。
生徒を叩く当たりはの話は昔の先生ではよく聞くが、生徒のものを勝手に売ったりするのは流石に昔でもアウトの領域である。そんな先生が五年も前とは言え、割と最近まで存在していたことに真智は驚きを覚えてしまう。
しかし、そんな自分勝手な先生何故自殺などする必要があるのか。
そこまで図太く生き残れているのなら、最早怖いものはないんじゃないか? テレビで見かける学校自体が隠ぺいに走っているのでは?
そう真智は思っていたのたが、箱壷の一言でその考えはひっくり返った。
『ボク、あの日。先生が自殺する日の朝、先生に直接抗議しにいったんです。勝手にものを取り上げられたら困るって。学校には様々な家庭環境の子がいるのに、それを配慮せずに一律なんておかしいと。ボクはクラス委員ただったのでクラスのみんなが困っている現状を打破するために立ち上がったんです。けど、ボクの声は届きませんでした。先生はボクがなにを言っても鼻で笑うだけで真剣には取り合ってくれなかったんです。だからボク、自分でもよくないことはわかってるんですが……、両親の名前を出したんです』
そう箱壷は続けた。
普通であればたかが一生徒の親に告げ口されたところでなにが問題かと言いたいが、少し前に地域新聞にも取り上げられていたが、彼のご両親が経営している聖協病院の社会貢献として市内の様々な学校に寄付やら協力やらを起こっているのだ。息子の学校だけスルーということはないだろう。聖協病院は恐らく可愛い息子の学校には多額の寄付を行っているはずである。
そんな学校を支える偉大なる保護者様に問題がバレるのは学校側にとっては大変な痛手だろう。
そして、正しい行為の脅しでもある。
あの日、彼が先生を脅すようなことをしなければ、自殺なんてなかったのではないだろうか。
そう思えるほどの脅威はそこにはあった。
『先生は、地面にあたる瞬間、ボクの方を見て何か言ったんです。それはボクの耳に確かに届きました。先生は死ぬ直前、砕ける直前にこう言ったんです』
・死ぬ直前に『死ね』と呪いの言葉を吐かれた。
そうメモに書き込んで、真智は少しだけ考えるとまたメモに書き足した。
・四、五年後呪いが降りかかる。
箱壷が感じた呪いは、全てこの一年に起こったことだった。
彼自体、あの不思議な顔なし写真だって、この自殺した先生の呪いじゃないかと思っているらしい。
いやいや、待て待て。高校生の頃だぞ? 四、五年前の呪いが今? どんだけのんびりした呪いだよ。と、真智はペンを置く。
しかもその後、『貴方は霊能力者だから先生の怒っている霊がみえますよねっ!?』と、店内だと言うのに大声て詰め寄られさになうんざりしてしまう。思わず、『んなものいるわけがないし、見えるかボケっ!』と大声をこちらも負けじと張り上げたかったが、流石に自分がややインチキ霊媒師であると自覚があるため、そんな否定が真智にできるわけがない。そんなことがすればすぐにネットに晒されて瞬く間にややインチキ霊媒師から世間のサンドバックに職を変えることになってしまう。そんなことは御免だ。
だから苦渋の選択として、真智は引きつく笑顔でこういうしかなかった。
『先生のことも調べますから』
と。
しかし、これは悪くない提案である。なんたって、先生ではなくてご家族の方が彼に呪いを仕込んだ可能性もゼロではないのだから。
トントン、トントン。
とりあえず箱壷から得た先生の情報をメモに書きだすかと、再度ペンを真智が手に持つと背後のドアが叩かれた。
この部屋まで真智を訪ねてくるのはここに住むのは姪っ子ぐらいなのだが、時計の針は十時に近い場所を指している。彼女はまだ起きているかもしれない時間だが、こんな夜中に蝋燭の明かりしか便りがない本堂を通ってこの離れにくるにはまだ度胸と勇気が入りない歳である。
では、誰が?
