181 湖の街バイユールへの旅路★


 ビレーは愛嬌のある笑顔を振りまき、明るい声で手際よく指示を出し始めた。

 ギルドの出張所の設営が滞りなく進められる。


 *    *    *    *


 ロランはバイクを走らせ、小川を越えて森の中を進んでいく。

 鬱蒼とした森の中を抜けると、周囲の景色に驚愕した。


 「……なん、だ……こりゃ……」

 { ……まるで戦場のように荒れ果てていますね…… }


 ロランの視線の先には、抉られた大地と横薙ぎになった大量の大木が広がっていた。

 地面は焼け焦げ、灰が風に舞い上がっている。


 ロランはバイクを止め、慎重に周囲を見渡した。

 倒れた大木の根元は鋭利なもので斬り倒されていた。

 エリクシルのパルスで人の気配を探ったが、無反応。


 { タロンの主の仕業でしょうか……。しかし、一体誰と争ったのでしょう…… }


 エリクシルがぽつりと呟く。

 こんな芸当ができる魔物につい先日邂逅したわけだが、争っていれば辺り一帯が焦土と化していたと考えると背筋が凍る思いがした。


 そのを気の毒に思ったロランは身体をぶるっと震わせると、バイクを走らせ戦場跡を進んだ。

 荒涼とした風景が続き、鳥の鳴き声一つ聞こえない。

 バイクの通る道からは、焦げた草木の破片がカサカサと音を立てている。


 やがて、彼の視界に打ち捨てられたテントが現れた。


 { ……人の気配はないようですね……慎重に進みましょう }


 ロランは息を潜め、テントの周囲を調べた。

 中は散乱した道具や物資が残されており、急いで撤退した形跡が見て取れた。

 彼は慎重に一つ一つを確認しながら、先へ進んだ。


 荒れた戦場を抜けると視界が開け、広大な穀倉地帯が見下ろせた。

 コスタンの話にあったバイユールの大穀倉地帯だろう。

 豊かな緑が広がり、畑には収穫された穀物が一面に並べてある。

 しかしその美しい景色も、背後に広がる荒廃した戦場との対比で一層際立っていた。


 「……こっからは歩くか」

 { 南南西に大きな街がみえますね }


 ロランはエリクシルの言う方角を見渡すと、大きな街が見えた。

 ポートポランよりも大きく堅牢な防壁が目立つ。


 彼はバイクを目立たないところに停車し、迷彩カバーで丁寧に隠した。

 姿を隠したエリクシルの指示に従い、街道を見つけると、そのまま街に向かって歩き始めた。


 「センサーはどこに設置する?」

 { そうですねぇ、どこか隠せるような場所があれば良いのですが…… }

 

 街道沿いには農家の他に小屋もある。

 そのうちのいくつかは手入れもされず打ち棄てられているようだ。


 { センサーを設置した小屋が撤去されても困りますね }

 「となると、やっぱあそこか?」


 ロランが指差す先には防風林と思わしき木々がある。

 樹上に設置するのが最も安全だろう。

 ロランが木を登ると、エリクシルの指示に従いセンサーを取り付けた。


 「よしっ……と」

 { センサーの起動を確認。……バイユールの人口はポートポランの2倍はありますね }

 「大きい街に見えるもんな」


 瞬時に魔素の反応を数えたのであろうエリクシルに、ロランはもう驚くこともしない。


 { 一般的には港街の方が人口は高い傾向にあります }

 「へぇ、そうなのか?」

 { 貿易の中心地は商業活動が盛んなため人も集まります。それなのにバイユールの方が人口が多いとは……、農業以外の産業も発展しているのでしょうか……? }

 「行けばわかるさ……」

 

 ロランはそう言って街道を歩み始めた。

 冬の訪れが近いため、穀物の穂先は既に刈り取られており、広大な穀倉地帯には収穫の終わった畑が広がっていた。

 農民たちは収穫した穀物を牛車に積み込み、倉庫へと運んでいる。

 寒風が吹きすさぶ中、農民たちは忙しく動き回り穀物を丁寧に扱っていた。


 ロランはその光景を眺めながら、慎重に進んでいった。

 街の後ろには巨大な湖があり、その後ろの雄大な山が湖面に写り込んでいる。


 「ここがバイユール……見事な景色だ」

 { 湖が素敵ですねっ! この畑も収穫前であれば、辺り一面黄金色に輝いていたんでしょうね……! }


 エリクシルの声に、ロランは微笑みながら頷いた。

 街が近づくにつれ、防壁がもっと大きく見えてくる。

 バイユールの街の正門は関所になっており、数人の兵士が警備していた。

 彼らは鋭い目つきで訪れる者たちを見守り、堅牢な壁の前に立ちはだかっていた。


 「随分並んでるな……。無声通信にしよう」

 {{ かなりの商人が訪れていますね。それにあの物資の量…… }}


 関所の前には長い行列ができており、多くの商人や物資を運ぶ牛車、馬車が並んでいた。

 商人たちは様々な商品を積み込んだ荷車を引き、物資の運搬に忙しそうだ。

 街の活気は一目で感じ取れるものであり、農業以外にも多くの産業が盛んなことが伺えた。

 特に荷車に積まれた木材や鉱石、魔物の素材のような資源が目立ち、バイユールがただの農業都市ではないことを物語っていた。


 「やっと順番か……」


 ロランは冒険者票を胸元から取り出すと、兵士に見せて関所の手続きに進んだ。

 鑑定の珠で犯罪者ではないことを確認し、入街税を支払う。

 1日につき5ルース。冒険者だと半額になるようだ。

 とりあえず1週間を申請し、札を受け取った。


 「どうぞお入りください、冒険者殿。滞在中はお気をつけて」


 兵士の一人が礼儀正しく言い、ロランは会釈すると街の中へと足を踏み入れた。


 ――入場税 -5ルース

 ――所持金195ルース


――――――――――――――

門兵。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093081139619698

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