第12話 レイナの思い


 私は祖父母に育てられた。

 両親は物後ごろつく頃には他界していた。

 祖父母は優しくて大好きだった。

「人には優しくしなさい、特に困ってる人には」と教えられてきた。

 が、小学校で一番汚い服で来る給食費も払ってないと言われている人を助けることもせず私はただ見ているだけだった。

 祖父母の言葉通りにしたいが私には何もできない。


 そんな時光が爆発した様な感覚がした。

 気がついた時にはどこか知らない場所にいた。

 私は思った。

 これは罰なんだと、祖父母のいうことを聞かなかったからだと…でも違った。


 ここはそんな生やさしいところではなかった。

 手に豆ができ潰れても剣を振り続けなければならずご飯も生臭いスープに硬いパンだけだった。牛乳がついていたのだがそれも臭かった。

 でもあの子は嬉しそうに食べている。


 そうか、あのこにとってはここが地獄じゃないんだと思えた。日本にいた頃の方が地獄だったんだと、だから神様が送ったんだと。


 私はそれから、地獄だと思わなくなった。

ここは、天国ではないがあの子にとっては地獄ではない。だから助けてあげられるんだと思った。


 5年の歳月は私達を少し大人にしていった。

 あの子はみるみる背が伸びガリガリだったのに細いががっしりとして端正な顔つきになっていった。


 ずっと見ていた私はこれが恋だとは思っていなかった。ただみているだけで、喋ったこともなかったからだ。


 一回だけ大丈夫?と、声をかけてもらった。剣を降りすぎて豆が潰れ剣を落としてしまった時だ。


『ありがとう』


 ただこの会話だけだったが自分の方が手の皮も何回も剥けて痛いはずなのに私に声をかけてくれたことを思うと心が痛い。


 あの子が出て行く時に私はつけていた。階段下であの子に「死なないで、約束」とだけ言った。もっと言いたかったけど私は口下手だから。


 魔王軍との壮絶な戦いの中死ぬわけにはいかなかった。私はあの子と約束したのだから。


 撤退する時も殿を務め、敵が襲ってきたら迷わず斬った。がすぐに引いて行った。

 何かがおかしいと思ったが引っ掛かる程度で今はそれどころじゃなかった。怪我人が多く出た。死の寸前まで行った子もいる。

 でも生きて帰ってきたらまた訓練だった。


 せっかく生きて帰って来れたのに訓練とレベル上げの毎日に辟易していた。


 あの子が帰ってきていたので会いに行った。そこで今度こそ魔王を倒すと約束した。


 だけどもう一度あの戦場に足を踏み入れるのかと思うと震えが止まらなかったが、行くしかないと思い向かう。

 空からドラゴンが降りてきてあの子が乗っている?

 あの子が言うことを聞いて納得した。

 とても許せないと思ったけど、あの子はどこか寂しそうだった。


 王城では勇者の天童君が女王の首を斬り、宰相はドラゴンのブレスで消えてなくなった。

 私たちを騙した罰だと思った。

 そしてやっと帰れると思ったらあの子が二十歳になるまでここにいないかと言った。


 私は考えた。

 もう祖父母も亡くなっているだろう。

 そうなら私はどうなるのだろう?

 昔のあの子の様になるのだろうか?

 それはなくとも、親戚に預けられることになるのは目に見えている。


 なら私も二十歳までここにいよう。


 千冬と一緒にいればなんだってできる気がする。


 

 私は千冬が好きなのだから。

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