170 天使★
「今の生物が……天使……」
ロランがいち早くその言葉に反応する。
「天使!? あの……頭に輪っかのある?」
「……! ロランくんも天使をご存じでしたか。……いや、しかし頭に輪っか、ですか?」
{ むむ、例によってお互いの認識が異なっているようですね…… }
エリクシルが
輝く翼を持つ幼子の姿は、彼の知る天使とは大きく異なっていた。
「なんとも、愛らしい羽根のある幼子ですな……私の知るそれとは違いますが」
「ふはっ、かわいいっ!」
まじまじと肖像画を眺めるふたり、その絵画の精巧さにも驚いている様子だ。
「……私の知る天使はアレノールの教義における『太陽の光』の使徒。空を飛び悪しき竜を喰らい、飛び立つときに聖なる天使の輪を残すと……。わたしもその姿を見たのは初めですが……」
「ソニックブームが天使の輪っか……」
{ ………… }
エリクシルは眉をひそめ、光速でアーカイブを検索し始めた。
その表情には、何か不吉なものを感じ取ったかのような焦燥感が滲んでいた。
元々の天使の輪っか
しかしソニックブームを聖なる天使の輪とするのはどこか異様で、不自然な違和感を漂わせていた。
エリクシルの脳裏に、歪曲された真実の影がちらつく。
この不協和音は、まるで暗闇の中に潜む異形の者たちの囁きを聞いているかのようだった。
エリクシルはその歪さに胸の奥底から不快感を覚え、これがただの文化の違いではないことを直感的に悟った。
(何かもっと深く、もっと暗い謎が潜んでいるのかもしれません……)
《無声通信、エリクシル》
ロランの通信に気が付くことなく険しい顔をしているエリクシル。
《おーい? 大丈夫かー?》
{{ あ、はいっ? 考え込んでいました! }}
エリクシルが通信に気が付かないほど何かを考えていることは珍しい。
それほどまでに興味深い対象だということは、ロラン自身も理解できる。
《……白の聖廟と天使といい、黒の聖廟と異形の者。関係があるとしか思えねぇぞ……! どう思う?》
{{ 今はなんとも……情報を集めなければ……。魔法の存在といい、この世界は思ったよりも異質で複雑です }}
その言葉にはエリクシルの頭の中で渦巻く疑念と不安が滲んでいた。
《神話とか、まじもんの神がいてもおかしくねぇよな……。ってかいるのか、生まれた時に抱擁されるってやつが……》
「……コスタンさん、その天使は何しに来たんです? 教義の他になにか情報があれば教えてください!」
ロランはコスタンに向き直り問いかけると、コスタンはしばし考え込んだ後、答える。
「……確か"見る者"の目を持っているとか、悪い行いをした者は神に代わって天使が裁くとも……。もっと詳しく知るには聖典が必要ですな」
「聖典……。まさに天の使いって感じですね。あの気色悪い目ん玉は確かに恐ろしかった……」
{ ……ダンジョンを征服したわたしたちに興味を示したのか、ダンジョンコアの高濃度の魔素反応に惹かれたか…… }
「後者じゃねぇかなぁ。魔素嵐に惹かれて、とか」
{ ……ですよね。さて、その嵐も治まってきているようですね。鉱山は崩落してしまいましたが、これから一体どうなるのでしょう }
「うむ、コアが取り込まれた以上、きっと何か起こるはずです。見守るしかありませんな……」
「もう僕は休みたいよ、色々ありすぎてへとへとだ……」
ラクモは両方のこめかみを指でぐりぐりと押し、疲れた様子を見せている。
「ふむ、では村に戻るのもいいですね。嵐の被害がないか確認もしたいところです」
{ それもそうですね }
「いい考えだ。今日は久々に家で寝よう。船の生活に慣れすぎるのもよくない」
「んじゃぁ、俺らはどうすっか……」
{ 船に戻りましょう。センサーも復旧したようですし }
「復旧した? タロンの主は!?」
{ ……ダンジョンの在ったところを離れていますね……。速度から見ても負傷はしていないのかも…… }
「僕たち助けられたんだね……」
「あぁ……あの黒い触腕に掴まってたらどうなってたか……」
「ふむ、主には感謝しなければなりませんな……」
{ お礼が出来ればいいのですが。……あ、通信もできそうです! }
エリクシルが小型端末に発信し、しばらくすると応答があった。
「おうっ! エリーちゃんか! 大丈夫ですかい!? すげえ嵐が来てましたが!!」
村の通信機器はミニエリーのホログラムが表示されている。
いつのまにか呼び名も変わっているようだ。
{ わたしは大丈夫です! お気遣いありがとうございます。コスタンさんに代わりますね }
ロランはコスタンに近寄り、腕輪型端末を向けた。
「チャリスさん。そちらはどうですか? 今しがたダンジョンの征服が終わったところで村に戻ろうかと……」
「おお! そりゃすげぇ! 速すぎますぜ! 今ぁコスタンさんの家なんですが……」
チャリスの後ろでワッと歓喜の声が上がる。
皆が集まっているということは、この嵐で避難していたのかもしれない。
「皆さんも一緒ですな。……このまま祝勝会と行きたいところですが、まだ用事がありましてな……」
「征服が終わったってぇのに? とんでもねぇ財宝を運ばなきゃならねぇ、とかですかい!? なんなら運ぶの手伝いに村の野郎どもを引き連れますぜ!」
「……いえ、ちょっと毛色の違う報酬でしてな……。まだどうなるのかわからんのです。とりあえず一晩は様子を見なければならないかと」
「……? まぁ、よくわからねぇですが、楽しみにしてますぜ!」
「では通信を終えて村へ向かいます」
「待ってますぜ!」
通信が終わり、皆が周囲を見渡すと嵐はすっかり収まっていた。
廃鉱山を覆っていた黒雲が薄まり、雲の隙間から差し込む光が幻想的な色を映し出していた。
辺りは黄金色に輝き、霧のような蒸気が漂う。
山から吹き下ろした風が一行を癒す。
「ふぁー……。なんだか眠いや。……ロラン、また明日、かな?」
「おう、ラクモありがとうな。今日はゆっくり休んでくれ!」
{ それでは何かあれば通信機にて連絡をお願いします。明日また鉱山の様子を伺いに行きますね }
一行はお互いに別れを告げ、各々の帰る道を歩む。
ロランとエリクシルはバイクで船へと向かった。
「
{ ええ……そうですね }
* * * *
――――――――――――――
天使。
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