机の下に隠してある斧に、真智は手を伸ばす。
まさか……。
「真智、生きてるか? それともいないだけ?」
構えようとした瞬間に、扉の向こうから福太郎の声が聞こえてきた。
「なんだよ、福太郎かよ」
真智は何事もなかったように、扉を更けて福太郎を部屋の中に促した。
「あ、生きてたね」
「勝手に殺すなよ。来るなら事前に携帯に連絡入れろ。こんな時間にドア叩かれるなんてめっちゃビビったわ」
「ドアトントンってお化けの話、昔はやったよねー。学校で禁止になるぐらいに」
「世間話やめて反省しろよ」
「お前がしな? こっちはどれだけ携帯に連絡入れたと思ってるのさ」
「は? お前から連絡なんて……」
と真智が言いかけて、ピタリと止まる。
そう言えば携帯を見ていなかったことを思い出したからだ。
「うわ、こんなに着信あるきてるじゃん」
取り出した携帯の待ち受け画面には福太郎の着信ばかりだ。
「全然でないからな。マジで死んだのかと思ってたよ」
「あー。悪かったな。ちょっと依頼者とトラブってさ」
「お? ついに殴った? また殺した?」
ニヤニヤと笑う福太郎の顔に、真智が心底嫌悪した顔を向ける。
「お前のそういうところがマジで嫌だよ。発想がいつでもどこでも気持ち悪い。これだから不良は」
「だってトラブルって、そういうことだろ? もしかして、依頼はなくなった感じ?」
「逆。もう面倒くささが勝って終わろうとしたら、余計に複雑になった感じ」
「金に目を光らせていた真智が珍しい。大金はどうでも良くなったわけ?」
「それよりも煩わしさが勝っただけだ。今日のメッセージのやり取り見て見ろ。福太郎でも同じ気持ちになるって」
そう言って、真智は自分の携帯に件のメッセージを表示すると、福太郎に投げ渡した。
「これは中々……、依頼人の彼は小説家なの? 後からこんなドラマティックに自分の夢の内容を他人に語れる人早々いないよ?」
「小説家ならまだよかったんだけどな。俺以外の奴にもこの苦痛を味合わせれるからな。俺は途中でギブアップした」
「女の顔が眼鏡のおじさんに変るところまででボクもギブアップかな。いやあ、お前が匙を投げたくなったの、なんとなくわかるわ」
「最初は金のために我慢だって気持ちの方が勝ったんだよ。けど、この小説と今日会う流れになった時、無理ってなった」
「この大雨の中会いに行ったのか? はは、狂気の沙汰じゃないか。素晴らしい」
「本当だよ……」
そもそも会いに行く時点で間違いだったのだ。経過報告含む結論をメッセージで届ければこんなことにはならなかったと言うのに。
「でも、依頼は続行? 本当になにがあったんだよ」
「新しい呪いがで出来た」
「凄い。呪いのデパートじゃないか。人間生涯にきっちりとした呪いを受けるなんて早々ないよ?」
「俺もそう思う。有名人とかは有り得そうだけど、流石にあのボンボンにはそこまでの恨みなんて早々みんな湧かないだろな」
「なに? そんなにいい奴だった?」
「まあ、そういう分類なタイプ」
「はっきりしねぇー。ま、いいけど。依頼が続いてるなら一つ朗報を持ってきたよ」
「ん? あ、そうだよ。福太郎、お前なにしに来たんだ?」
「電話に出ない奴がいるから直接言いに来たんだよ。一木蜜柑ちゃんの情報が手に入った」
写真の一人である一木蜜柑の?
