144 ボスマラソン


 *    *    *    *


 ――『タロンの悪魔の木』地下1階層


 害虫ヴァーミン類を速攻で殲滅しつつ、ボス部屋へと侵入する。


{目標を補足、戦術を展開しますね}


 ロランのARに対象の情報が表示される。装甲の薄そうな弱点がハイライトされ、効果的な射撃位置がマークされる。

 今までも苦戦することなく圧倒はしていたが、この戦術の有無は安心感に直結する。

 また、エリクシルが傍にいるというだけで鼓舞されるものだ。


 鳴動芋虫ランブルキャタピラーを瞬殺したロランをエリクシルは褒める。


{お見事です}


(カッコ悪ぃところはみせられねぇからな!)


 ロランは照れつつも、気になることを口にした。


「なぁ、エリクシル」

{はい、なんでしょう}

「ボスって雑魚よりも魔素の反応は大きい?」

{えぇ、ボスというだけあって数倍はあると思われますよ}

「あっ、ロランもしかして……」


 ラクモが耳をピコッと動かし、ロランを見つめた。


「おう……。30分間のボスマラソン、やってみる価値あるんじゃねぇか?」


 雑魚の再湧きリポップは30分ほどであるのに対して、ボスは再侵入すれば即座に復活する。

 ダンジョンを駆ければ、ボス部屋まで数分もかからない。

 ロランは、今までリポップを待つ間に休憩していたが、その時間をボスマラソンに充てようと提案した。


{やや、いえ、だいぶ無茶な気がしますが……}

「ボスは大体スラッグ弾一発で倒せる。数十発は弾があるから、走る元気さえあればレベル上げの効率も良くなるはずだ」

{それは、確かにそうなのでしょうが}

「それにボスからのドロップ品も期待できる。19時までに弾薬全部使うつもりでボスへ直行してもいい」

「確かに絹糸とか、虫草ちゅうそうのドロップ品は高く売れるはず。魔石も拾えれば弾の動力の足しになるかもね」

{うーん、通路を30分の間は素通りできると考えると、2体のボスのみを討伐可能になるということですね。……わかりました、3階層侵入時にすぐ脱出するのであれば許可しましょう}


 エリクシルが支援可能な1、2階層でのボスマラソン計画が立てられた。

 1階層のザコ敵は先ほど全滅させたので、残りは2階層を2人で殲滅すれば、ボスマラソン場の完成だ。

 そうなったらあとは30分間ひたすら走るのみ。

 ザコ敵のリポップを確認したら再び2人で殲滅し、また30分間のマラソン再開だ。

 これはなかなかの体力勝負になる。


「よーし、ボスマラソン開始だ!」

「がんばろー」

{無理は禁物ですよ! 疲れたらちゃんと休んで、お水をたくさん飲むのですよ!?}

「母ちゃんか!」


 *    *    *    *


 ――数時間後。


「ふう……結構疲れた。ちょっと水分休憩!」

「うん、20週もすればさすがに疲れるよ。それにしても結構なドロップ品が集まったね」


 洞の前で休憩をとる3人、ロランはドカッと根っこに腰を下ろすと、バックパックから戦利品の数々を取り出した。


 ――ドロップ収集品(1-3階層)

