227 『霧霞の平原』
久々の更新なので、最近の話の流れを簡単におさらいしたい方は以下へ。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093087339981390
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闇をくぐると、まるで世界が一変したかのように濃い霧が立ち込め、視界が一気に悪くなった。
霧は冷たく肌にまとわりつき、まるで未知の何かが手を伸ばしてきているかのような不気味な感触がした。
どこからともなく小川のせせらぎが遠くからかすかに聞こえ、しかし、その音も霧の中でぼんやりと曖昧になる。
《エリクシル、いるか……?》
{{はい、わたしも問題なく機能していますよ}}
《良かった……》
『
一つの懸念が解消され、ロランは安堵する。
「やっぱり
「へぇ? ダンジョンに入った経験はあるんだ、一体どこを? ……それくらい教えてくれてもいいのに」
ロランが固く口を閉じているのを見たファーニャは、呆れの表情を浮かべた。
《タロンの悪魔の木を征服したなんて、口が裂けても言えねえ!》
{{……ふふ、そうですよね}}
「……ここは地下1階層が
「…………わかりました」
ファーニャが言うように迷宮型はボス部屋を除いて冒険者に有利な構造だ。
先制も撤退も任意のタイミングで行える。
{{彼女は屋外での戦闘経験や知見をご所望のようですね}}
《あぁ、それにダンジョンは場所によって全然構造が違うんだな》
{{24階層まで攻略済みであることも興味深いですね}}
エリクシルと作戦会議をしている間にファーニャの自慢が始まった。
彼女は14階層まで潜ったことがあると自慢げに話していたが、気になる彼女のレベルは推定16レベル。
クルバルに至っては18レベル程度だとエリクシルが教えてくれた。
両者ともに格3の魔物の討伐経験があり、かつ意外とレベルが高いことに驚きを隠せない。
《ファーニャは14階層まで攻略して格3を超えたってことか?》
{{となると14階層までは格3の魔物までしか出現しないのでしょうか}}
《タロンのダンジョンと全然配置が違うな……》
タロンの悪魔は低層ながらも格5までの魔物が出現していた。
密度の違いによるものなのだろうか、考えても仕方がないため足を進める。
一歩進めば足元の地面は柔らかく湿り、低木が生い茂る中を進むごとに、葉や枝が衣服に絡みついてきた。
湿気を帯びた空気は、彼らの呼吸を重くし、まるでその場の空気自体が生きているかのような錯覚を覚えさせる。
時折、霧の向こうから不気味な鳴き声が響いてきた。
まるで遠くから彼らを見つめ、観察している得体のしれない存在を感じる。
鳴き声は単調ではなく、まるで声帯を持たない生物が発するような、耳障りで異質な響き方をしていた。
風もなく木々の葉がそよぐこともないため、その鳴き声だけが際立ち、どの方向から聞こえているのかさえ定かではない。
《エリクシル……》
{{周囲に魔物の反応があります}}
エリクシルの索敵機能はロランに不相応な高性能な能力であるが、ファーニャを守る必要がある以上、出し惜しみをせずに使用していく。
「ファーニャさん、あそこの茂みに魔物が隠れています」
「へぇ? ……クルバル」
「はっ……」
クルバルは盾を構え、槍を握り締めた。
緊張感が張り詰める中、彼は鋭い動きで茂みに向かって駆け出し、その槍を一突きした。
「ギェエッ!」と鋭い叫びが響く。
茂みの中から飛び出してきたのは、大きく醜い蛙のような魔物だった。
クルバルの槍はその胴体を深々と貫き、魔物は悶絶しながら塵へと還った。
「
「さすがねクルバル。ロランさんも良くわかりましたね?」
「なんとなく気配を感じて……」
「気配、ですか……。他にも感じます?」
「あちこちに……」
ファーニャはロランに尋ねつつ、クルバルへ目配せを送る。
クルバルは一瞬目を閉じ、周囲の空気を感じ取るようにしながら、静かに頷いた。
「……ふぅん、ヒューム族なのに感覚に優れてるのね」
「いえいえ、それよりも……ファーニャさん、もしご存じでしたら、このダンジョンの魔物の種類を教えてもらえますか?」
「……クルバル」
「はっ、浅層は
ミニエリーが魔物図鑑を開き、ロランの
ロランはそれを眺めながら口を開く。
「……
突然、茂みの中でガサリと音がした。
その瞬間、ファーニャの目が鋭く光る。
彼女は一瞬の迷いもなく跳躍して、ブロードソードを力強く振り下ろした。
「ギィッ!」という悲鳴とともに、巨大な
「さて、次はロランさんの番ね」
「……わかりましたよ、やります!」
ファーニャの挑発に応じるように、ロランはバックパックを降ろし、タイユフェルを抜いた。
《エリクシルの力を見せてやるぞ!》
{{はいっ!}}
茂みの向こうに潜む魔物の位置が鮮明に浮かび上がる中、ロランはセイルガードを構える。
しびれを切らした魔物が茂みを突き破り、猛然と襲いかかる。
しかしロランは冷静に身を低くし、タイユフェルを滑らせた。
その刃は魔物の喉元から腹部までを一閃し、
「わおっ!」
「……!」
クルバルが驚きで目を見張る中、ファーニャは無邪気に笑みを浮かべた。
「ロランさん、お見事。まるで曲芸ね」
「……ふぅ、どうも」
《流石エリクシル! やりやすいぜ!》
{{えへへっ!}}
周囲を警戒しながら魔物を狩り続けること、すでに一時間が経過していた。
その時、エリクシルのセンサー網が何かを捉えた。
{{ロラン、注意を}}
「……ファーニャさん、ちょっと待ってください。前方にかなりの数の敵がいます」
「お嬢様、恐らく
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