「お前、本当にそういう趣味じゃないよな?」
何故そんなにも簡単に情報が手に入るのか。昨日の今日だぞ? 一気に怪しくなってくるじゃないか。と、真智は唯一の友達に疑った視線を送った。
「失礼な奴だな。そんなわけないだろ。それに彼女、女子高生じゃないよ」
「何歳で死んだかもわかったってことか?」
「ああ。うちの顧客だった」
「え?」
これには真智も予想外で思わず声が出た。
まさか、あの写真の一人がこんなにも近くにいたなんて。
「ま、正確に言えば顧客だったのは彼女じゃない。妹の方がうちの店で自転車を買って修理やらの保険にも入ってくれてる。家は商店街の神社の道の坂の上らへん。市役所の近くの高校に通ってて、毎日うちの店の前を通るから顔を覚えてたんだ。何回か実際修理にも来てくれたしね」
「家、近いな」
彼女の家らへんなら、総合病院からの距離も近い。
「ああ。今日、彼女と同級生の子がパンクの修理に来たから話を聞いてみたんだ。姉の蜜柑ちゃんは三か月前に病気で亡くなっているらしい」
「病気?」
「持病があったそうだよ。元々身体も強い方ではなかったんが、高校を卒業してすぐに持病が悪化して、そこから二年も立たずに旅立たれたって。彼女、自転車乗らなかったそうだからボクとは直接会ってないんだけど、妹の、名前は林檎ちゃんって言うんだけどね、林檎ちゃんが蜜柑ちゃんにそっくりなんだよね」
「ふーん。つまり、一木蜜柑卒業写真は二年前に撮られていて、張られたいたのもそれ以降ってことだな。西木野蛍よりは時間は狭めれけど、微妙だな」
「そうだね。で、お前の方の呪いの話はどうだったんだ?」
「俺の方は、正直呪いかはわからん。ただ、ちょっと今回の呪いに関係しているかもしれない。それぐらいの話だった」
「いいね。面白そうじゃないの。聞かせてくれよ」
なんでこいつはいつも偉そうなのかと真智は思いながらも、箱壷が真智に縋った時に吐いた先生の自殺の話を福太郎に伝えた。
「飛び降り自殺で呪いとは、これまたなんていうか、特殊だね」
「いや、俺的にはこれは呪い判定をしていいのか悩みどころだぞ? ただの恨み言じゃないか? これ」
「ボクも同意見。だって依頼者のせいで自殺したんでしょ? だったら、死ねぐらい言うでしょ」
「わかる。逆に目の前いるのに言わん通りがない」
「それそれ」
こうはなりたくない大人たち代表である。
「それにしても彼、中々の策士じゃないか。どう見ても写真よりもこっちの方が本命に見えるし自分に霊がついてると言えば、そりゃインチキ霊媒師には断れないもんね」
「腹の立つ笑顔やめろ」
しかし、福太郎の言うこともあながち間違っていない。
顔のない写真よりも、依頼者の反応を見ればこちらが本命なのは明確である。一瞬、顔のない写真は依頼者自身が仕込んだ所謂自演自作だったのではないかと疑ってしまったぐらいだ。
しかし、そんなことをしても今回に限っては無意味だ。金と時間の無駄だと言ってもいい。なにも知らない真智に一段かませる必要はどこにもないのだから。
「でも、自殺した今日は確かに気になるね」
「幽霊になってるってか?」
「まさか。そういうのはたいていの場合場所につくもんで個人にはつかないよ。それに、この世に幽霊なんているわけないしね。いつの時代も一番怖いのは人だよ、人。自分のせいで人が死んだのに能天気に除霊かまそうとしてるそのガキにボクは恐怖を覚えるね」
「その能天気が金を降らしてくれるんだ。言うほど悪くない。取り合えず、その先生の家族に会ってみるよ。明日ぐらいにはアポ取って」
「まあ、その先生のご家族が犯人って線が今のところ一番濃厚だしね。悪い手ではないと思うよ」
「なんだよ、偉そうに」
「え? ボク間違ったこと言った? お前も同じこと思ってただろ?」
「まあ、そうだけど」
「それにボクはまだお前にえらそうにして理由がもう一つある」
