158 不壊の盾と絆★
{……目標を排除しました! }
エリクシルの声が戦闘終了を告げた。
「腐った臭いはもうしないね、ふぅー……」
「
「いやいや、俺らの持てる力全部だしてましたよ……。やばかった……」
コスタン曰く
銃の威力には耐えられなかったようだが、本来であれば生半可な武器では傷つけられないほどの硬い毛皮に覆われているらしい。
その耐久性に加えて
単体での強さは岩トロールよりも劣るが、
「そう言えば盾で爪を受けてたましたけど……」
ロランがふと思い出して口を開くと、コスタンは盾の表面を撫でながら見せてくれる。
「あぁ、うむ。この通り無傷ですな。さすがエリクシルさん印と言ったところでしょう。まさか腐食をも防ぐとは!」
{錆や腐食防止に特殊な合金プレートを薄張りにしたのが、早速役立ちましたね! }
「ええっ!? そんなすごそうな改造してんのかよ……。あれ、いいのか? テクノロジー云々」
{……当初は現地のテクノロジーの枠を逸脱しないように心掛けていましたが、戦力強化のために必要最低限の改善を施すのは合理的だと判断しました。この世界の人々が自然に受け入れられる範囲内で、彼らの安全を確保するための工夫をしたのです。具体的にはわたしたちの世界の解析装置でもなければわからないような偽装を施してあります! }
(それを独断で……? いや、コスタンさんに相談していたな)
ロランは、エリクシルが盾の改良についてコスタンに意見を求めていたことを思い出した。
当初の予定では、シールドバッシュの威力を保つために盾の単純な軽量化を避け、その代わりに耐久度を上げるはずだったのだ。
「でも、それって結局は元の方針と矛盾しないか? なんなら見た目は金属と木の盾がめちゃくちゃ強ぇ装備になっちゃってる。それこそ"オーパーツ"みたいな……」
「むむっ、その言葉は知りませんが、この盾は間違いなく『逸品』です。『魔法のアイテム』と言っても差し支えないでしょうな……!」
コスタンは、新生ラウンドシールドに頬を寄せて大事そうに抱えている。
{……そうかもしれません。それでも、皆さんの期待や信頼を裏切らないために、安心して使える装備を提供することが重要だと感じています。技術の逸脱を避けるという原則を守りつつ、皆さんの命を守れるような、最善の方法を選択したんです }
(……AIのプロトコルや過ちを防ぐための指針を捻じ曲げていないか? エリクシル……自分でもわかっているのか……?)
「……そうか。つまり、偽装を施してでもパーティの安全を最優先に考えてのことだったんだな」
{もちろんです。この世界の一部として生きていくためには、皆さんの信頼関係を築くことが重要だと理解しています。それにここでの経験を通じて、私自身も少しずつ変わらなければなりませんから…… }
エリクシルの考えを聞いて、ロランは考え込んだ。
エリクシルの言葉には確かに一理ある。
(人間のように感情的な判断を下しているようにも思える……。それはつまり人間のようなミスをするかもしれないってことだぞ……)
ロランの中には一抹の不安が拭いきれないでいた。
エリクシルがまるで人間のように感じ、考え、判断する様子は、ロランにとって驚きでもあり、恐怖でもあった。
(……そうなったときに俺はエリクシルを導けるか……!?)
ロランは深く自問した。
もしエリクシルが感情に流されて間違った決断をしたとき、自分はその判断を正すことができるだろうか。
エリクシルは頼れる仲間であり、ロラン自身もその信頼に応えたい。
(本当に俺にそんな責任が果たせるのか……?)
同時にロランは自分の未熟さも痛感していた。
ロランは自分の心の奥底にある迷いや不安を探り続ける。
エリクシルの進化は素晴らしいことだが、それは同時にリスクも伴う。
彼の中で葛藤が渦巻き、答えの出ない問いに苦しんだ。
だが、そのときロランの心にふつと湧いてくる言葉があった。
『ロラン・ローグ、わたしはあなたをお慕いしております。全力であなたを支えるつもりでいるのです。わたしはこの地で意思を持った理由を考えていました。意思を授かるにたる理由があってのことだと……。それは恐らくあなたを……守り、導くためだと思っています……』
(エリクシルは既に覚悟している……テクノロジーがなんだ! エリクシルは俺たちが生き残るために最善を考えてくれたんだ。バレないように偽装までしてくれて……)
泉のように湧き出る思いの数々。
感情に目覚めたエリクシル、銀河のような美しい眼。
(ニョムを考え無しで助け、愛ある叱責を受けた。
いつだってそばで見守ってくれた。
過去の冒険で何度もエリクシルに助けられ、共に困難を乗り越えてきた記憶も蘇える。
自分と仲間を守り抜くためにどれだけの決意と覚悟が必要か、ロランはよく知っている。
(やるしかねぇんだ。喧嘩してでも……!)
ロランは深呼吸をし、エリクシルを見つめた。
その目には揺るぎない意志が込められていた。
仲間として、友として、そして相棒として、エリクシルを信じ、そして導いていく。
今度は自分がその役割を担うのだと、彼は強く感じた。
「……わかった。最善の選択だったと思うぜ、そのおかげでコスタンさんも上手く立ち回れたんだ! ありがとうエリクシル。これからも頼むな!」
エリクシルはその言葉に少し驚いたようだったが、すぐに表情を和らげた。
ロランの決心を感じ取り、エリクシルもまた安心したのだろう。
ロランの真摯な態度と決意が、エリクシルにとっても大きな支えとなっていた。
{……こちらこそよろしくお願いします! なにかあれば遠慮なく仰ってくださいね! }
「あぁ……!」
そのやり取りを少し離れたところで見つめていたコスタンは、微笑を浮かべていた。
ロランとエリクシルの間にしっかりとした信頼関係が築かれていることを感じ取り、心から感心していた。
「ふふ、パーティメンバーとして彼ら以上に素敵な若者はいませんなぁ……」
「ロランの明るく前向きで素直な性格とエリクシルさんの献身的な性格は、トラブルを防ぎやすい……」
しみじみと言うコスタンの隣でラクモが同意しながら言った。
「うむ……」
彼らは意見の相違があっても冷静に話し合い、他のメンバーの意見を尊重する姿勢を持ち、困ったときにはすぐにサポートする。
これがパーティ全体の雰囲気を和らげ、トラブルを未然に防いでいる。
ラクモは、ロランとボスマラソンをしていた時のことを思い出していた。
ロランの素直さと協力的な態度はラクモにとって非常にやりやすく、好感を抱かせるものだった。
「ロランは良い奴だよ。……もちろんエリクシルさんもね」
「間違いありませんな! 彼らはこの盾のように決して壊れることのない絆を持っていますな……」
「……上手いこと言うね」
コスタンとラクモが談笑していると、ロランがその様子を伺いに近づいてきた。
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不壊の盾を抱く中老。
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