159 戦闘結果と考察

 

「ロランは良い奴だよ。……もちろんエリクシルさんもね」

「間違いありませんな! 彼らはこの盾のように決して壊れることのない絆を持ってますのう……」

「……上手いこと言うね」


 コスタンとラクモが談笑していると、ロランがその様子を伺いに近づいてきた。


「……えーっと、何の話でしたっけ」

墓狼ヴァルグレイブの話ですな。彼らの機敏な動きと高い連携力には、熟練の冒険者パーティでも苦戦することがありますから今後も注意が必要ですぞ」


 エリクシルの盾に気を取られていたが、4階層で初めて遭遇することになったビースト類についてだ。


「気を付けないといけませんね! そう言えば気になったんですけど……腐るって、どう治すんですか?」

、魔法かポーションだね」


 ラクモがさらりと言ってのけ、ロランは絶句した。

 エリクシルは{ ……治るだけマシですね}とフォローしつつも、他に気になる点があるようだ。


{腐る原理はこの際無視するとして、ラクモさんの仰るパターンに当てはめれば、本来であれば格4の魔物は16階層から出現するはずです}

「そんなのがここの雑魚として出るはずがないってか?」

「……もしかしてエリクシルさん、墓狼ヴァルグレイブがボスだと思ってる?」

{はい……魔物の種類も変わりましたし}

「うーむ、野外フィールド型のダンジョンにボス部屋はありませんから、その可能性がないとは言い切れませんが……」


 コスタンは断言こそしなかったが、ボスだとは思っていないようだ。


「ちょっと待ってください、ボス部屋がないとしたらどうやって次の階層に?」

「迷宮型と同じく、ボスを倒せば下層への扉が開きます。野外フィールド型は部屋がないので標的を絞り辛いのが難しいところです。しかしボスは深部にいることが多く、ザコ敵と比べて明らかに格上の魔物として現れますから……」

「進んでみるしかないってことだね」

「なるほど……迷宮型と野外型で結構違うんですね」

「ボスも違う種類の魔物かもしれない」

「うむ、密林に居そうな種類であることは確実でしょうが……」


 もしもさっきの墓狼ヴァルグレイブがザコだとしたら、ボスはもっと恐ろしいものが出てくるのか。


(密林っぽい魔物……ワニとかか……?)


 また奇襲をかけてくるかもしれない、気を引き締めて進まないとな。


{……それはそうと、皆さんのお陰で問題なく対処できましたね! 特にコスタンさん、ロラン・ローグを助けて下さりありがとうございます! さすがお師匠様ですねっ!}

「そういえばたすかりました。ありがとうございます!」

「ほほっ、照れますわい。……墓狼ヴァルグレイブと戦ったのは初めてでしたが、狼型の魔物と戦った時の経験が活きましたぞ」


 嬉しそうに笑い、顎髭を撫でるコスタン。


{ラクモさんの反応も見事でした!}

「ふっふん、あれはわざと背中を向けたんだ」

「あれ、誘ったのか……! すげぇな!」


 ラクモは耳をピコピコさせながら、照れ笑いを浮かべる。

 今回は尻尾もぶんぶん振っている。本人も上手く決まって嬉しいのだろう。


{……なるほど、魔物相手でもフェイントは有効なのですね!}

「エリクシルの驚かしも良かったぞ! アイツ、すげー驚いてたな!」


 お互いを褒め合い和やかなムードが流れ始めると、ラクモが口を開いた。


「でも、これ以上の数に襲われたら、不味いね……」

{はい、魔物とは思えないほど統率の取れた動きをしていました。相手にしなくてはいけない数が増えると、死角や隙も増えますから、対処が難しくなるでしょう……}

「あぁ。前にコスタンさんが教えてくれた錆狼ラステッドウルフも連携するんだったよな」

「うむ、数が増えればその分対応が追い付かなくなります。それでもエリクシルさんの神出鬼没の攪乱があれば、なんとかなりそうな気もしますが……」


 コスタンは顎髭を撫でながら、余裕の笑みを湛えている。

 このパーティの一番のベテランがそう言うのだ。

 なんとかなるかもしれないのかも。


(いや、俺もなんとかするんだ!)


 ロランは覚悟を改めて、力強く頷いた。


「……確かにエリクシルのファントム戦法、使えると思うぜ!」

「ふぁんと?」

「なんです?」

{ファントム戦法……そのネーミングセンスは理解しかねますが、ようは攪乱、猫騙しですよね。確かに予想以上に墓狼ヴァルグレイブも驚いていましたし、数が増えても牽制に使える可能性はありますね}

「ふむ、猫騙しにしては随分と強力でした。ボスを相手にも有効かもしれませんな」


 コスタンは思いついたように人差し指を立て、その横でラクモが大きく頷く。


「うんうん、あれを目の前でやられたら僕でも焦る」


 エモートでエフェクトを増やすとさらに良いかも、などと作戦会議をしていると、戦闘中には目を向けなかった周囲の様相に気がついた。


「……そういえば、この辺は木が密集してないですね」

墓狼ヴァルグレイブの狩場、なんだろうね」

「でしょうな。しばらくは移動も楽になりますぞ!」

{……なるほど、木々が密集していたら狩る側にとっても邪魔になりますよね。獲物を広場に誘導し、自分たちは木陰に隠れながら期を狙う……賢いやり方です。しかしダンジョンが狩場を作っている……いえ、野外型は自然を再現しているということは、墓狼ヴァルグレイブが自然を活用したと考える方が自然ですね……あ、自然と3つも言っちゃいました}


 ひとりぶつぶつと呟くエリクシルに、ロランは「先行くぞー」と声をかける。


「残念ながら、ドロップは無しでしたな……」

「そう言えば何落とすんですか?」

「たぶん、牙とか爪、毛皮?」

「毛皮かぁ……」

「骨のような見た目もしていますし、闇の魔石も落とすかもしれませんな」

「うん、落としそう」


 一行は木々の隙間を縫って目印建造物へと向かう。


{あぁっ、置いて行かないでくださいよぉ~}


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