「なに? ついに剥げてきたからやさしくしろってか?」
「バカなことを言うなよ、天パー。そんなぐたらない理由じゃない。昨日ネットに顔のない女性の写真を使う呪いを聞いてみるって言ってただけろ?」
「え? そっちももう見つかったのか? 早くないか?」
まさか、こんなに立て続けに答えが出るとは。
「いや、流石にそれは早とちりすぎる。けど、非常に似ている呪いの儀式を知っている人はいた。それが流行ったのは懐かしい二つ折りの携帯が主流だった時」
「そんな時代もあったな」
「やり方は今もサイトにあるよ。その時代に、こんな呪いが流行ったらしいよ。呪いたい相手の携帯の電池カバーの裏にプリクラを貼るんだけどね、そのプリクラには顔を塗りつぶした不幸そうな『生贄』を写すんだって。生贄は不幸であれば不幸なほどいいらしい。で、その生贄とプリクラとって顔を黒く塗りつぶしてやつを最大五枚貼れるんだってさ。そのプリクラと長い時間近くにあればあるほどその生贄たちに起きた不幸を背負うことになるっていうやつ。六人以上貼ったり、その生贄よりも呪いたい人の方が先に不幸になっちゃうとその不幸は呪いをした本人に返ってくるんだか」
「なんだか、随分と安っぽいな。まだ朝のテレビで流れてる星座占いの方が期待度が高いだろ、それ」
「安っぽいから流行ったんだよ。あの頃、プリクラなんて誰でも取ってたし、カバー裏にプリクラ貼ってる女子とか腐るほどいたじゃん。呪いのコストが高過ぎたら流行るなんてしないよ。出来る人が限られちゃうからね」
確かにそれはそうだ。
「でも、似てるとは言っても、顔を切り取られると黒に塗りつぶされるはまた違くないか?」
「そこはボクもそう思う。けど、それ以外は似てない? 何故犯人が五枚も写真を用意したのか。一、二枚ではだめだったのか。この呪いを参考にしたとも考えられる」
「それがわかってどうするんだよ」
「犯人の年齢が大体だけどわかる。この呪いが流行ったのは、ボクたちよりも少し下の世代だろ。でも、若い子には馴染みがない。携帯とプリクラ自体にね。依頼者の子は二十一ぐらいだっけ? そこら辺だと、高校生の時に二つ折りではなくスマホじゃないか?」
「つまり、箱壷の同世代が犯人から外れるってこと?」
「確率の話になっちゃうけど、そうだね。でも、この呪い方だって、一日ネットで都市伝説系のサイトを漁っていれば見つかるぐらいのものだから、万能さはあまりないかも。ほら、見て見てよ。同じサイト内でこんなのも載ってるよ。これなんて今の時代に殺された人の魂を人形に下ろすやり方だって。殺した人間と殺された人間の家族の血を浸した神霊な人形につけておくって最初から無茶苦茶。こんなレベルの呪いなんて沢山あるわけ」
そう言って、福太郎の携帯を見れば、沈のお香を焚きしみ込ませて、風があたらない清潔な場所で人形が話すまで「砒霜、苺、ハコベ、藤、サイカチ、ムワゲ」と両者が唱えること。唱えられない場合は顔に書く。と書かれていた。確かにこれは酷い。そもそも無理なことが前提で書かれているんだなっと呆れてしまう。
そもそも呪い事態があやふやなのだから仕方がない。
また一歩オプション回収に近づいたのかと思ったと言うのに。
どうもそこまでは上手くいってくれないらしい。
だが、昨日のなにもなかったところから考えれば、今日一日の収穫は確かなものだ。
「そうだ、犯人で思い出したけど、西木野さんを刺した犯人捕まったって。ニュース観た?」
「はぁ!? 知らねぇっ」
それはそれうだ。門限ギリギリまで箱壷に捕まっており、急いで帰ってきて夕飯の支度に洗濯物の片づけ、風呂の準備に夜のお経の準備とそれこそ一休みは愚か、テレビを見る暇すらなかったのだ。
「そうだと思った」
「だったら、犯人がわかったてことじゃないか? 捕まった奴が今回の犯人だろ」
「バカ言え」
