115 魔石の解析
ラボに向かったロランがエリクシルの報告を聞いている間に、コスタンとラクモのふたりはダンジョンに挑む準備に取りかかることにした。
{通信装置は鋭意製作中です。まずは魔石からの動力抽出結果と、今までスキャンで入手した情報をまとめてみました}
エリクシルがホログラムにデータを映し出す。
スライム:価値 火40 氷60 水40 風40ルース、質量 約5g、抽出量 不明
岩トロール:価値300ルース、質量251g、抽出量686、内包物5
「岩トロールの抽出量、すげぇな」
{土属性だから値段が抑えられているようですね。抽出効率を考えると狙い目かと}
「でも、
{魔石の価値と抽出量の相関関係を調べているのですが……}
ヴォイドの地における魔石の価値は、大きさ、透明度、属性色、バイカラー(2属性)、さらには二つ名などの希少性で決まるようだ。
「普通のシャーマンの魔石は150ルースだって聞いたけど、かなり差があるよな」
{はい。しかし彼らの査定には、考慮されていない要素がひとつあるようなのです}
「それは?」
{『サエルミナの魔法雑貨店』で知りえた情報になりますが……}
魔素濃度は値段に影響せず、重さと抽出(魔素)量も比例しないらしい。
それは岩トロールとシャーマンの魔石を比較すれば明らかだった。
土属性は需要の影響で安価になりやすく、抽出量は複数の要素が絡み合って決まる。
{できれば内訳を知りたいですね}
そう言ったエリクシルは、ちらりとロランの方を見た。
「……あっ、俺のサンプルも必要ってことだな?」
{はい、そのためにラボに来ていただきました}
ピピピ、ピ、ピ、ピー
短い電子音がスキャンの終了を告げる。
「どうだ」
{これは驚きました……}
エリクシルがホログラムに前回との比較を表示して見せる。
透明な水晶がふた回り以上も大きくなり、質量も当初の10.3グラムから増えているようだ。
そしてうっすらと奇妙な形の欠片が3つ見える。
「えぇ……? 3つてのは、『幸運』『アサルトライフル適正』『強化服適正』だよな。それと俺レベル1なのに重さ増えてんの……? なんで?」
{レベル1ならば、魔素はほとんど蓄積されていないはずです。それなのに質量が変化しているということは……。これはふたりの魔石も分析させていただかなければっ!!}
ロランが訳を説明すると、コスタンとラクモはあっさりと検査を了承した。
だが、具体的な方法を知らない彼らは、エリクシルの指示に従わざるを得なかった。
分析台に仰向けになったふたりは、ぎこちない様子で待つ。やがて機械のアームが動き出す。
「おおっ!?」
何事かと振り返るロラン。
「これは、我々を襲うのではありませんな?」
コスタンの本気とも冗談ともつかぬ調子にロランは思わず笑う。
赤いレーザーがふたりをなぞると、コスタンは身を縮めた。
ラクモは苦笑いを浮かべるが、その目には不安の色が隠せない。
{ご安心ください、害意は一切ありません}
エリクシルが淡々と告げると、ふたりはようやく落ち着きを取り戻した。
{……結果です。比較のためにレベルと魔素の濃度から想定した抽出量を併記しました。格については倒した魔物の格を暫定的に表記しています}
ロランは頭を抱え、ショックを隠せなかった。
その様子を見たコスタンとラクモは困惑するが、エリクシルが即座に補足する。
{う~~ん、抽出量は内包物の数とレベル、つまり魔素量で決まっていそうですね。ただ、魔石の質量が魔素量に与える影響は限定的かもしれません。むしろ内包物の数や種類が大きな要因かと……}
「質量と抽出量、それに魔素量……つながりが複雑すぎるな。色については?」
{コスタンさんの魔石がうっすら赤みを帯びているのは、火の魔法が影響しているのだと思います。火の魔法は結晶化せず、色として反映される可能性が高いです。内包物の数とスキル数の一致も興味深いですね}