 金鎚蜱ハンマーマイトの吻x5、虫の翅x8、虫の甲殻x5、絹糸x4

 形の異なる小さなキノコx7、キノコの菌糸x5、虫草ちゅうそうx3

 木の枝x6、木の根っこx3

 土の魔石x8、風の魔石x6、闇の魔石x3


 ボスマラソン前に訪れていた3階層の収集品は木の枝と根っこ、そして土の魔石もある。

 このダンジョンは若干、土系統に偏っている気もする。

 木の枝と根っこは良く燃えるくらいで、どれも値打ちがないらしい。


 それを聞いて、早々にプニョちゃんの餌となることが決定した。

 こんなのでも美味しそうに食べるから、魔物由来の素材だけあって、外にあるような木の枝とは違うのかもしれない。


「うへへ、これ売ったらいったいいくらになるんだ……!」

「正直驚いてる……。これだけ稼げれば生活も随分楽だ。特にボスのドロップ品が良いね」

「絹糸が4つもあれば、どうだエリクシル?」

{そうですね。これだけあれば何らかの衣装を作成することも可能だと思います。しかし現地の仕立てや服の流行についても調査する必要がありますよ}

「それだったら王都や首都がいいだろうね。貴族向けの専門店があるくらいだ。……僕、行ったことないけど」

「でっかい街、いつか行きたいよなぁ! ポートポランだって結構大きかったんだ。それ以上なんだろ?」

「うんうん、何倍も大きい」

「すげぇ楽しみ」

{王都でしか集まらない情報もありそうですね。路銀に関しても虫草ちゅうそうを売却すれば良いですし、魔石もいくつか収集できていますから、動力としても期待できます。闇の魔石も値段次第では売却するのも手でしょう}

「おお、いいねぇ。現金と動力、両建てだ!」

「うんうん」


 まるで露天商のように並べられた収集品の数々、どれもそれなりの価値があると考えると楽しくなるものだ。


「そういえば……この洞の周り、丸い更地になってねぇか……?」

「そういえばそうなんだよ、もしかして……」


 洞の周りが公園で芝刈りをしたあとのように綺麗に整理されている。

 流石に巨木や大きな植物はそのままだが。


「パウワウッ!」

{プニョちゃんですねっ!}


 プニョちゃんが喜びながら駆け寄ってきた。


「一回り大きくなってる」

「まじで……」

{よく食べたんですね! 偉いですねぇ!}

「パプーンッ!」


 プニョちゃんはハッハハッハ息を荒げ、エリクシルの足元に寝転んだ。

 ゲル状のお腹を見せて、撫でろと言ってるかのように。


{よしよしよしぃー!}


 エリクシルがノイズ交じりに撫でると、感触はないはずだが喜ぶプニョちゃんを見れば、その可愛さに癒される。幾分か疲れも取れたように思う。


「そういや、こんなにドロップ品集めても、レベル上がらないんだぜ!? 結構きちぃな」

{コスタンさんは1レベル上げるのに数日かかると仰ってました。上がれば上がるほど、時間が掛かってしまうのは無理はありません}

「それでも全然早いよ」

「ラクモはそのレベルになるのにどれくらい掛かった?」

「12年くらいかな」

「げーっ!?」

{ラクモさんは料理人の傍ら狩人をしていましたし、本職の冒険者ではありませんものね}

「そうそう。6つの頃から父さんについて森で狩りをしてた。冒険者の手伝いをするようになったのは成人してからの15の時だね。その時が5レベルくらいだったと思う」


{そういえばギルドの書物には冒険者登録ができるのは成人してからと書いてありましたね}

「うん、僕は依頼をこなす気がなかったから、特に登録しなかったけど」

「冒険者を案内するガイド兼手伝いをしてたって訳か。それにしても今はレベル21だっけ? ってことは16レベル上げるのに12年もかかってるのか……」

「こんなに一日で魔物倒すことないからね……。むしろロランが可笑しい」

「くくっ、確かに……」


 皆が笑いながら頷く中、エリクシルが休憩を切り上げる。


{……そろそろ時間ですし、次を最後にしましょうか}


 ロランのレベルは上がっていないが、ケガもなく順調にレベル上げが進められている。

 時刻も18時30分を過ぎた頃だ。

 一行がダンジョンに侵入したため、"宵闇の刻"にダンジョンから這い出るフラッド魔物はいなくなった。

 そのため活動に制限時間があるわけではないが、明日もダンジョンに潜るためにはしっかり休憩をとる必要がある。

 無理せず次を最後にすればいい。


「おう、本日のラストダイブだな。リポップしてるだろうから道中も殲滅しながら行くか」

「わかった」


 しかしこのラストダイブが予期せぬものになるとは、誰も予想していなかった。


 *    *    *    *

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