呆れた口調で福太郎がため息をついて、自分の携帯の画面を真智に見せる。
「七十、三歳?」
福太郎の見せてくれた携帯の画面には見出しに犯人は七十三歳とデカデカと書かれている。写真も、それ相応の老人が写っていた。動機は彼女がATМ機でおろした二万を奪おうとして、自分は足が遅いため刺したと供述……。
「犯人だと思う?」
流石にこれは……。
「七十三歳の爺がわざわざこっちに来て、依頼人のベッドの下に忍び込んで写真を貼るぐらいなら、間違いなくあいつの貯金通帳やら財布を奪って逃げるって。マジで犯人じゃないじゃん」
となると、矢張り。
「不幸の呪い」
この言葉を無視はできなくなる。
写真の女性はあきらかに不幸になっているのだから。
「お前も諦め悪いね。呪いなんてないって。そんで、何度も言ってるけど不幸になるのは彼女たちじゃない。同じぐらいに写真を貼られた人間が不幸にならなきゃ意味ないんだって。しっかりしなよ、真智」
福太郎の言葉は真理だ。確かに人が死んだ、不幸が訪れるなど呪いっぽいことこの上ないが、一番注目しなければならないのは『誰が呪いで不幸になるか』だ。何度も言うが写真の女たちじゃない。
「偶然だったら、呪いを行った犯人は大喜びだろうよ。これ以上の不幸なんて早々ないしね」
「確かに。こいつが犯人じゃないとすると、やっぱり先生の家族が今のところぶっちぎりで犯人候補一位だな」
「そうだね」
「早めに言った方が、しっぽを出しやすいとかあると思うか?」
「どうだろう? いつもよりウキウキしてるとかならあるんじゃない? だけど、知らない人ならそんな些細な変化なんてわからないと思うんだよね。名前ってわかってるんだっけ?」
「貝津って名字」
「聞いたことないな……」
「とりあえず、電話番号はわかったから電話してみるわ。あ、この記事、テレビニュースの動画もあるのかよ」
福太郎のスマホで勝手に動画再生させて真智は、動いている七十三歳の老人を観る。
「動いてる姿は如何? 呪いとかやりそう?」
「七十三歳で人を呪いたいぐらい憎んでるなら、そいつを殺すだろ。今だって、二万を手にいれるために人を殺してる。遠回りが効く年齢じゃいなだろ?」
「確かに」
かと言って、本当に人を殺していいわけでもない。彼はこれからの残り短い人生で遠回りをせずどこに走り出すのか。
そう思っていると、動画が犯人から若い女性の写真に変る。楽しそうにイルミネーションのウサギと写真に写っている女性が、西木野蛍である。
そして、彼女の友達と言う女性に場面が変わる。
『ニッシー(西木野さん)は、本当にいい子で、最近では〇〇にはまったと連絡をくれたばりだったのに』
と、被害者と高校の時の同級生とテロップが出ている女性は悲しんでいる様子をみせた。
『ニッシーは闘病生活が長くて、最近やっと退院したばかりで……』
泣く女性の後ろに、真智がなにかに気付いた。
「ん?」
「なに? 突然」
どうやら、福太郎は気づいていないらしい。
「この友達の後ろに映っている場所ってさ、近所の商店街じゃね?」
真智が指を指すと、福太郎は驚きの声をあげた。
「本当だ。こっちは角のコロッケ屋じゃないか」
どれだけ身近な場所だって、意識していなければ気付かないこともある。まさか、東京で殺された女性の友達が地元にいるだなんて、思いもしないだろう。
「……なあ、もしかてだけど、西木野蛍の出身地もここ?」
同級生の女性は東京ではなく、ここにいるのだから。
「待ってくれ、真智。蜜柑ちゃんもここで生まれ育ってる」
「それを言うなら、依頼者だってだ。しかも、ここら辺で一番デカい総合病院の次男坊だぞ」
真智と福太郎が目を合わせる。
「まさか本当に、全員に共通点があるのか……?」
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