第34話 要塞都市


 約一ヶ月後、

 口紅の制作は難航していた。

 もっと発色いいのをつくりたいだの、瑞々しくないだのと、文句ばっかりだ。

「だぁ、今日は終わりだ」

「そうね、なにかいい案が浮かぶかもしれないしね」

 俺たちはその後ドライヤーの作業をしてから寝る。


 塩漬け依頼もだいぶ減ってきたな。

「今日はこの大王熊っすかねー」

 エルルもいつものようにいる。

 だいぶレベル酔いは軽減してきたみたいだな。

「それじゃあついてこいよ!」

「うっす」

 森の中を疾走してもなんとか着いてきている。

 大王熊はそんなにデカくない、と言っても五メートルほどあるがな。

「最初っから全開っす」

 斧を振り下ろすと“ガイン”と言う音で弾かれたのがわかる。

「くっそ!まだかよ!」

「まぁ、焦るなよ」

 と、ヨシキがクリスタルソードを使って大王熊を斬り倒す。

「ゔー、レベル酔いが」

「失神しなくなっただけマシだろ」

「それは言わないで欲しいっす」

「「あははは」」

 1日に二件はやっているのでそろそろ無くなってもおかしくないんだがな。

 ギルドに帰って査定待ちの間に口紅のことを話す。

「ぷるんとした口紅ってどういうことだよ?」

「瑞々しい唇ってことじゃないですか?」

「薬草でも後で探しにいくか?」

「そうですねぇ」

「なにを探してるんですか?」

 エルルが聞いてくる。

「艶が出るものを探してるんだよ」

「ツヤだったらキノコはどうですか?ぬるっとしたキノコとか?」

「「あっ!」」

「ダメでした?」

「いや!いいよ!良かった!多分行ける」

「キノコは盲点でしたね」


 俺たちはキノコを探しにバザーに来ていた。いろんなキノコを買って試していく。

 錬金術は試行錯誤なんだよ!探して回るのが楽しいんだ。

「できた!これに色が加わればいいだろ!」

 帰った来たミイナに合格をもらうと今度は入れ物を作れと言われた。

 勘弁してくれよ!


 だが入れ物は比較的簡単だ。スティックのりのパターンだろ?和也に丸投げして俺は寝ることにした。


 リップスティックの完成!

「やったわね!ようやく売りに出せるわ!」

「よかったな。材料も比較的安いから手に入りやすいし」

「高く売るわよ?当たり前でしょ?」

「おおう。守銭奴だ」

「ちがうの!もう半年くらいここにいるでしょ!その時間も込みよ」

「あー。もう半年もいるのか」

「時間過ぎるのあっという間だな」

「そろそろ旅に戻るか」

 塩漬け依頼も粗方終わってしまい、エルルもレベルが上がって、この前ついにSランクになった。

 ということは?自分のステータスを見てみたら18歳はとっくになっていて、もうすぐ19歳だ。あと一年ちょっとかぁ、できるだけ旅をしよう。


「じゃあ、頑張れよエルル!」

「ばい!ありがどうございまじだ」

「泣くなよ!じゃあな!」

 パカラパカラと馬も久しぶりの旅で嬉しそうだ。


 こんなに旅が楽しいなんて思ってなかったから余計に嬉しい。次の目標は北の要塞都市ゴーウェンだ。



  ♦︎



「エルル良かったのか?一緒に行かなくて」

「おう!チフユさんにはレイナさんがついてるから俺なんて眼中にないしさ!」

「気持ちだけでも」

「伝えなくても伝わっていたと思うから」

 エルルは晴れ晴れした顔で塩漬け依頼を受け取ると走って行ってしまった。



  ♦︎



「どうどう!」

「どした?」

「道が塞がって通れないのよ!」

 みると大岩が道を塞いでいる。

「んじゃちょっとやろうかね!」

 ちょっと前に作った大剣を取り出して、思いっきり斬ると

『ギャアァァァァァ』

 と言う声がして大岩が暴れ回る。

『いったー!ふぅー、ふぅー!この野郎なにしゃがんでい!』

「いや、邪魔だから斬った」

『どいてくれといえばどいたるのに!』

「ならどいてくれ」

『いやじゃ!いきなり斬りつけられたんやから誠意を見せんかい!』

「やっぱり斬るか」

『待て待て!なんて野蛮なやつなんや!どいたるからなんか飯をくれ、腹が減って動けなかったんや』

「堅パンでいいか?」

『なんや堅パンて?』

 一個渡してやるとボリボリ言いながら食っている!

『美味っ!これ美味い!』

「だろ!んじゃこんだけやるからよ」

 アイテムボックスに入っている堅パンを半分やると機嫌良くどいてくれた。


『ワシは岩竜じゃて、またな!変なやつ』

「チフユだ!岩竜またな!」

 岩竜と別れて前に進む。


 北に向かって進んでいるが一向に要塞都市が見えてこない。もう1月ほどかかっている。

「あ、あれじゃないかしら?」

「どれ!おお、あれじゃないか!」

「やっとだな」

 ほんとに要塞都市と呼ばれるくらいに立派な城壁だった。

 中に入ってみるとこれまた変わっていて、人間がほとんどいないようだな?

 獣人や岩人と呼ばれる人種が多いように見える。

 宿屋はハチワレ猫の撫でられ亭だ。

ここにも半年程いて一年かけてゆっくり帰るつもりだ。

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