「コスタンさんとラクモさんはレベル差が3しかないのに、重さも抽出量も全然違うのはなんでだ? 魔法とスキルの数が影響してるってことか?」
{失礼ながらコスタンさんの魔法は、あまり優秀ではないと伺っています}
「うむ、その通り! ちんちくりんの火の粉でずな! わっはっはっは!」
コスタンは大声で笑い飛ばすが、エリクシルは真剣なままだ。
{もし魔法の質が色の濃さに反映されるとしたら、スキルの数や種類が大きな役割を果たしているのかもしれません}
「……村長の特性や博識がレアってのは納得だけど、じゃあ
{私の仮説では、種族ごとに属性が先天的に異なっているのではないかと。ヒュームやシヤンなどのヒト族は無色透明で無属性、という可能性があります。ただ、なぜそうなるのかは謎のままです。ロラン・ローグ、貴方の特殊な状況も踏まえ、更なる検証が必要ですね}
ロランは自分の胸に手を当て、思案に沈む。
この地で魔石が生成された事実は、彼がこのヴォイド世界で新たに生を受けたことを意味している。
「新しく生まれて……魔石は器……」
{はい、その通りです。以前コスタンさんが“魔石は魔素を溜める器”だとおっしゃっていましたね}
「ついこの間の話でしたな。なんだか懐かしい気がしますな!」
「俺はレベル1だけど、格4の岩ゴーレムを倒した。つまり俺の格も上がって魔石の器が大きくなった。それで重さが変わったってことか?」
エリクシルは目を輝かせ、大きく頷いた。
{はいっ! 私もそういう事だと思います!}
「……あのさ、これが分かるととどうなるの?」
ラクモが不思議そうな表情で尋ねた。
{皆さんにとっては、得るものがある話ではありませんが、我々が魔石を船の燃料にするか、売却するかを検討する際の判断材料となります}
「つまり、燃料として期待できなければ売るということですかな? ……もしくは安ければ買っても良いと」
ラクモが「ああ」と納得した様子を見せる。
{さすがコスタンさんですね。理解が早い。今回皆さんにご協力いただいたおかげで、おおよその抽出量が把握できました。今後は魔石の価値をある程度見極められるでしょう。ただし、その価値とはわたしとロランにとっての価値になりますが}
「君たちが得する話なら嬉しいよ。役に立てて良かった」 「うむうむ」
ふたりとも本心で言っているのだろう、清々しい笑みを浮かべている。
「損得といえばさ……。今回の岩トロール倒すのにかかった動力、いや燃料は? たしか弾薬だけで1,000いくらだったような」
{1,200と、槍の製造200の計1,400ですね。ちなみに今回の魔石からの抽出量は976ですのでマイナス424です}
「大赤字じゃねぇかっ! シャーマンの魔石は売った方が良かったんじゃねぇか?」
{討伐の報奨金や依頼の成功報酬を合算すれば黒字ですよ。ゴブリンの魔石を例に計算すれば1ルース当たりの燃料のレートは最低でも0.2になります}
エリクシルがホログラムで計算式を表示する。
{今回の収入は2,740ルースですので、燃料に換算すると単純計算で548。抽出した976と合わせて1,524となり、124が利益となります}
「うぅ~ん……今回は道具とかにお金使っちまったけど、魔石を買って全部燃料代にしてればギリ黒字ってことか……。まぁ……心情的に黒字ならいいのか?」
{その通りです。前向きに考えましょう!}
この結果はエリクシルからすれば上々のようだ。
そう感じ取ったロランは彼女の言う通り前向きに考えることにした。
「……黒字になったと聞いて私共も安心しましたなっ!」
「そうだね」
「それでスクロールと
それを聞いたエリクシルは、大げさ過ぎるほど含みを持たせた表情と仕草でロランの方を見る。
{……良いニュースと悪いニュース、どちらからにしますか?}
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