168 救世主★
ドガァァアアッ!!!
突然木々から飛び出した存在に、ロランたちは目を奪われる。
その巨体は嵐の怒号とともに圧倒的な威圧感を放ち、周囲の空間さえも歪ませていた。
顔や背中に生えた角が蒼い光を帯びて輝き、あの時とは様子が違うが、タロンの主に間違いなかった。
「なんで主がっ!?」
「これは終わった……」
「むぅっ……!」
ロランの声には信じられないという感情と絶望が入り混じり、ラクモは達観したように静かに呟く。
コスタンだけが状況を把握しようと周囲を見回していた。
{ ロラン・ローグ、コスタンさんは諦めていません! この状況でも活路を切り開くのです! }
ロランはエリクシルの声にハッとすると、自身を奮い立たせ銃を手に取った。
(効くかわからねぇが……!)
ロランの手はぶるぶると震えているが、それでも銃を構える決意は揺るがない。
恐怖を押し殺し、彼は一歩前に進む。
グルルゥゥオォォォッーーーーン!!
タロンの主の咆哮に大地が震える中、主は一行を一瞥した後、威厳を持って背を向けた。
その目が鋭く輝くと、洞の古木に向かって目にも止まらぬ速さで駆けだした。
充分に膨れ上がった触腕が弾けるようにブワァッと広がったところに、タロンの主は身を翻しながら煌々と輝く刃の尾を振り下ろした。
ズガァアアァーーーンッ!!
触腕は洞の古木ごと一刀両断され、斬られたそばから白い塵へと還っていく。
「なにっ!?」
空気が裂ける音とともに、この世のものとは思えない恐ろしい叫び声が響き渡った。
触腕は半分に割れた洞の隙間から溢れかえると、タロンの主目掛けて放たれる。
その動きは速く、容赦なく、まるで闇そのものが襲いかかるかのようだった。
「主がダンジョンを攻撃している!?」
{ ダンジョンの魔物は地上の魔物と敵対しているとは聞きましたが…… }
「今はそんなことはどうでもいい! 足止めしてくれている間に!」
一行はバイクへと駆け寄った。
ロランが先に乗り込み、ダンジョンコアをコスタンへと手渡す。
「わ、私が……!?」
突然のことで思わず受け取ってしまったが、よくよく考えれば危険なダンジョンコアだ。
ラクモは「早く乗って!」と急かし、ロランの後ろにコスタンとラクモが飛び乗った。
コスタンは恐怖に歪んだ顔でダンジョンコアを抱えるしかなかった。
* * * *
この暴風雨の中バイクは鉱山へと向かう。
過積載のバイクは重く、揺れながらも何とか進んでいく。
タロンの抜け道を通り、村への村道が見えてきた。
一行も幾分か落ち着きを取り戻し、ロランが口を開いた。
「エリクシルどうなってる? 主が来るのは検知できなかったのか?」
{ この魔素嵐のせいかセンサーが機能していないんです……村とも連絡が取れません! }
「なんだってそんなことが……」
「魔素嵐では魔法も乱されると聞いたことがあります……」
「コアを取ったからダンジョンが怒っているんだ……!」
「……とにかく鉱山に急ごう!!!」
遠くで空気を割る音が聞こえ、戦闘機のような音が近づいていたが、ロランたちにはまだその音が届いていなかった。
* * * *
鉱山の入り口にたどり着くと、一行はバイクを降りて封鎖を解く。
「ロランくん、これを……!」
ダンジョンコアはかなりの重量だ。ロランの強化服がなければ運べない。
「あぁ、ありがとうございます!」
ロランはダンジョンコアをしっかりと抱えて暗い鉱山の内部へと足早に進み、コスタンが最深部への案内のために先導する。
鉱山に足を踏み入れると、冷たく湿った空気が彼らの肌を撫でた。
迎えたのは長い年月に曲がりくねった木の柱や岩盤から突き出た古びた木の梁で、かつて坑夫たちが掘り進めた道を支え、崩落を防ぐために設置されたものだった。
それらは所々で朽ちていたが、今もなおその役割を果たしているように見えた。
坑道は狭い箇所もあれば、少し広がる箇所もあり、不均一な地形が続いていた。
彼らの進む道を照らすのは、腕輪型端末の青白い光だけだった。
「次はこちらです……!」
時折柱の割れ目から水滴が垂れ落ち、湿った匂いが鼻をくすぐる。
足元には岩がちりばめられその上を歩くたびに響くカチカチという音が、まるで石たちが地下でささやいているかのようだった。
一行は息を切らしながら深部へと進んでいった。
突如、ロランが足を止める。
「ちょっと待ってください、なにか聞こえる……?」
「……? 何も聞こえないよ」
ラクモが耳をそばだて、コスタンも耳に手を当てて耳を澄ます。
聞こえるのは坑道内に吹き込む風の低いうなりや、水滴が岩の地面を打つ反響音ばかり。
「私も聞こえませんな」
エリクシルは恐ろしい物を見るような顔でロランを見つめている。
{ ロラン・ローグ……そのダンジョンコアですよ…… }
「うぇっ!?」
ロランは胸からコアを放して見つめる。
「聞こえない……」
今度はコアに耳をペタリとくっつけると……。
「𐏃𐎠𐎹𐎠𐎤𐏃𐎠𐎹𐎠𐎤 O𐎢𐎫𐎡𐎴𐎡𐎣𐎠E𐎿𐎡𐎫E…… 」
「げぇっ……!? めっちゃヒソヒソ喋ってる……」
恐る恐る、皆がコアに耳を寄せると背筋を凍らせる不気味な感覚に襲われる。
その囁きはまるで地下深くに潜む虫が耳の奥でこぞって囁き、まるで深淵から湧き出るようにして心の底にまでしみ込んでくる。
「𐎣O𐎣O𐎭E𐏃𐎠𐎴𐎠𐎡𐎭O𐎣O𐎣𐎠 O𐎣𐎠𐎠𐎿𐎠𐎴𐎴O𐎫O𐎣O𐎼O𐎴𐎡 𐎣𐎠E𐎿𐎡𐎫E𐎣𐎠E𐎿𐎡𐎫E……」
「うわわわっ!!」
「これは……っ!!」
{ 初めて聞く言語です……! }
「気持ち悪ぃ………! さっさと置きに行こう!」
ロランは気味悪げにコアを抱え直すと、先を促した。
コスタンが慌てて先を案内する。
* * * *
「ここです……!」
コスタンが指差したのは、突如として開けた広大な洞窟だった。
天井からは岩がぶら下がり、時折水滴が滴り落ちる音が響く。
洞窟の壁には過去の採掘の痕跡が見え、古びたピックの跡が無数に刻まれていた。
床には小さな石が散らばり、足元を照らす端末の光によって、時々キラリと輝く鉱石の残骸が見え隠れする。
ロランは一刻も早くダンジョンコア手放したいのを我慢して、慎重に地面に置いた。
「……それでどうなるんだ……」
コアは置かれたが何も起こらず、腕輪型端末の光を受けてチラリと光るばかりだ。
「……ロランのバッグが光ってるよ」
「ええっ!? まじ?」
ラクモが指摘し、ロランがバッグパックを地面に降ろした。
外ポケットに光るものが見え、それを取り出す。
――――――――――――――
主の一撃。
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