219 湧いてくルース★


 *    *    *    *


 冒険者ギルドに到着すると、受付のスタッフがロランを迎え入れた。


「お待ちしておりました、ロランさん。マスター・コーヴィルがお待ちしておりますので、どうぞこちらへ」


 ロランは案内されるままにギルド内の一室に通された。

 部屋に入ると、コーヴィルが笑顔で迎えてくれた。


「ロランくん、来てくれたね。改めて先日の緊急依頼に感謝する。おかげで我々の株も上がったよ」


 コーヴィルはロランに席を勧め、お茶を淹れた。


「いただきます。こちらこそ、とても美味しい食事に宿までごちそうになってしまって」

「はっはっは、気に入っていただけたようでなにより。でも、有望な冒険者にはまだまだおもてなしが足りなかったようだ」

「えっ……?」

{{あれで足りない? どういうことでしょうか}}


 ロランが頭を傾げ、ARのミニエリーが腕を組んで考える。


「聞けばまたすごいことをやってのけたようだね」


 嬉しそうなコーヴィルは指を鳴らすと、職員がお盆を持って入室した。


川渡蜥蜴リバーディーラの単身討伐に、匠師しょうしニアさんの依頼まで達成してくれたそうだね」

「……えっ、えっと?」

{{ニアさん、用事があると言っていたのはギルドに報告に……?}}


 職員がテーブルに置いたお盆には、綺麗に畳まれた鱗皮と金貨がたっぷり並べて置かれていた。


 ロランの目は自然とその鱗皮に引き寄せられた。

 川渡蜥蜴リバーディーラの皮は、水色の光沢を帯びた細やかな鱗が規則正しく並び、まるで職人の手によって一枚一枚丁寧に磨き上げられたかのようだった。


「あぁ、品札はこちらで回収するよ。昨日受け取りに来る予定だったんだっけ? ゼヴランくんが討伐証の報告をしに来てくれた時に、ロランくんを呼び出したことを伝えたら届けてくれてね」

「ゼ、ヴラン……さん?」

「あれ? 名前知らなかったかい? 解体作業場の親方だよ」


 解体作業場の親方と言えば、元猟師の熊の獣人に違いない。

 ロランは彼の顔と言葉が思い起こされた。

 工芸品向きだという川渡蜥蜴リバーディーラの鱗皮の美しさは、ただの素材を超えまるで芸術品のようにすら感じられる。


「あぁ! ブロン族の!」

「そうそう! いやぁ、2等級に上がりたてで狩るような魔物じゃないのにすごい。いや、それを言ったら、ニアさんの依頼を達成したことの方がもっとすごい。これ、依頼の報酬の4,000ルース」

「4,000!?」

「これじゃ足りないくらいの、仕事をしてくれたとも言ってたけどね。代替品を見つけてくれたとか」


 コーヴィルはお盆の上の金貨を指さすと、満面の笑みを浮かべた。

 聞けばかなりの貢献度も加算されているらしい。

 ニアに秘伝の技に道具まで譲られた上に、依頼の報酬まで貰えるとは思わなかった。


{{なんだかお金が湧いて出るような不思議な体験をしています……}}

《使った分が戻ってきたぞ……!》


 ミニエリーはハテナマークのエフェクトを散りばめて目を回し、ロランは心の中でガッツポーズだ。


「……だけど、掲示されている依頼の直契約は本来であれば違反となる。ニアさんが達成を申し出たおかげでお咎めなしだけど、今後は掲示板もチェックして注意するように」

「……はい!」


 コーヴィルは真剣な面持ちだったが、すぐに和らげた。

 冒険者ギルドは、相互扶助のために依頼者と冒険者の間に立つことが重要だ。

 ギルドを通さずに依頼を受けると、ギルドの運営が危うくなり、手数料や報酬の管理が不透明になるだけでなく、冒険者自身がトラブルに巻き込まれるリスクも高まる。

 コーヴィルはそのリスクをロランに伝え、ギルドのルールを守ることが大切だと強調した。


「……正直、ロランくんは今すぐにでも等級3にしたいくらいの逸材だ。でもこればかりは決まりがあってね、次の昇級試験には最低でも1週間空けなければならないんだ。すまない」

「いえ……そんな、全然……」


 ロランが少し戸惑っていると、コーヴィルは何かを思い出したように姿勢を正した。


「とまぁ、これくらいで」


 彼は一息つくと、真剣な面持ちで続けた。


「……本題に入ろうか。今日は少し相談したいことがあって、君を呼んだんだ。『豊穣の手』商会のカディン氏から、屋敷を訪れて欲しいと相談があってね。先日の緊急依頼で納品した虫草のおかげで、彼の娘さんが助かったんだ。その娘さんが直接礼をしたいと言っている」

「えっと……」


 ロランの表情をうかがっていたコーヴィルが表情を和らげる。


「あぁ、そう警戒しないでくれ。名を馳せる冒険者はこうやって商人と縁を持つものだ」

「……わ、わかりました」

{{ここまでおもてなしを受けていては断れませんしね……}}


「あの、服装とかって……?」


 『豊穣の手』商会――噂の豪商に違いない。

それなりに地位のある人物に会う際の礼儀作法やマナーが頭をよぎり、ロランは少し不安げに尋ねた。


「……ふむ、冒険者にとっては戦闘着が正装とも言える。今のままで問題ないよ。君が気にする必要はない。それにカディン氏は豪商ではあるが、貴族ではない。とはいえ、貴族並みに力を持っている人物だが、礼を欠かない限り心配はいらない」

「……わかりました」

「あぁ、娘さんについても軽く教えておこうか……」


 直接礼をしたいと言っている、大羊の獣人、バールフ族のカディンの娘はファーニャと呼ぶらしい。

 彼女は『豊穣の風』という血盟の盟主でもある。

 甘やかされ、自由奔放に育てられた彼女は、冒険に憧れを抱いている。

 自分の窮地を救ったに会いたがっているそうだ。


「まぁ、ロラン君は駆け出しとはいえ、群を抜いている。彼女も君を気に入るだろう」

「えっと、その、いつ向かえば?」

「あぁ、正午に尋ねてくれ。……これが屋敷までの地図だ」


《正午、デッドリミットがあったんだな。早めに訪ねて正解だった》

{{リサさんに報告しなければなりませんからね}}


 ロランはコーヴィルから手渡された地図と報酬を受け取り、一礼するとギルドを後にした。


{洗濯物、忘れてますよ!}

「あぁっ! Uユニコーンシャツ! チニャラチニャラ!」


 *    *    *    *


 ――報 酬 4,000ルース

 ――所持金11,210ルース


――――――――――――――

コーヴィルさん。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093086002808546

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