146 『レベル4』
「おっ! この感じ! 来たぜーっ!!」
全身をめぐる血が滾るよう感覚、レベルアップだ。
3回目になるが、この感覚は結構クセになる。
「ロランもやったね!
「おうっ! ラクモのおかげだ!」
普段見せないほどの子供のような無邪気さを表現するラクモに対して、同じく興奮が抑えられないロランは、まるで勝利の証とでも言うようにグータッチを試みた。
するとラクモは顔をほころばせて笑うと、拳を軽くぶつけた。
「良いね」
「ラクモはびっくりするぐらいよくやってくれたよ! 俺なんかよりずっとだ!」
それを聞いたラクモは再び照れながら、「……ありがとう」とロランにコツンと拳をぶつけた。
エリクシルはそんなふたりをにっこりと微笑みながら見つめていたが、ふたりからグータッチを求められ、顔を一気に喜びで溢れさせた。
{えへへ……おふたりとも、素晴らしい連携でしたねっ!}
ノイズ交じりにグータッチをしたエリクシルは、幸せそうな表情でいっぱいだ。
「エリクシルの戦術が凄いんだ」
「うんうん」
ロランはエリクシルを見つめ、溢れるほどの感謝と賞賛を込めた笑顔を見せた。
ラクモも同様に尊敬の眼差しを向ける。
「……ラクモに銃を使わせるって発想は俺にはなかったからなあ」
彼らはエリクシルのおかげでの勝利を心の底から噛みしめる。褒められたエリクシルは顔を赤くして得意げに胸を張る。その間にも、興奮が冷めやらぬロランはラクモの技を更に讃え続ける。
「あんなスライディングからの射撃! 俺には真似できねぇ!」
「ふふっ、弓と同じで敵に接近されたら、意表を突くのにあれくらいしないとね。経験が活きたよ……」
そんな会話が交わされる中、ふとラクモが何かに気付いて声をあげる。
「おっ、テンパードがなにか落としてたよ。なんだろこれ……」
ラクモが拾ったのはゴルフボールサイズの艶のある白い球体だった。
「うーん……?」
{魔石とはまた違うようですが、これも高濃度の魔素反応がありますね。予想外のボスに予想外のドロップ品です! しかし、ラクモさんでも知らない物とはなんでしょうね?}
「……これは使う時が来たかもしれねぇな」
ロランは思いついたような素振りを見せ不敵な笑みを浮かべると、エリクシルに目配せする。
エリクシルはすぐに理解しポンと手を叩いた。
{……鑑定のスクロールですかっ! 船に戻ったらさっそく使ってみましょうか!}
「へぇ、鑑定のスクロールまで買ってたんだ。相変わらず用意がいいねえ」
船への帰る道すがら、ロランはエリクシルにレベルアップによって魔石に変化があるか尋ねる。
{……結晶化の兆候はありませんね。でも、これで3階層も一緒に攻略できるようになりますよ!}
「あぁ! あのボスをなんとかしないとな」
* * * *
――イグリース 船内
「おおっ、皆さん戻られましたか。おかえりなさい」
「「ただいま!」」
風呂上がりのコスタンがタオルを首からさりげなく下げ、出迎えた。
彼の髪はまだ湿っており、身に纏う衣服には湯気が軽くまとわりついている。リハビリの汗を流して、リラックスした表情を浮かべている。
「話はエリクシルさんから聞いておりますぞ。新種のボスとは大変だったようですな」
「それもエリクシルのお陰でなんとか倒せました」
「やっぱりエリクシルさんがいると安心感が違うよね」
{えっへへ、それほどでもぉ~}
褒められ続きのエリクシルは、頬に手を当て、小さく体をくねらせながら喜びを表現している。
その様子はまるで春風に揺れる花のように愛らしい。
「まるでダンジョンが手の内を変えてきたかのようで、不安ではありますな……」
{生き物のようだと以前仰っていましたけど、今回は明確な殺意を感じましたね}
「あぁ、あの爆音だって防げたからよかったけど、命を刈り取りに来てたぜ! 装備がなきゃ無理だった!」
「本当にそう。あんまり好き勝手に攻略されたから怒ってるのかね……」
エリクシルは俯き、ロランとラクモの言葉を気がかりに思う。
生き物のようなダンジョンが冒険者を誘い、育て、最後には命を刈り取ろうとする。
地下に流れゆく魔素といい、攻略者の魔素を収穫しているとでもいうのか。
なんのために……?不穏な考えばかりがよぎる。
「……して、そのドロップ品とは……?」
コスタンは顎髭を撫でながら、3人を見渡す。
ロランが白い球体を取り出してコスタンに渡すと、「どれどれ……」と食い入るように見つめた。
光にかざし、様々な角度で観察するが、困惑した表情を見せる。
「ふむ、私も初めて目にするものです……。そもそもダンジョンのボスが
「はいはーい! 俺がスクロールを使います!」
「ロランはやる気だね~」
「だってよ、魔法を使っているようなもんだろ? なんつーか、自分が特別なことしてるみたいでいいんだよなぁ。ステータスの時もさ、ぱぁ~っと光ってさ」
コスタンは子供のようにはしゃぐロランに、温かな眼差しを向ける。
その視線には、若者が成長する過程を見守る師匠の優しさと誇りが込められていた。
「……いつのまにやら、ラクモさんとは打ち解けたようですな!」
「うん、
「むむ……!」
もちろん嫉妬ではない。コスタンの表情は、孫のようなロランに背中を預けられる存在ができたことを心から喜ぶものだった。そしてエリクシルがパーティに参加できることになり、早速訪れた困難に見事打ち勝ったことを感慨深く感じている。パーティがより完成に近づいていることに心を弾ませ、自分も早く参加したい気持ちを抑え、リハビリに一層の励みを感じていた。
「……うむうむ! 私も頑張らねば!」
{ふふ……。……では、ドロップ品を鑑定してみましょうか!}
* * * *
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